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第23話 ふたたび伸びてくる手

第二子の妊娠も安定期に入り、職場では産休準備が少しずつ始まっていた。

希美も「お姉ちゃん」としての自覚が芽生えてきたようで、保育園で作ってきた絵を「赤ちゃんのために」と大切そうに渡してくれる日々が続いていた。


優斗は毎晩、お腹に話しかけては、「早く会いたいな」と笑っていた。


──そんなある日、ポストに一通の手紙が届いた。


見慣れた筆跡だった。

開封するまでもなく、それが母からのものであると、直感的にわかった。


《赤ちゃんができたと聞きました。今度こそ、ちゃんと顔を見せに来なさい。お父さんももういないんだし、私に孫を見せるくらい、当然のことでしょう》


短く、強い言葉が並んでいた。

まるで、命令のように。


優斗にその手紙を見せると、彼はしばらく黙っていたが、静かに言った。


「……どうしたいかは、君が決めていい。でも、俺と娘は、どんな選択でも君の味方だよ」


心が、すっと軽くなるようだった。


昔の私なら、「親だから」「育ててもらったから」と、自分を押し殺してでも母に会いに行ったかもしれない。

でも、いまの私は違う。あの手紙の文面に、ひとつとして「あなたの体調はどう?」という気遣いはなかった。


私は、母の“孫を道具のように扱う態度”に、はっきりと距離を置く決意を固めた。


──私はもう、母の娘である前に、「母親」なのだ。

自分の子どもたちを、過去の繰り返しの中に巻き込むわけにはいかない。


私は手紙を破り、深く息を吸った。


「ありがとう、優斗。私……もう大丈夫」


目を見てそう伝えると、彼はそっと私の肩を抱き寄せてくれた。


「大丈夫、君は強いよ。でも、強くなくたって、俺が守るから」


彼の言葉に、胸が熱くなった。


お腹の子が生まれてくるこの家は、過去の呪縛とは無縁の場所にしたい。

やっと手にした「安心」を、私は絶対に手放さない。


そう、復讐とは──


自分の子どもに、同じ苦しみを味わわせないと誓うこと。

そして、自分が幸せになっていく姿を、かつての自分に見せること。


静かに、しかし力強く、私は「母親」として、次の一歩を踏み出していた。

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