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守り龍


仕事終わりの帰り道。

今夜夜勤を組んだ天我とは店の前で別れ、一人で帰路についている。

車も人の通りも無く、しんと静かな夜道。

急ぐことも無し。のんびり歩いていたら、湧いて来た。最初は、結構後方からのコツン、コツン、という高いヒール音。こんな夜更けに物騒な、と思った瞬間寒気がしたから、とりあえず今振り向くのは止めた。振り向いたことを後悔するもんを見る気がして。歩きながら、後方に感じる気配を伺う。感覚を研ぎ澄ますほど、ぞわりと総毛立つ。これで生身の人間だったら、大概失礼な話だが。少しだけ歩調を早める。ヒール音が同じ早さでついてきた。マジか。気は乗らないが、走ろうかと足を踏み出した瞬間。コツン、という音と共に、首元に確かな息遣いを感じた。まだ距離は開いているはず。これやっぱ人間じゃねぇわ。

「っ……!」

飛び退きながら振り向くと、空中で海藻みたいにうねる長い黒髪を広げた女がいた。夜より暗い影を纏うそれは、紛うことなき幽霊の部類。見慣れていても、決して慣れるもんじゃない。今この瞬間も肝は冷えている。髪で女の顔は見えないが、確実にこっちを見ていた。呻き声を上げながら、青白く枝みたいに細い手を伸ばして来る。走る一択だが、地面から足が離れない。触れられる瞬間、持ってたカバンが爆発したように光り出した。

「はぁ!?」

カバンから昇るように飛び出した光は、立派で大きな龍の姿になる。俺の周りだけ、昼間みたいに明るくなった。俺が何か言う前に、龍は女に向けて吹き飛ばすように吠えた。女は一瞬で散るように消える。圧倒的な差。何かちょっと女が可哀想だな。消えたから言えるけど。

龍はくるりと俺の方を向くと、人間の俺にも分かるくらいにドヤ顔になった。

「……ありがとな。あんた、守り刀の龍だよな」

龍は肯定するように息を吐く。気付いたら、俺は笑ってた。龍のドヤ顔を拝めるなんてな。人生何があるか分からない。

「助かったよ。これからもよろしく頼む」

撫でるように黄金の龍に触れると、気持ち良さそうに身体を震わせ、頷くように顔を上下させた。そのまま光となって、カバンへ吸い込まれて行く。

ちゃり、と音がした。見れば、日本刀キーホルダーは、鞘から刀身が抜けた状態で鈍く光っていた。



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