表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/44

守り刀


榊晃次郎は、どことも知れない真っ暗な道を駆けていた。

何かが背後から追いかけてくる。

捕まってはいけない。それしか分からない。

ひたすらに足を動かす。

真っ暗なせいで、前進しているのか自信がなかった。

やがて、行き止まりの壁にぶつかり、榊は仕方なく立ち止まる。他に進める場所がない。

振り向くと、暗闇よりも真っ黒な何かがいる。

人型のコールタールのような。

ねちゃねちゃ、と、嫌な音がする。思わず後退るが、背が壁に付いてしまった。

顔にあたる部分には、細く裂けた口のようなものが、にぃ、と笑っている。口の中に、作り物のような赤が見えて、ゾクリとした。嫌な気が溢れている。

(どうすりゃ良いんだ……?)

両手を強く握り締めている榊の耳元で、不意に声がした。

「ーーお前さん、守り刀を持っているじゃあないか」

「は?」

とっさに、ポケットに手が伸びた。ちゃり、と微かな音がする。触れたそれを取り出すと、あっという間に金色に輝く日本刀になった。鞘には、立派な龍がいる。これは。菫から貰った、

「……日本刀キーホルダー……?」

そんなバカな。思う間に、ぐちゃぐちゃの黒いそれが来る。榊は、鞘から刀身を抜いた勢いで、そのままそれを薙ぎ払った。確かな手応えがあり、あんなに粘着性がありそうな存在だったのに、霧のように消えた。

「マジかよ……」

「お見事」

最後まで正体の分からない声が、明るく言い放った。



「という夢を見た」

「え」

いつもの佐和商店。

榊が暇な時間に、今朝見た夢を菫へ語っていた。

「起きたら、カバンに入れてたはずのキーホルダーが枕元にあったよ」

「がっつりホラーですね。私、本当にお土産屋さんで普通に買ったんですけど……」

菫はただ目を丸くしている。

「すみちゃんの加護かな」

「榊さんの力でしょう」

言われた菫が一蹴するのを、榊は愉快そうに笑う。

「どっちも、ってことにしとくか」

菫が榊を見れば、榊の優しい眼差しに会い、気恥ずかしくなって目を逸らす。

「……よく分かりませんが……本当に守り刀になっているのなら。大事にしてください」

「おう。ありがとな。助かった」

穏やかに笑う榊。素直に礼を言われると思っていなかった菫は、持っていた買い物カゴを派手に取り落とす。

「どうした」

「榊さんのせいです……」

「何でよ!?」

菫は溜息をついたが、やがて小さく笑ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ