表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/44

燻る感情に名はなし


「鍋パーティーしたんだって?」

芳賢の声で、カウンターに居た榊は顔を上げた。問いかけるその人は、カウンターの向こうに立っている。


昼間の佐和商店。

今日シフトに入っていた天我老はもう上がっていて、店内には榊と、遊びに来た佐和芳賢しか居ない。芳賢は、店長である佐和吉瑞の祖父である。

「ああ。ーーしましたね。ここの全員で」

「大変だったでしょ。吉瑞の家、害は無いけどお化け出るし。晃くんと菫ちゃんは」

「いや、俺は何もですよ。すみちゃんの方が大変だったんじゃないすかね」

言葉の割に楽しそうな芳賢に苦笑いを浮かべつつ、榊は答えた。

「……何かあった?」

穏やかに笑ったまま尋ねる芳賢に、榊は内心舌を巻く。相変わらず妙に鋭い。

「分かります?」

悪あがきで榊が聞けば、芳賢は今度は楽しそうに笑った。

「何となくね」

榊はふう、と息を吐き出す。

「いや、大した話じゃないんすけど。ーー八つ当たりしちまったんですよ、すみちゃんに」

芳賢は一瞬目を丸くする。

「珍しいね。晃くんて、あんまりそういうの無いでしょ。こうやって、引きずっちゃうし」

はは、と榊は力なく笑う。その通りなので、返す言葉も無い。

「久しぶりにやっちまいましたね……」

芳賢に、あの晩のあらましを語りつつも、真剣に誠心誠意謝る菫の声を思い出し、榊の中に再び苦い思いが蘇る。

芳賢が何か考えるような顔になって、榊の話を聞いていた。

榊はあの単語だけのメッセージから電話を受け、菫の声を聞いた瞬間、安心した。それでつい、反動で怒気を隠せない言い方をしてしまったのだ。自分でもしまったと思いつつ、驚いた。

それに、事情を知る内、矢張り自分も菫と一緒に行けば良かったか、とか、家の護りにしても随分勝手なことを言うな、とか、何故部屋に行き着けないのか、とか、いろいろ考え、腹が立って来たのだ。

極めつきは、護りが言っていた、来ようと思えば来れる、という言葉。

怒る内、それに囚われて、菫の元へ行く、という一番大事なことが飛んでいたのを見透かされた気がした。悔しいやら情けないやらで、気持ちを鎮めねば部屋に着かないと分かっていても、随分荒れたのだ。

部屋の襖を開けた瞬間、泣きそうな、何か覚悟を決めたような表情の菫を見つけ、更に焦った。後悔もした。あの娘のああいう表情は、胸が痛くなる。帰り道に謝り、一応は解決済みだが、まだ微かに燻っていたのだ。

「ーーまあ、お節介な自己中なんすよ、俺は」

暢気に笑う榊を、芳賢は優しい目で見ている。

「大変だったね。ーー自己中な人は、八つ当たりの自覚なんてしないもんだよ」

榊は目を丸くする。やがて、声を出して笑った。

「一本取られちまいましたね」

「年寄りだからね」

芳賢も楽しげに笑う。

「……抹茶オレ、用意するかぁ」

菫の好物。

「喜ぶと思うよ。菫ちゃん、晃くんと居る時結構笑うし」

「そうすかね」

後三十分ほどで菫は出勤して来る。

どうしたんですか、気持ち悪い、くらい言われそうだなと想像したら、榊も何故か自然と笑みが浮かんでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ