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何かいる

「すみちゃん、じゃんけん。」

「またですか!?さっきは私が負けて行ったんですから、次は榊さんが行ってくださいよ!」

「いやいや、ここは公平にじゃんけんだろう。それに俺、ほら、煙草の補充途中だし」


彼ーー榊晃次郎(さかきこうじろう)--は、これ見よがしに煙草の箱を掲げて来る。

私ーー芽吹菫(めぶきすみれ)--は、呆れ半分諦め半分の溜息をつく。


「何だかんだ言って、結局私を行かせるつもりじゃないですか。何かあったら祟りますからね?」

「だから、じゃんけんって言ってるだろう?」

私はもう一度溜息をついて、手を出す。榊さんも、にやっと笑って手を出した。

「最初はグー、じゃんけんポン!」

私はパー、榊さんはチョキ。

うん……まあ、分かってた。こういう結末だって。

「悪いな、すみちゃん。上がる時、何か奢ってやるよ」

「……何で上から目線なんですか。」

これ以上言っても不毛だ。

私は言葉を呑み込んで、カウンターの上のメモを手に取った。


ここは、二十四時間営業じゃないコンビニ・佐和(さわ)商店。

コンビニじゃなさそうだけど、先々代店長からコンビニと言っているので、コンビニだそうだ。

私と榊さんは、このコンビニのバイト店員。

私に諸々の仕事を教えてくれたのは、この榊さんだ。

彼は、仕事は出来るし見た目はそこそこダンディなのに、喋ると途端にちゃらんぽらんに見えてしまう残念なおじさん。

私は週四で、夕方五時から閉店の夜十一時までのシフトに入っている。

店自体は、そう広くないし、お客さんもほぼ馴染みの人しか来ない。

他のバイトの人たちも、みんな気さくですぐ打ち解けられた。

店の前は大通りで、車も多く治安もそんなに悪くない。周りには、スーパーや銀行、ブティック、本屋なども有り、決して田舎の一軒屋では無い……のだが。

一つ、不可解で理解に苦しむ現実があった。

ーー出るのである。世に言うところの、所謂、お化けが。

主な出現場所は、店内から繋がる雑多なものや在庫をしまう倉庫と、トイレ。

正体は分からないが、分からなくても良いと思っている。居るものは居るんだから、しょうがない。実害はとりあえず無いし。

それでもこうして、夜になってから倉庫に在庫を取りに行く時は、どっちが行くかのじゃんけんをしてしまう。榊さんと一緒に居る時だけだけど。

このコンビニに居るモノの姿と声が分かるのは、何故か私と彼だけ。害は無いけど、自分から行きたい場所でも無い。だから、大人げもなくじゃんけんなんかしてしまうのだ。


私は買い物カゴを手に、倉庫のドアをぎいと押す。クーラーを入れてもいないのに、ひやりとした空気が全身を包み込む。

私は余所見をしないように、棚に向かう。倉庫もそんなに広くない。むしろ狭い。

棚だって、壁に沿って四個くらいしか無いし、通路も人が二人すれ違うのがやっとだ。

メモにあるものはお菓子類で、奥の棚に行かねばならない。

入り口からの通路を左に曲がり、奥の棚に向かう。お菓子を探す視界の隅に、やっぱりあれが映った。壁と棚の隙間数十センチの場所に、黒い人影が佇んでいる。むろん、この世のものでは無い。

私はそっちを見ないように、電光石火の速さでお菓子をカゴに放って、倉庫を出た。

「居たか?」

カウンターの中で、まだ煙草を出していた榊さんが、ニヤリと笑って私を見る。

私はぶんぶんと、勢い良く首を縦に振った。

「居ました、居ました。超居ました。」

「一種類、取り忘れた煙草あんだけど……良いわ、明日昼の奴にやらせる。」

睨む私の視線を受けて、榊さんは言葉を引っ込めた。

倉庫のドアから離れた瞬間、男性の笑い声らしきものが聞こえた気がしたけど、気のせいだということにした。


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