1
「それで、前世の仲間を探すのを手伝ってほしいんだ!!!」
「………は?」
事の発端は、数時間前に遡る。
◆◆◆
「あの……さ、今日って時間ある……かな?」
「突然何?いつも通り誘えばいいじゃん」
ある日の朝HR前。幼なじみが緊張して誘ってきた。
毎朝共に登校し、普段から仲もよく、毎日勉強やカフェに誘い誘われが当たり前だった。姉弟のように周りから見られていたし、自分も思っていた。
・・・
「ねぇ、今日はファミレス行ってパフェ食べようよ!」
「いいね、ちょうど食べたいと思ってた」
「あ、そういえば新しくできた店、長時間勉強歓迎なんだって!テスト近いし、今日行って勉強しない?」
「(今日は家で勉強しようと思ってたけど……)まぁ、いいよ。でも、頑張るからって色々食べすぎないでよー、金欠なんでしょ?」
「はっ!そうだった!」
「ほんっと、食い意地張ってるんだから」
「いやいや、たくさん運動・勉強する男子には栄養いるでしょー」
「ふふっ」「ははっ」
・・・
なんてやり取りが普通だった。なのに今日は一体何があったのか。
「いいけど、何かあったの?悪い事でもした?」
「してない!けど……。ちょっと、ちゃんと話したいんだ」
「……ふーん、わかった。じゃあまた放課後ね。店選びは任せていい?」
「いや、今日は僕の家で話したい」
「了解、あとでね」
「うん、また」
どこか個室の店ではなく、家を選ぶあたり、なんだか少し違う感じがした。もちろん、毎日店というわけにはいかないため、互いの家にはよく行っていたが、ちゃんと話そうと言うのは初めてだった。緊張が移ってきたかもしれない。
◆◆◆
放課後。学校を出たあと、すぐにやってきた渡の家。
“渡”は彼の名だ。ちなみに私は“彩音”という。
「おまたせ。委員会忘れててごめん、待った?」
「ううん、全然。むしろお茶出す時間できてよかった」
「それを待ったっていうんじゃないの?」
「大丈夫、言うほどの時間は経ってないよ。ほら、座って」
促されるまま、いつもの椅子に座る。お茶を出されるだけですでに違い、落ち着かない。ソワソワした感じが体を襲った。
「今日は父さんたちいないの?」
「父さんは出張で明後日帰ってくる。母さんは同窓会で朝帰りだって。タイミングよかったね」
タイミングがいいんだろうか。そんなに聞かれたくないような大事な話をするつもりなのか?やっぱり何か悪い事をしたのか?それともいじめを受けていて、相談しづらかったとか?だとしたら親がいたほうがいいはずだが。
「なんか、突然ごめんね。びっくりしたでしょ」
「いや、少ししたけど……覚悟はできてるから。なんでも言って」
「そこまで重く考えなくていいよ……って言いたいけど、まず話さないことには解れないよね」
「大丈夫、なんでも受け止めるから」
「頼もしいなあ〜。じゃあ、早速なんだけどさ、最初に1つ言っておきたいんだ」
渡は向かい側に座って、真剣な眼差しで口を開いた。
「もし、僕が言ってることが不思議だと思ったとしても、変な宗教とかに入ったわけではないし、頭がおかしくなったとかでもないから安心してほしい」
………………?今なんて?
「そのうえで聞いてほしいんだけど、」
彼は緊張した顔で、一拍開けてこう言った。
「実は、僕は前世が勇者で、一緒に旅をした仲間に声をかけたいから、手助けしてほしいんだ!」
………はい?
「それで、前世の仲間を探すのを手伝ってほしいんだ!!!」
「………は?」
ついに声に出てしまった。え、頭がおかしくなったんじゃなくて?
「突然ごめん、混乱させたよね」
「いやいや、混乱どころじゃないし、本当に頭おかしくなった?」
「だからなってないって!本当なんだよ!」
「うーん……」
「そんな目で見ないでー!」
◆◆◆
「とにかく、細かいところまで説明してもらわない限りには空想だとしか思えないからね」
「わかった」
彼が言ったことを簡潔にまとめると、
まず勇者はやはり魔王を倒すためのもので、よくあるパーティーを組んで挑むものだったらしい。
それぞれ性格は個性的だったが、仲はよく、魔王も倒すことができた。
しかし、致命傷を負わされ、または魔王の呪いを受けて全員瀕死になり、死ぬ前に最後の力を振り絞って同じ場所に転生できるように魔法をかけたんだとか。
「それで、なんで今になって、しかも部外者の私に声をかけたの?」
「……やっぱりそうか」
「?今何か言った?何その含み笑い」
「ううん、何でもないよ。今になったのは、うーん、えっと……。すごく言いづらいんだけど」
「なに?」
「その、……いろいろと、勇気が、でなくて」
「あー、まぁ、そうだろうね」
彼は元気で人懐っこく、幼い印象を与えるが、知らない人や初めてのことにはいつも緊張し、不安が勝る性格をしていた。しかもこんな突拍子のない話をするならなおさら、相手が私だとしても怖かっただろう。
「でもさ、環境とかタイミングとか、ちょうど揃ったから、今しかないと思って」
「うん、だいたいは理解したよ。たぶんほんとなんだろうってことも」
「まだ疑ってたんだ……仕方ないかぁ」
「そりゃあそうでしょ、物語の話そのものなんだもん」
「じゃあ、確信してもらうためにももうちょっと情報があるんだ」
少し緊張が解けて、話すことに乗ってきた調子で彼は続けた。
「メンバーだったのは僕を除いて5人」
「結構いるね」
「1人は……まぁ、いろいろあって除くんだけど、聞かないでほしい」
「気になるけど……わかった。渡は話すべきことは話してくれるって知ってるし」
「ありがとう、さすが幼なじみ!それで、あとの4人はね、
1人は剣士の男で、僕が勇者になる前から親友なんだ。旅も喜んで付いてきてくれた。世話焼きなところがあるけど、ちょっと抜けてる。
1人は魔法使い兼ヒーラーの少女で、いつもここぞというときに助けてくれてたんだ。きっちりしてて、お金計算とかは彼女がやってくれてた。
1人は弓使いの少年。特にヒーラーの子と仲が良かった、すごく優しい子なんだけど、弓を使うときは真剣すぎて怖いぐらい殺気立ってた。
最後は道具師の男。武器に命を注いでて、でも武器作りだけじゃなく本人もすっごく強い。頑固だけど頼りがいがあったな。
みたいな感じで、たぶんみんなこの街にいるはずなんだ。姿も性格もだいたい同じで」
「なんか、聞けば聞くほど物語感増してくし、個性的な性格ってのが一致しないけど……。やらないことには本当か嘘かもわからないもんね」
「ということは!」
「しょーがない、手伝うよ」
「ありがとう!彩音ってほんといつも頼りになるよね!」
「ちょっと、便利屋みたいにしないでよ!もう」
まぁ、私が何かするとしたら街歩きとちょっとした声かけくらいだろうし、なんとかなるだろう。
このとき、断っていればよかったのかな。
そうしたら、こんな思いをしなくて済んだかもしれないのに。
◆◆◆
1週間後。私たちはとある公園にいた。渡が先日、そこで元剣士を見たと言ったからだ。
「本当にここであってる?もう30分ぐらい経つよ、勉強できなくなっちゃう」
「もうちょっとだけいい?きっとこの時間ぐらいに来るはず……あ!来た!」
誰かが公園に入ってきた瞬間、彼はさらに身を隠した。
ちなみに、今私たちは草むらの裏に身を隠している。彼のたっての希望だった。
「いやだ!いきなり直接はきついよ!ただの他人になってたらどうするの!?」
「いや、渡が会いたいって言い始めたんでしょ!会ってみて、他人だったら間違えました〜でいいじゃない」
「その強気が羨ましいよ……。だから頼もしいと思って誘ったんだけどさー、こればかりはちょっと……」
と一悶着あったあと、結局共に隠れることになってしまった。気づいた人の視線が痛い。
「うん、あの人だ!間違いないよ」
「じゃあさっさと行くよ」
「え??ま、待ってよ!」
私はこれ以上隠れているのは嫌だったので、さっさとその人に近づいていった。
「あの、ちょっといいですか?」
「!はい、なんでしょうか」
「あの……変なことを聞くんですけど、そこで隠れている彼に、見覚えはありませんか?」
これでもし彼が知らないと答えたら、私と渡が変人になってしまうが……覚悟の上だ。そうなったらすぐ立ち去ればいい。
また、私はやっぱりあまり信じられていなかったため、すぐに去る準備をしていた。……だったのに。
「え……カローヴィ?」
「……え」
「!っそうだよ!」
「おまえ、ひっさびさだなぁ!ちゃんといたのか!」
「いるに決まってるでしょ、まったく……。でも会えて嬉しいよ!」
「ああ、俺もだよ!今日散歩に来るか迷ったけど、勘が働いたのかもな!」
「なにそれ、まあ君の勘は昔から結構当たるけどさー」
……なんだろう、モヤモヤする。
もちろん、こうなる可能性はあったし、むしろそのほうが高かったはずだ。
でも、知り合い、いや『親友』だと気づいた瞬間に彼が態度を大きく変えて大胆になったことにびっくりして、……少し嫉妬しているのかもしれない。
いや、これは違くて、もっと他の……この光景を“見た”ことがあって、それが思い出せないような……
「彩音?どうしたの?」
「……あ、ううん、なんでもない。大丈夫」
「?ならいいけど……」
あれ、今何考えてたんだっけ。いつの間にか考えが霧散していて、また蓋が塞がったような感じがした。気のせいか。
そんなことを思っていて、渡が暗い笑みを浮かべていたことに私は気付きもしなかった。
◆◆◆
「こっちはルーノ、僕の親友だよ。えっと、今の名前は……」
「ああ、今の名は透って言うんだ。よろしくな」
「よ、よろしくお願いします……?」
「はは、まあ仲良くしてくれ!」
「ルー……透、彩音が困ってるよ」
「おっとごめんな、昔っからグイグイきて怖いって言われてたんだった……これで許してくれ」
突然マドレーヌを渡された。え、この人さっと取り出したけどどこに持ってたの?しかもこれ、手づくり?
「昔から変わらないね、困ったらお菓子に頼るの」
「うっ……やめたいとは思ってるんだけど。子供たちは喜んでくれるし、職場の人もおいしいって言ってくれるからやめられないんだよなー、それでだいたい許してもらえるし」
「物に頼るのはやめたほうがいいよ。うまくいってるならそんなに言わないけどさ、もしもだってあるじゃん」
「ああ、ありがとな」
話からすると、どうやら彼は保育士か幼稚園教諭をやっているらしかった。筋肉質でこの性格だと、納得がいくような気がした。園でみんなに好かれていそうだ。
「え、ええっと……」
「!ごめんごめん、また話そらしたな」
「もう、これ以上彩音混乱させないでよ。とにかく、彼はそんな感じ」
「おう!で、やっぱりそっちは『・・「!ああ、そうなんだ!幼なじみの彩音!もちろん、親友だよ」
「!」
「そうか……。よかったな、カローヴィ」
「なんで涙目なの……。それと、言ってなかったけど今は“渡”だから」
「わかった。うんうん、よかったなぁ」
「ちょっと、なんか勘違いしてない?……あ、ごめんね彩音、またやっちゃった」
「ううん、私は大丈夫だよ」
『親友』とはっきり言われて嬉しかった。でも、遮ったのは何だったんだろう。透さん、大事なことを言おうとしてたような……
「さ、挨拶と雑談も済んだし、帰るよ彩音」
「え、もういいの?」
「うん、また会えるし、今日は彩音と勉強するほうが大事!」
「ははっ、大事にしろよ!じゃあまたな!」
「うん、またねー」
「ま、また……」
なんだか嵐のようだった。話にもまったくついていけなかったし……あといろいろ理解が追いつかない。
「彩音、ごめんね?結局僕らだけでたくさんしゃべっちゃったね」
「ううん、大丈夫……。なんかいろいろありすぎて頭がついていけてないけど」
「ほんとにごめんね!でも、これで本当だって信じてもらえたでしょ?」
「それは……まぁ、うん。信じるしかないでしょ」
「!ありがとう、彩音!今日も付き合ってくれてありがとう、あとは彩音との時間にするから」
「そんなに気を遣わなくても……。でも、ありがとう」
「うん!たくさん勉強しようね」
正直これから勉強できる気がしないが……。とりあえず切り替えて、考えるのはお風呂かベッドでじっくりしようと思った。
◇◇◇
誰もが寝静まったあとの深夜。
俺は、あの公園に向かっていた。
「あ、やっときたか。もう来ないかと思ったよ」
「お前こそ、こんな時間に抜け出していいのか?」
「ああ、家は近いからな。古くて、周りあんまし住んでないし」
「そうか」
「で?そろそろ聞いていいか?めちゃくちゃ気になってるんだけどさ」
「なんだ?」
「なんでこんなまどろっこしいことしてんだよ、
魔王サマ」
俺は、薄暗い笑みを浮かべた。
◇◇◇