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悪巧み




「だからねっ拝まれたりしたら、まんま村人をたぶらかした悪い魔女みたいに見えるじゃん!? だから禁止! 聖女って言うのも、崇めるのも禁止! お願いします!」


アオイは必死の形相で「もちろん拝むのも禁止!!」と、付け加えた。


このまま、死ぬまでの時を虐げられて過ごすしかないのだと、困窮していたどん詰まりの自分たちの不幸をすくいあげてくれた聖女様の訴えに、村人達が困惑する。

どんなに否定されても、この女性がなんの見返りも求めず、生きる喜びを与えてくれた事には代わりないのだ。


オロオロと、お互いを『聖女か否か』と牽制し合うアオイと村人達に、業を煮やした聖霊様が救いの言葉を落とす。


「アオイは聖女などでは無い。以後、アオイを『聖女』と崇めた者には、恐ろしい呪いの報いを受ける事になるだろう」

「「「は、ははあっ!」」」


不意にもたらされた聖霊様の神託に、村長含め村人達が一斉に地面に頭を擦り付けた。


待って。なにそれ怖い。全然救いの言葉じゃなかった。


「ハチ!?」

「この者達には強引に言い含める“命令”も、時に必要な事なのだ」

「そんなっ! この人達と私は平等。基本的人権の尊重! あるでしょ!?」

「ない」

「待って?」

「この世界は王侯貴族が牛耳る封建社会。位が全て。絶対なのだ」


驚くアオイの身体に「平等などあり得ない」と、その黄金色の毛並みをヌルリとすりつけて、聖霊様は言いきった。なにそれ怖い。


「それをアオイが『受け付けない』と言っても無駄な事。群選択の中にある弱く力の無い者どもは、強く力ある者に従うより他に生きていく術がないのだ」

「その力ってなに?」

「財、数、単純な暴力。それは向こうと変わらないな」

「封建社会怖い!」


お互いうまくやっていく為に必要な力がそれって本末転倒じゃ無いか。


「村のみんなと同じ様に接してほしいってそんなに大変な事?」

「アオイには力があるのがもうバレている」

「力なんて・・・網を引いて魚を獲ってくれたじゃん。私1人の力じゃ無理だわ」


その言葉に、ライズ村長が驚いた顔を向けた。


「そんな事、聖女様がして下さった事に比べたら到底引き換えにできる事ではありません」

「私は私のできる事をしただけで、そう、同じなんですよ? お互いにできる事が違うのだから」


魚介が食べたい私は漁などできない。でもその道具を用意する事ができる。目的の一致を経て協力しあった。だからみんなで美味しく食事ができた。それだけだ。とアオイは切々と言い募った。


「その思想は、ここには通用しない」

「わかってる。これって危険な事よね。分かる。でもだからって、こんな()()で相手を従わせたら『やはり魔女だっ!』って迫害されてしまうのも避けられない未来よね!?」


アオイの心配が伝わり、聖霊と村人達が「グムム」と言葉を失ってしまった。


「しかし、ここではより強い力で捩じ伏せるより他に方法がないのだ」

「ハチだって、私に『聖霊様』って呼ばれるの嫌なんでしょ!」

「ギャ! そうくるか!」


崇め奉るぞって脅し文句だっけ?

アオイは、なんだかとても悪い事をしている気分になった。

正論は相手を傷つける。

今まさに自分がしている事が、()で捩じ伏せる行為となにが違うのか。


「私はみんなよりできる事があるように見えるかもしれないけど、それはあくまでみんなとは()()()()()()()ってだけで、私1人じゃ生きてさえいけないよ?」

「俺がいるではないか!」

「ハチったら・・・」


アオイは、眉を下げてハチの頭を撫でた。

それまで黙って静観していたナナが口を開いた。


「アオイが魔女だってのも、聖女様だってのも、秘密にしてれば良いんだよね? みんなが心の中で思ってれば良い。でもバレない様にすれば良いの。だってどっちのアオイもアオイだもん。これでどう?」

「いや、そりゃ人の考えまでコントロールするのも悪い事だけど・・・」

「なるほどそれならば、魔女だと迫害されることもない。我々村の者も努力いたします」

「えぇっ・・・」


村長がナナの提案に納得してしまった。時に子供の言葉というのは恐ろしく的を射るとはこの事か。

でもそれはそれでどうなの? 落とし所が、隠れキリシタンとか、怖すぎるんだけど?


「うむ。ナナ。やはり見どころがある。皆もそれで良いな!」

「「「かしこまりました!」」」


聖霊の号令に、皆がほっとした顔をしてやっと立ち上がってくれた。


「ねぇもしかして、ここの貴族達にはノブレスオブルージュとか無いの?」

「無い。無くなった」

「んもうっなんで言い切るかなぁ」


アオイは諦めて、助け舟を出してくれたハチの頭と、自分の出した折衷案が通り得意顔のナナの耳の付け根を交互に撫でさすった。

仕方ない。思想の変化には何事も時間がかかるものだ。そしてそれは自分のすべき事じゃ無い。たくさんの選択肢の中から、誰もが皆自分で考え自分で選ぶ。そんな世界になると良いな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「とにかく、()()自分と隣り合う人には笑っていて欲しいの。それが私の幸せ」


そして凪の生活を送る。それが当座の目標だ。


宣言した通り、自分は自分のできる事をして生活の改善をしよう。

そのためにまず目に見える人達の衣食住の充実を安定させたい。

村長に「今度どうしますか?」と質問されたアオイは「のんびりしたいの。そもそもそれだけの事だった」と呆気なく答えた。


とりあえず、食の心配は直ぐにでも改善される事だろう。これだけ海産物に恵まれているのだ。他の物と交換できる様になるのもそう時間はかからないだろう。


「衣、は、交流品かな?」

「以前は。今はダンジョンのドロップ品です」

「あ〜・・・ダンジョン・・・って?」


やはり避けては通れぬか。

アオイは観念してダンジョンについて尋ねた。


「ダンジョンではね、肉も落ちるよ!」


ナナが嬉しそうに口に出した。


「肉!?」

「うんとね、ボアと、ブルと、コッコがいるの」


猪と、牛、だろうか? それと、コッコは、鶏だろうか? 卵もとれるのかな?

などと、名前から想定される動物を考えていると、ライズ村長が続けて補足する。


「おおよそ必要な生活用品はダンジョンで手に入るのですが、先日の(いけ)に・・・奉納で、ダンジョンに調達に出ていた若者達は、みな、その、殺されて、しまいまして・・・」

「奉納・・・」


チラリとハチの方をみると、「人間の命なんぞいらない」と、聖霊様がおっしゃられています。ですよね。おそらく宗教絡みの誰かが言い出した事なのだろうが、その成果が何十年も出ていないのに続けてるって違う目的がありそうだなぁ。例えば生殺与奪を誇示して、市井の民草を掌握するとか。


「・・・ヨシ。やっぱりまずは件の契約書をみせてもらいにいきましょうか」

「えぇっ!!?」


なにをするにも、まずその内容を知らない事には、二度手間を避けるためにも。


「ですが、その、塔には犯罪奴隷の他にも、その、騎士や貴族が・・・」

「みんなも仕事に行ってるんでしょ? いきなり切り掛かって来たりはしないんじゃ無い?」

「ですが、いえ、いきなり剣を向けられる事はあるかもしれません」


「えぇっなにそれ怖い。まぁでも、遅かれ早かれこっちに来ると思うのよね。騎士? たくさん殺しちゃったし」

「え、あ、あれは、聖霊様が・・・」

「そうそう。こっちには聖霊様がいるんだから。大丈夫よね? ハチ」

「もちろんアオイの事は俺が守るが、力を使うのは嫌だったのでは無いか?」


あら、さっきの事、根に持っているのかしら。


アオイは、フフっと笑って半目でこちらをチラリと見たハチの頭を撫でながら言った。


(ちから)は、より強い力に使ってこそ、正しい使い方でしょ」


ハチは「なるほど」ニヤリと、その口端を上げた。悪い顔もカワイイ。

なんにせよ機嫌が治ったみたいで良かったよ。



ライズ村長に連れられて塔に向かうと、その大きさがわかる。さながら高層ビルのような土台だが、パッと見、石の壁を積み上げただけの躯体でどこまで高くするつもりなんだろう? そんな事が可能なのだろうか? それも魔法的ななにか?


アオイが、ふむふむと建設現場を見ていると、騎士然とした2人が、雑談しながらこちらに向かって来た。

威圧的な感じはない。むしろなんだかダラダラしている。


「おはようございます。本日はお伺いしたい事がありましてまかりこしました。責任者の方とお目どうりできますでしょうか?」

「責任者って言っても、なぁ?」

「みんな死んじまったしな。アハハっ」


軽っ!? なに? お仲間が亡くなったのにそんな感じ? アイツらよっぽど嫌われてたんだなぁ。


「つまり、今は責任者不在の状況?」

「いやぁ〜責任者って、序列で言ったら俺? 俺になんのかなぁ。え〜っと、なに? なにが知りたいの?」

「・・・村長が新しくなりましたが、ご存知の通り急な事で引き継ぎも無く。村が結んでいる契約の内容を知りたいのですが」

「え? へ? なにそれ」

「村人達が、塔の建設に対して過去にした契約書があるはずなのです」

「契約書? 知らないなぁ」


「お前知ってる?」と、隣の騎士風の男に聞くと「知らん」と聞かれた男も答える。

わぁ埒あかね。


「建設が滞り、お困りではないのですか?」

「う〜ん、俺らも雇われてここにいるから詳しいことは何もわっかんないんだよねぇ」


改めて周りを良く見ると、働いている風の労働者は1人もいない。みなダラダラと所在無くその場にただ居る。と言う風だ。困ったな。


「おそらくあと10日もすれば補充の貴族達がくるからそれからじゃないかなぁ」

「お二人は騎士や貴族の方では無いのですか?」

「一応隊員だけど、王都の騎士はいないんだよ。ここの領主に雇われてるだけで、俺は遠い親戚の三男だし、こっちも似たようなモン。残ってる衛兵達も貴族じゃない」

「俺らもどうして良いかわかんないんだよね。奴隷達の扱いも知らないし神官も官吏もいない。仕事が始まるのは王都から人が来てからじゃ無いかな?」

「なぜ10日も?」

「そりゃ、王都からここまでどんなに早馬を飛ばしても10日はかかるからな」


なるほど。では知らせに行った人がつくのも10日、戻りで10日、行き帰りだけで20日かかるじゃん。


「その間、村人の労働力の提供は無しでよろしいので?」

「そう、なるかなぁ」

「来てもらってもこの状況だしね」


ザルぅ〜。呑気なもんだ。でも仕方ないのかしら?

アオイは「設計図や建築予定表のようなものはないの?」と聞くが、「わかんない」と朗らかに答えられた。あれ、この人達、とても若く見えるけどもしかして子供なのかな?


「皆様は代わりのものが来るまでどうお過ごしになるおつもりで?」

「どうって?」

「どうもしないよ。ただ待つだけ」

「そう、ですか・・・では、村では漁が再開できるようになりましたので、そちらの方に尽力させていただきます。よろしいですか?」

「良いんじゃ無いの?」


「なあ?」と男が隣の男に声をかける。

同意を求められて「良いんじゃ無い?」と、聞かれた男も答えたので、アオイはライズ村長を見た。

ライズはオロオロと騎士達とアオイの顔を見比べる。

あらぁ、どうしようかな。そうだな。威圧的では無いし、ここは一つ仲良くなっておくか。


「それでしたら、こちらで一席設けますので、皆様は成人なさってる? お酒でもいかが?」

「「え!?」」


夕食に、浜辺で海産物を振る舞うので皆様でいらっしゃって。と約束して、その場を後にする。

何人ぐらい来るのか聞かなかったけど、【スキル】を使えばまあなんとかなるでしょう。

ライズ村長に、もう一度網を引いてもらえるか聞くと、それは問題ないようだ。ヤダァ〜連チャンで宴会だわぁ!


「しかし我々は、あの方達と食事中の同席を許されていないのですが・・・」

「あら、そうなの? んじゃ私だけでもてなすから良いよ」

「そんなわけにはいきません!」

「え? なんで?」

「なにが、あるか・・・」

「大丈夫、大丈夫。一緒にご飯食べるだけだよ。昨日のみんなと一緒。本当はみんな一緒が良いんだけど、決まりならしょうがない。みんなはいつも通りにしてて良いから」

「で、でも・・・」

「大丈夫よ。いざとなったら料理に毒でも入れて皆殺しにするから」

「ヒ!?」


アオイはフフと「冗談です」と笑っておいた。ライズ村長の眉が下がる。

さて、料理を作る傍ら色々仕込んでおきましょうかね。

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