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空を飛ぶための翼




アオイがみんなの目の前に、ハイエース[エース号]を出すと、最初は驚いていたものの、自国では馬より、この自走する馬車が主流でしたがなにか?とみんなを乗せて少し走れば、空を高速移動する馬車よりは相当マシだと理解していただけたようで、ミルコは安堵の表情で言った。


「これでしたら、なんとか・・・」

「いいなぁ俺も行きたい〜」

「ビアさん達を連れていけないだろ?」

「だよなぁ」


マークが「林の中の壊れた荷馬車に馬が居なかったのはこれで引いていたからなのですね」と、感心してしまったのが純粋すぎて、嘘はつくもんじゃ無いなと、アオイは改めて思った。


[エース号]の試乗は、ミルコを助手席に、後部座席にマークとナナとシンク、[借金奴隷]のダン、チップ、ツォ、テオドア、トムが乗っている。

ハチは小さくなって、運転席のアオイの膝の上だ。


マークは[犯罪奴隷]達と長期間離れられないので、今回は諦めてもらおう。と2人のやりとりに、アオイは、前々から思っていたことを聞いてみた。


「そういえば[奴隷]って買えるんですよね?[借金奴隷]っておいくらぐらいかしら?」

「は?」

「え?」

「とりあえず権利を買い取るにしても、借金返せば奴隷じゃなくなるんでしょう? 王都に行くついでに済ませちゃいましょうか?」


[犯罪奴隷]は、国の労働力になることが刑罰なので、[奴隷印]で縛られ、その自由を許されていないが、契約書で縛られている[借金奴隷]は借金さえ返せば奴隷ですらなくせる。


「いくら便利に行けるようになったとしても、何度も長距離移動はめんどくさいじゃん? これからは村で色々やらなきゃいけないことあるし」

「あ、いや、そうゆうことでは・・・」

「あ、わざわざ買わなくても借金返せば良いのか。全員でいくらぐらいだろう? そうゆう手続きもミルコ様、お願いできたりします? お金は出しますので」


なんならここで黄金を使っても良い。「今使わずしていつ使うのだ」ってやつだ。


[エース号]で塔の周りをぐるぐる回りながら、その乗り心地を順番に試していたのだが、さっきまで「わぁ」とか「すごい」とか喜んでいた後部座席が途端に静かになってしまった。

しまった。センシティブな話題だったか。と、アオイは塔の正面に車を停めた。


「ごめんなさいこんな話急に。でも、良い機会かな〜って」

「アオイ様に、お金を出してもらうわけにはいきません」

「なぜ?」

「え?」

「なにがダメなの? あ、いや、そうよね、そもそもおいくらなのかしら。値段聞く前に払うとか言っちゃダメよね」


確か、[犯罪奴隷]は終身刑の労役形だから、買取はできないけど、[労働奴隷]と[借金奴隷]は交渉で買い取れるってことは、当然、買取金額は労働契約人金額や借金を超えないだろうし。


「[労働]の方は契約が終われば奴隷じゃなくなるんだろうけど、[借金]は利子が増えるとキリがないし、早いうちに買い取っちゃったほうが良いかなって思ったんだけど?」

「それでどうしてアオイ様が金を出すことになるんです?」


助手席のミルコの質問に、アオイはあっけらかんと答えた。


「今なら泡銭があるから、有用なことに使いたくて」

「な、なに言ってんでんですか!?」

「いや、利子ってバカにならないよ? 借金返すのは早ければ早い方が良いって・・・」


「金貨1枚です」

「え?」


商人をしていたテオドアが答えた。


「ダンと、チップとトムの借金はおそらく金貨1枚。親に売られた子供の奴隷は、娼館が買い取るまでは利子はつかないのです。売り買いがしやすいように」

「え!?」

「俺は元そこにいたから、ここに連れてこられた時は金貨10枚払ったって隊長様に言われた」

「私は、2年前に家屋敷を残すために金貨1枚で身売りしましたので、利子を考えると金貨3枚は必要だと思います」


「ツォがここに来たのはいつ?」

「テオドアと同じ2年前・・・」

「テオドアさん、利率ってみんな一緒?」

「同じはずです」


「ん〜・・・金貨50枚もあれば大丈夫そう?」

「いえ、金貨自体が大金です。ツォはいつからその店で働いていたのですか?」

「気づいた時にはもうそこにいたよ。店を移ったことはない」

「では、ツォもやはり親に売られた口ですね。金貨10枚はおそらく利子分でしょう。ここに来た時点で金貨1枚に戻っていたのなら、私と同じ金貨3枚程度かも知れません」


「じゃ金貨9枚。1枚多めに見積もって金貨10枚。いけるいける」


あくまでアーサーがワインを買ってくれればの話ではあるが、ダースで用意しても即決してくれそうな勢いだった。今なら。


「アオイ殿! それがどのぐらいの金額かご存知なのですか!?」

「え? えっと、宿屋1泊1000ジェンだから、その1万倍で1千万ジェンね? 宿屋27年分ぐらい? でも安宿計算だから、買えるなら家買った方が良さそうよね?」


「ひとり暮らしなら金貨1枚で十分ですよ! いや、そうゆう話じゃない! お前達もいくら奴隷とて卑しい話はよせ!」

「マーク! 言い過ぎだぞ!」

「わかってるよっ! でも、アオイ殿がなにも知らないからって、こんな、騙すような真似っ」


マークが後ろを向いて語気を荒げる。

何も知らないとは失敬な。いや何も知らないけどさ。と、アオイは慌ててマークの言葉を止めた。


「あ、待って、喧嘩しないで。そんなただ貸すだけだから。利子はいらないし、期限もつけないから、ちゃんと返してもらうし」

「返せる保証など! 自由になった途端、逃げるかも知れないんですよ!?」

「そもそもアオイ殿になんの得があるんですか?」


呆れたように言い募るマークにミルコが言葉を続けたが、アオイはそれでも当たり前のように自論を述べた。


「えぇ? なるよ〜すんごいお得じゃん! これから一緒に街をつくっていく人材の確保ができるんだよ〜こんなにお得なことないじゃん。でもそっかぁ逃げられるのは考えてなかったなぁ。でもさぁウチの村はこれから儲かるよ〜? わざわざ逃げて別の土地に行くかね?」


「そんなのっ、わからないじゃないかっ!」

「マーク様は優しいですね・・・」


信頼を金で買うと言って仕舞えば聞こえは悪いが、そう考えたら安いもんだ。とアオイは説明を続けた。


「だって逃げられても良いのよ」

「え!?」

「はあ!?」


「逃げられても、それはそれで仕方ないよ。そもそもヒトは自分の足でどこにだって行けるんだから」


当たり前のように告げる言葉に、テオドラはここぞとばかりに頭を下げて言った。


「アオイ様。俺は元商人です。王都で二番目にでかい商会を立ち上げましたが、1番でかい商会から派遣された女をそうとは知らずに娶り、その妻に騙されて奴隷になってしまいました。離れている間に妻も子供も殺さ、死に、結局は家も店もなくしました。次は間違えません。倍にして返します。どうか金を貸してください!」


「良いよ良いよ。貸すよ。無利子無期限無請求。証文もいらない。金貨10枚出す出す。買い取った後に奴隷の解放もするよ。それにはお金かかるの?」

「いえ、証文の持ち主である隊長が財産の受け渡しをせずに死にましたので、俺達の持ち主は最初に契約した[神殿]に戻っているはずです。神殿から証文を受け取り燃やせば、持ち主側の証文も燃え、奴隷契約は解除されます」

「へぇ便利〜」


明後日な感心を告げるアオイに、マークが呆れたため息を漏らすと、ミルコが思い出したかのように言った。


「あ、オリベ様が[館]に入った・・・」

「ねーその時証文が持ち出されて、別の人間に相続されてたら?」

「奴隷の契約更新には必ず本人の立ち会いが必要ですので、別の者の手にはまだ渡ってはいないはずです」

「ほら〜やっぱ急いだ方が良いよね〜」

「アオイ殿! それはあくまでっ」

「マーク様。この件に関しては、私が信じると決めただけなのです。結果は関係ないのですよ」

「だからと言って、どうしてそうなるのですかっ?」


マークとミルコは、アオイの考えをなんとか理解しようと詰問する。


「人を信じるって、その人を信頼するってことじゃないの。信じても良いってただそれだけを自分で決めるってことなのよ。少なくとも私の中では。結果は関係ないの」


マークは信じられないとばかりにあんぐりと口を開けた。

アオイは、眉を下げて思いの丈を吐露するように答えた。


「そうでも言わないと、5年も尽くした(ひと)に、婚約破棄された自分が惨めすぎる。騙されたんじゃなくて『自分の見る目がなかった』で、終わりにしたいの」


「そん、な・・・」


「ワインが1本金貨3枚で売れたんだよ! 金貨10枚なんて今なら楽勝だよ!」


ダンジョンから出るのがバレたら、むしろこれから値が下がるのかも知れないのだから、今売らずしていつ売るんだ。って話だわ。


アオイはニヤリと笑ってみせて「『金は天下の回り物』ってね」と、2人の心配をかき消すように言い切った。


「お金を稼ぐ目的が、お金を手に入れることになってしまっては本末転倒なのよ。お金は欲しいものを買うために稼ぐの。今は何より人手が欲しい。それが信頼できる人材なら尚更。でしょ?」


それまで黙って聞いていたダンにも、そのアオイの考えはわからなかった。

おそらく産まれてそう時も経たずに親に売られた自分が、他者の役に立つとは思えない。まして、金貨一枚の価値がこんな自分にあるとも思えない。

それは、賃金が発生する労働をしたことがないチップもトムも同じだった。


「俺、金貨一枚の価値がわからない。です。金貨一枚でなにが買えるのですか?」

「その金貨一枚を俺たちが手に入れるためには何を、どれだけすれば良いのですか?」


ダンは、自分の聞きたかったことをチップとトムが言葉にしたことに驚いた。自分は何をどう聞けば良いかもわからなかったからだ。


「俺が、どれだけ薪を、う、売れば、金貨を稼げるのでしょう、か?」


やっと口にした質問に、アオイは易々と答えた。


「私もわかんないな。ねえテオドラさん。どのくらいかな?」

「薪を売って返せる金額では到底っ」


マークが口を挟む。が、貴族として暮らしてきたマークにも具体的な金額がわからないので、結局「ぐっ・・・」と、言葉に詰まる。


「では、ダンジョンに入って魔物から素材を」

「待って待って、ダンジョンは危険だよ。みんな、魔獣討伐なんて今までしたことないだろっ」


今度はミルコが慌ててその考えを遮る。

アオイとナナが気軽に出入りしているが、子供とはいえナナは獣人だし、アオイにはハチがついている。

これまで角兎1匹倒したこともない奴隷の子供が、そう簡単に魔物討伐など口にして良いことじゃない。


アオイは「フー」と息を吐いた。

ビクリっと、ダンの体が跳ねる。


「ねえ、マーク様。平民の兵士達の1ヶ月の生活費ってどのぐらいか聞いても良いかしら?」


ここでのみんなの金額で良いわ。と、アオイは言った。

騎士見習いのマークとミルコは、給料形態が平民とは違うだろう。

獣人達の労働には今のところまだ金銭が発生していない。

そうなると、この新しい自治区では“一般的”な生活費の基準が平民兵士達になるだろう。とアオイは考えた。


「あ・・・すみません。俺達は、具体的な金額を知りません」

「お役に立てず・・・」

「まぁそっか。他の人の給料なんて経営者側の人間にしかわかんないか。じゃあ、生活費で考えようか」


マークとミルコの答えに、アオイが困ったように首を捻ると、テオドラが「あくまで王都では・・・」と、説明してくれた。


平民の兵士や官憲は貴族領主に雇われる形で雇用されるので、国の金が使われる。その土地々でまちまちではあるが、その多くが住まいを宿屋や寄宿舎に頼っていて、それだけで銀貨1枚。食費やその他もろもろにもう銀貨1枚消費されることから、日当銀貨2枚とされている。


「それが週毎に支払われますので、色をつけて週給15000ジェン。大銀貨1枚と銀貨5枚と言うところでしょうか」

「なるほど家賃支出が給料の50%は高いな」

「しかし、王都は食費も高いですから」

「あぁ、そうゆうのもあるか。でもこの世界って食料品の値段めっちゃ安いよね」

「え?」

「あ、こっちの話」


そうだった。そもそも物の価値観が全然違うから、エンゲル係数とか当てにならないんだった。と、アオイはテオドラに「続けて続けて」と先を促した。


「いわゆる小売店員や農耕など自分で稼ぐ一般的な平民となると、週大銀貨1枚ほど稼げれば、家族4人で食っていくことができると考えられています」


住まいは先祖代々税を払って住み続けている家があるし、食費、衣服代、その他もろもろ雑費と考えれば、そのぐらいが貧困層に当たらない妥当な金額か。と納得できる。

貯金って概念はこの際除外するとして。と、アオイはウンウンと頷きを返した。


「これを踏まえて、薪を売っての生活となると、今まで通りの生活では十分大銀貨1枚は稼げていると思います」


テオドラは、ダンの頭に手を置いて小さく笑った。


「なるほど。薪は生活必需品だもの。一般的な収入を得るだけの働きはここでもすでにできている。ってことね」


アオイが、ニコニコとダンの顔を見る。

何もわからぬとはいえ、全くの的外れな質問ではなかったのだと、ダンはホッとして息を吐いた。


「知りません、でした・・・」

「俺も・・・」


力無くマークとミルコが項垂れ応える。

親から見捨てられているとは言え、貴族と平民の生活には深くて暗い溝がある。生活水準が異なる封建社会では知らなくて当然だ。


「何も知らないのは、奴隷も貴族も変わらないのですね・・・あっ」


自分の口から出た失言に、ダンが思わずその身を硬くする。

そんなわけはない。あくまで生活費の話であって、こと知識や教養に至っては到底埋められない溝があるのは奴隷のダンにもわかっていた。チップとトムの顔色も一気に悪くなる。

ダンは慌てて鞭打ちの姿勢を取ろうとするが、狭い車内でどうして良いのかと身じろいだ。


「ごっごめんなさい!」

「いや、本当に。俺達って何にも知らないんだなって思い知ってるよ」

「もっと勉強しておかなきゃいけなかったんだって。俺達ってほんと世間知らずだよな」


マークとミルコがしょんぼりとその肩を落とす。

その様子に、テオドラが眉を下げ、代わりに謝罪の言葉を口にした。


「誠に申し訳・・・」

「ヤダ〜みんなまだ子供じゃない。何にも知らなくて当然だわっ。私なんてこんな歳になっても知らないことばっかりよ。こんな風に分け隔てなく具体的な話を聞けるのありがたいしかないわ。今更ながらこんな気さくに話しかけちゃってごめんなさい。マーク様、ミルコ様」


「こ、子供!?」

「アオイ殿〜俺達これでも成人してるよ〜」

「あ、そうだった。でも生まれてからまだ15年そこそこでしょぅ〜私なんて倍は経ってるのに。あ、やっぱり態度を改めるべきでしょうか?」

「いや、ぜひこのままで!」

「今更だよ〜」


そう言って、アオイと騎士見習い達がやっと笑い合う。

テオドラはその様子に目を細めた。


このやりとりは異常な事。忘れてはならない。本来奴隷ではないとしても、平民と貴族がこんな風に会話し合う事など、他の場所ではあり得ない事だ。

これはあくまでマーク様とミルコ様のお人柄と、アオイやハチというこの世の者ならざらぬ存在が場を制しているおかげなのだと、ダン達にはよくよく言含めておかなければならない。と年長者として心に留める。

それでも、この車内に溢れる穏やかな空間の方が人間として健常だと思わずにいられないのは、ここ数日の異常さに“毒されている”暖かくて甘い夢のような日々のせいか。と胸にチクリとした痛みが刺さる。それでも人は願ってしまうのだ『こんな日々がこれからも続けば』と。


「僕が、自分の意思で身体を売れば、アオイ様への借金をすぐに返せる?」

「あ、それはダメ。やめて」


安穏を切り裂いたツォの言葉を、アオイはあっさり否定した。


「ツォさん。そもそも人の価値は金では測れないのですよ」

「え、だって・・・」

「ううん。価値とかそうゆう問題じゃないわ。本来一つしかないものに値段ってつけられないと思わない? 代わりのない物の値段って、他の誰にも決められる物じゃないのよ」


アオイは「あ、もちろん何を商品にするかは所有者の自由なんだけど」と、前置きして最も容易く言い切った。


「ツォさんが毎週銀貨2枚稼ぐとして、あと何年生きるかわからないのに金貨10枚で売り切ってしまったら、それ以上は損になるのよ。そんなの馬鹿のすることだわ」

「俺がこれからどれだけ生きても、金貨10枚も稼げるわけないじゃないか」

「あら、わからないわ。だってこれからここではそれが可能になるんだから」

「え!?」

「なん!?」


「それは、どうゆう事ですか?」


驚く面々に、アオイは「だから最初の話に戻るのだけど」と、説明を続ける。


「そうね、わかりやすく今金貨3枚で売れたワインにしようか。ダンジョンからワインが採れるようになっても、ツォさんが取りに行かなきゃ金貨3枚は手に入らないからよ」

「・・・ん? どうゆう事?」

「俺じゃなくても、ダンが、採りにいけば・・・」

「それ、それよ〜。なんでみんな誰か他の人が借金を返すと思ってるのかなぁ。私は受け取らないよ〜自分の借金は自分で返してもらう。ツォさんには借金を返した後もしっかり働いてもらうつもりで無利子無期限でお金貸すんだから、他の誰かに売り切ってしまったら、それこそ私の損確定じゃない?」


車内にいるみんなの頭に ? が浮かぶ。この人は、何を言っているのだろう。


「そもそもねぇ、ぶっちゃけると私はお金を貸すんじゃないのよ。みんなに“恩”を売てっんの。何倍にもなって返してもらうつもりでいるのだから、せっかくのチャンスなのに、他の誰にも売らないで欲しいなぁ」


???


みんながキョトンとする中、ハチが深いため息を吐いた。


「四の五の言っているが、おおかたアオイの望みはここにいる全員で、美味い飯を食い美味いワインを飲んだくれたいだけなのだ。今更誰が欠けてもそれが叶わぬではないか。と、言っている。皆が思うより強欲なのだ」

「ヤダっハチったらまた身も蓋もないこと言って! 美しいツォさんには是非私のグラスに美味しいワインを注いで欲しいわ」


「アオイ殿・・・」


助手席のミルコが目を見開いてアオイを見ると、後部座席のダンがさめざめと涙を流し始めた。


「え、ヤダ、どうしたの? 大丈夫?」

「俺、俺、どうして、アオイ様、ごめんなさい。わからない。どうして、どうして・・・」

「あ、もぉ〜ハチが変なこと言うから〜」

「な、なんで我が悪いのだ! 皆で飲む酒が美味いのは、ここにいる者どもはすでに知っているであろ」


「アオイ達は、そんな風に物事を考えるのね」


それまで静かに聞いていたシンクが口を開くと、ナナも耳を下げて言った。


「ダンもツォも、もう誰も、居なくなったら、俺、嫌だな」


しんみりとした言葉に胸が詰まる。

もうすでにかけがえのない仲間なのだと、思えたら良いのに。ただそれだけなのに。

アオイは、言葉にできない思いを伝える手立てがないことにもどかしくなった。


「奴隷じゃなくなったツォさんが、自由に飛び立てる翼を手に入れても、それでもいつかはまたこの場所に戻ってきてくれると信じて私はお金を払う。ただそれだけのことなんだけどなぁ」


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