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魔力はめぐる




食後の後片付けを済ますと、[塔]の[資材置場]に人が集まった。

その人数に、「魔法を教える」と言ったイーラが驚いていた。


「俺、火の魔法のことしか知らないよ?」

「あら、だって教えてくれるのは〈火属性〉の扱い方ではなくて、魔法のコントロールの仕方なのでしょう? イーラ先生」


アオイの答えに赤面したイーラは、息を整え目を瞑って両手を広げ、深呼吸を繰り返した。

イーラの身体をほんのりと青白い光が包む。やがてそれは炎の揺らぎのように全身から湧き立った。


「自分の体に取り込んだ魔素を、感じることはできますか?」


イーラの向かいに、棒立ちに見上げていたシンクが首をかしげる。


「魔素は、身体の外にある。感じる」

「身体の中に目を向けてみてください」

「僕の、中にある魔素・・・」


シンクが、イーラを真似、目を閉じて両手を広げる。

やがてその静かな呼吸と共に、全身を覆っていた魔素の光が両手にだけ集まり始めた。


「外部から取り込んだ魔素をどこかから、シンク様は両手から放出しているのですね」


魔法師であるシンクは、魔素を取り込み、体内で練り上げ、なんらかの魔法の形にして放出する。その経過をすっ飛ばして魔法を放っていた。

魔素の取り込みが他の人間より著しく“早く多い”ために、意識する必要がなかったのだ。


「本来、魔法の発動に呪歌や呪文を必要としないのは、その体内に取り込める魔素量の多い精霊や妖精の成せる技なのですが、その子孫である獣人や魔法師様はソチラの方に近いのでしょう。考え意識する必要が無かったのでしょうね」


傍らにいるヴァニタスが、アオイとマークに説明してくれる。


「それでも、より強力な魔法を使うとなったら、その呪文を唱えるんだろ?」


マークとミルコが、自分のレベルに合わせ学園で習った〈スペル〉しか使いこなせないのは、自分の体内に取り込める魔素を枯渇させないためにも、総量を効率的に利用するため制限が有る。

単にそれしか方法が無いからだと思っていたが、本来【魔術】のスキルを持つ者は、コモン魔法と言われる攻撃するに満たない小さな魔法を、無詠唱で発現させている。


「強力な魔法を1発放てたからって、その度に卒倒するようじゃ役に立たないからな」


ビアの言葉に、アオイは「それは戦闘時に限った事でしょ?」と首を傾げた。


「魔素が体内に溜まり過ぎると[魔力過多]を起こして普通は寝込むんだよ。[魔力酔い]ともいうんだが、発熱・倦怠感・嘔吐なんかで容量にあった魔素が排出されるのを待つんだが、子供のうちにそうやって自分に合った魔素量が決まっていくんだ。だから【魔術】スキルを持つ人間の子供は、自分の“器”に合わせて“放出”する事を学ぶ。ってか、自然に身につくはずなんだがな」


ビアは、その後に続く『酷いと自分の命を落とす』という言葉を飲み込んだ。


つまり、[魔力過多]の無い容量の大きい者、ここでは獣人は〈身体強化〉の魔法がデフォルトで発動しているので意識せずともそう患うこともないが、学ぶ機会のない[魔法師]は、意識せずにいると無限に魔素を体に溜め続ける。と。

それがコントロールできなくなって放出され、近くにいる者に余計な魔素を急激に“当てる”事態になると。それが[魔力暴走]ということらしい。


『意図的に、リミッターを外されているのだろう』

『・・・そうなの』


ハチが念話で補足した秘密に、アオイが渋い顔で答える。

つまり、知れば抑えることができるはずなのだ。少なくとも他の人間と同じように。


「じゃあ意識して定期的に魔素を魔法にして放出しても問題解決?」

「おそらく[魔法師]()その魔力の使用を制限されているのでしょう」


ヴァニタスが自分の胸に手をやり、奴隷が魔法の使用を制限されていたことを暗に告げると、今は奴隷達の主人であるマークが眉間にシワを寄せた。ミルコとビアが「気にするな」とその背を叩く。


「イーラは、使用者の意思から練られた〈魔法〉としての放出ではなく、魔素のまま体外に排出し自然に返す“循環”の方法を教えているのです」


ヴァニタスが、アオイに優しく微笑みかける。


「取り込んだ魔素を身体の一部に集めるのではなく、外に“還して”あげるのです」


イーラの言葉を受けて、シンクはスーハーと深呼吸を繰り返した。


「練り上げるのは必要な時だけにして、不要な分は吐く息と共に外に出してしまいましょう」

「・・・でも、それだと弱くなっちゃわないっ!?」


ゆっくりとしたイーラの言葉に、パカっと目を開けたシンクが慌てたように質問した。

それもそうだ。上限が無いことでその魔力の力を行使していたのに、いざ使おうとした時に“足りない”のでは、他の魔法使いと変わらない戦闘力しか発動できない。


「それを“要る”時だけ自由に出し入れできるよう訓練するのだ」


聖霊獣のハチが静かにシンクを諭す。

アオイが、眉を下げてシンクの両手を握った。


「力の強い者がその力のコントロールを失うことは[魔法師]に関わらず、コレは普通の人間にも言える事ですが、良くある事なのです。誰でもそうなの。だから、同じ生活を共にする人間は己の力の使い方をよくよく学ぶ必要がある。普通の生活を営む時、その強力な魔力は必要ですか?」


ひとは、強くともひとりでは生きてゆけない。弱いからこそ群をなすのだ。どちらを選択するかはその本人の気質に寄るものだろう。だが、シンクはここに来た理由がもう既にあるはずなのだ。


「でも、私は、シンクちゃんと一緒に美味しいご飯を食べたいの」


ユラリと、シンクを包む魔素の光が揺れる。

ハチの〈結界〉の中でそうしたように、シンクの魔力が繋いだ手を通じて、アオイの体に取り込まれ始めた。


「不要な分は“渡して”自然に“還して”・・・大丈夫魔素は危険なものばかりじゃ無いわ。世界に満ちる力は巡り、まだその身に戻る。私達は最初からみんな自然と繋がっているんだよ」

「アオイ・・・」


シンクはその身を任せて、抜け出ていく魔素をアオイに吸わせ続けた。


「上限がわからないから、どんだけ抜けば良いかわかんないね?」

「・・・フフッ! 身体が、すごく軽いっ! アハハッ!」


シンクは、アオイと両手を繋いだままクルクルとその場で回り始めた。


「俺も! 俺も!」


ナナが無理やりシンクとアオイの間に入り、その手をつなぎ直す。

シンクは慌てて、ナナに火傷を負わせぬよう“気をつけて”魔素を“渡し”始めた。


「キャハハっ! シンクっ凄い! 俺にも“満ちる”! “溢れる”!」

「わ、わぁぁ、できた! “渡せた”!」

「アワワッ! め、目がっ目がまわるっ!?」


ナナが勢いを増してグルグルと回り始めるので、アオイが声をあげてよろけると、ハチがその身を盾にしてなんとか倒れ込むのを阻止したが、結局みんなで倒れるようにその場に座り込んでしまった。


「キャハハ!」

「ひえぇぇっ」

「危ないじゃ無いかっナナ! アオイは運動神経ニブミちゃんだと言ったじゃ無いか」

「なっ!? 失礼なっ! 普通よ! 人並みよ!?」


シンクとナナの笑い声が響く中、イーラがシンクに手を伸ばし「その感覚を忘れないように」と微笑んだ。


「“わかった”。教えてくれてありがとう。イーラ」


顔を上げたシンクは、イーラの手を掴み立ち上がると、アオイにするように抱きついてお礼を述べた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「魔素って、実際どのぐらい保有しておくのが良いの?」


アオイがハチに問いかけると、ハチは「こればっかりは個体差だなぁ」と肩をすくませた。


「ちょっと間違って教えちゃった?」

「まぁ、良いんじゃないか?」

「なんか、楽しそうだものね」


シンクとナナが、なぜか再び手を繋いでグルグル回って、大きな笑い声を上げ倒れ込む“遊び”を繰り返す横で、獣人の子供達も「自分達も」と、その身を光らせ、グルグル回り自分の身体の魔力の流れを試しだすと、慌てた奴隷達があちこちで魔力の使い方を教え始めた。

すると[魔法師]のそれとは比較にならぬほど小規模とはいえ、それぞれに[魔力暴走]を起こし、魔素の余波を飛ばし始める。

それは獣人達もまた、その身の内の魔力の使い方なんぞ、意識したことがなかったからだが、ハチは「危険はなさそうだしな」と笑んでいたので、アオイも「じゃぁいっか」と、自由にさせた。


騎士見習いのマークとミルコがその余波を受け「なるほど?」と、他の兵士達と何かを確認し始めると、[塔]側の人間達も少し恐怖心が薄まったようだ。みんなで気軽に魔力の放出を試している。


息を切らせたシンクが、椅子に座って休憩しているアオイのそばに来た。

ナナは他の獣人の子らとグルグル回っている。元気だなぁ。


「アオイ、ママは諦める。ママじゃなくても良いんだって。ナナが教えてくれた」

「そうね。ママじゃなくても、もうお友達だものね」

「・・・お友達・・・」


なぜか驚いたような顔をして、シンクが自分の両手をじっと見た。


「ねえねえシンクちゃん。他のお友達はいつ頃来るって?」

「他のお友達?」

「オリベ様とか、他の[魔法師]様達。バラバラに来るの? 歓迎会はまとめてやったほうがいいかなあ」

「オリベ・アソミ、お友達? 他の魔法師?」


首を傾げて何か考え込むシンクに、アオイはフフッと笑って質問を続ける。


「[塔]のお部屋に好きな家具を用意しようかと思って。シンクちゃんは何を置きたい? どんなのがいるかな?」

「好きな、家具?」


アオイは、村の獣人達が素敵な装飾を施した木工家具があることを告げた。


「今は蔦とか植物の意匠が多いけど、お願いしたら喜んでシンクちゃんの好きな模様を入れてくれるよ」


ベットとか、棚とかタンスとか。このぐらいの歳の子だと、可愛い動物やキャラ物のほうが良いのかな。そういえばコチラにはカワイイ系のキャラとかあるんだろうか。


「好きな、模様・・・」

「ネコちゃんとか」


アオイはそう言って懐から取り出したノートにボールペンで、リボンを付け口がバッテンのネコちゃんのイラストを描き出した。


「・・・なんじゃこりゃ?」

「ハチ、そりゃないぜ?」

「ウサギのヤツと混ざってないか?」

「ありゃ?」


そっちの方にも似たようなネコちゃんがいたかも。と、アオイはサラサラとウサギとネコを描き連ねる。


「コブネズミ?」

「なにそれ?」

「魔獣」


いつの間にかそばに来ていたナナが、ノートを覗き込んで不思議そうな顔をハチに向けている。


「チューリップとか、ひまわりとか〜」

「吸血トルペ? ヒトクイタートル?」

「なんでそんなに不穏な名前になるの!?」


ナナとアオイのやりとりに、ハチが腹を抱えて笑い転げている。ちょっと!?


「カワイイ? これが?」

「シンクちゃんまで!? ヒドイ!」

「画伯!! ニブミちゃんの上にガハク!」

「ハ〜チィ〜!!」


元の世界で天気予報士だったアオイが学んでいたのは気象学だ。どちらかといわずとも理系。絵や運動はからっきしだとは言え、ヒドイ言われようだと口を尖らせる。

とにかく、()の事はゆっくりお部屋に行って考えようか。と、アオイは未だ足元で転げるハチを抱き上げて[塔]に向かうことにした。


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