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塚ができるほど貝はオイシイ




翌日、朝食後に新しい町づくりのための資材を集めていると、アーサー達隊商が再び訪れた。


「ワインボトル一本が金貨3枚で売れました! おや?」


見かけた途端に嬉しげに声をかけるアーサーに、アオイは驚いて「流石にぼったくりでは!?」と返しながらも、肩に乗っているハチに頬擦りしながら紹介した。


「これは私のもう1人の家族。ハチです。よろしくお願いしますね」

「おや、襟巻きでは無かったのですね。テイムモンスターですか?」


「ハチだ。よろしく」

「えっ!?」

「しゃべっ!?」


今は小さなハチが言葉を返すと、アーサーとセバスは大きく動揺したリアクションをとったので、アオイはしれっと話題を変えてみる。


「あ、ダンジョンでの養殖も順調ですよ。これからあのワインは、ダンジョンからドロップさせることができそうです」

「えっ!? この短期間で!? どれだけの数を試したのですか!?」

「それが、言うほど大変じゃなかったの。実際にはそう多くない数を蒔いただけでドロップするようになってしまったんですよねぇ」

「いったいなぜ? 若い、ダンジョンだったから、でしょうか・・・」


商人らしく話題は直ぐに[ダンジョン養殖]に移り、首を傾げてとぼけるアオイに、セバスは訝しむ視線を向けるが、入る者も少なく、階層も浅い[魔塔の村ダンジョン]を、専門に調べている者がいない今、真実は謎のままである。

アーサーが「まあ良い事じゃないか」と笑って話題を戻すと、セバスも呆れた顔をした後直ぐに追従した。


「お預かりした宝石に至ってはその価値は計り知れず、未だ価格が特定されていません」

「王都でオークションにかけたほうがいいと提案され、専門の業者に任せてまいりました」

「あ、そのことも含めてなんだけど、宝石や貴金属、金についてはまだ試してないんです」

「それは懸命な判断です。我々もそちらの方は懸念しておりました」


さすが商人。セバスの機転で預けた『商品』は全て、ここのダンジョン産だとは告げず、この地とは全く関係ない()()で、偶然入手した物だと()()()()いるそうな。


「数と形の揃った真珠も良い値になること請け合いでして。なにせ、宝石類はやはり今までにないカッティング方法だったらしく、今後のトレンドになること間違いなしの品で、宝石自体の希少価値より話題になっています」


ニコニコ顔のアーサーに、アオイは、ブリリアンカットのダイヤモンドはコチラには無かったか。と、ニンマリ口端を上げた。

あの男。ここに来て初めて良い仕事した。


「あ、それでね、[塔]は見ての通りだから、次は[町]を作っちゃおうってことになって、お金が必要でね、真珠はもしかしたら普通に養殖が可能だから、なんならそっちだけでも始めちゃう?」

「普通に養殖可能? なのですか?」

「私の元いた国では普通だった。簡単に言うと適当な二枚貝に核になる異物を埋め込んで海に放置するだけ」

「は?」

「え?」

「あ〜・・・」


もちろんそれなりの大きさにするには時間がかかるし、そうそう簡単にホイホイ出来るわけじゃないから、実際にその方法をとるなら試行錯誤やそれなりの試練は必要だし、ダンジョンのドロップ品にしてしまうのならもっと楽なんだけど。と、アオイはジャラリと鍋いっぱいの真珠を取り出してみせた。

これは、最初の資金づくりのためにと[複製]で作った物だが、実は獣人達が漁をした時に採った貝の中にも、小粒の真珠が入っていたのだ。今までは殻と同じく捨てていたそうで、獣人達は「食えないし」と、さらりと笑っていた。

この内海は、波の影響が穏やかで貝が豊富にあり、真珠の養殖に適した貝がそれなりに育つ環境が整っており、獣人達の間ではそう珍しいものではなかったのだ。


「形の良い物だけ宝飾品にして、それ以外は砕いて、薬や美容用品に加工して売り出すって手もあるし、なんならそっちの方が、()()()な商品になるかも」

「そんな、話は聞いたことが・・・」

「あ、そうなんだ。ん〜じゃぁこれも保留かなぁ」


生体鉱物の真珠は、経年劣化もするが意図的に作り出すことができる宝飾品だ。

プラスチックやレジンのない世界では珍しいかもしれないが、日本では魏志倭人伝の頃からぼんやり養殖っぽい事をしていたといわれているし、需要があるなら作らない手はないと思う。

貝殻を作る軟体動物ならなんでも良いんだ。アコヤガイっぽい貝がわんさかいるらしいし、なんならゴミ捨て場を漁ればボロボロ出てきそうな話も獣人達がしていた。


「真珠が出るような貝は()()()がないらしくてあまり常食して無かったみたいなんですよね」

「食い出・・・」

「これからは食べる以外にも獲るようにして様子を見てみましょうか?」

「いや・・・」

「あ、なんなら螺鈿の装飾品も良い工芸品になるかも」

「ラデン・・・」


松林の中の一時的なゴミ捨て場に、貝の殻も捨てられている。

猫獣人達は手先が器用で、細工仕事に目覚めているので、教えてあげらた大喜びで商品を量産しそうだ。


「なんだ、ダンジョンに頼らなくてもいっぱい良い物がある。さすが海」

「アオイ殿、ラデンと言うのは?」

「えっと、この真珠層、真珠の素になってるバイオミネラル・・・いや待って、もしかしてこの海、アワビがあるとか!?」

「えっ?」

「えっ!?」

「なんで気が付かなかったんだろう! 海! 海に潜ってみたい! ライズ村長っ!!」

「アオイ殿!?」


話の途中で駆け出すアオイを追って、アーサーが林の中で木を切り出していた獣人達の元に辿り着くと、思わぬ方向に話が進み、あわあわと興奮気味にアワビの説明をするアオイに面食らいながらも、ライズ村長と母親のマリーと奥さんのリリーは「あのカチカチに硬くて食べられない貝の事かしら?」と首を傾げた。


「あの、岩に張り付いて採り辛く、煮るとカチカチになるあの貝ですか?」

「貝殻の内側はピカピカしてて、確かにキレイと言われればキレイですね?」

「煮ても焼いても硬いアレ?」

「それですーっ!」


一緒にいた獣人の1人が「あんなのゴロゴロあるからなんなら今から一個採ってきましょうか?」と、気軽に笑う。マジかっ!?


「ご、ゴロゴロ!?」

「えぇ、海底の岩にいっぱいくっついてますよ?」


膝をついて両手を掲げ「まさかの食べ放題!!」と天を仰ぐアオイに、思わずドン引きしたアーサーとライズ村長が顔を見合う。


「そんなにっ!?」

「お、美味しいです! 大好物! 美味しくする自信あります! ぜひっ! ぜひ採ってきて下さい! お願いします!!」

「お、おうっ・・・」


若干引き気味の獣人の両手を握り、必死の形相で懇願するアオイに、ハチは眉を顰めて言った。


「はしたないぞっアオイ」

「だってアワビだよ!? ステーキ! お造り! アワビの姿煮っ!!」


早速浜辺に移動して、見様見真似で作ったアワビ採取用のヘラを渡す。


「これを岩と貝の間にガッと入れて、クイっと傾ければスルッと外れますんでっ!」

「お、おぅ・・・」


アオイの圧に、逃げるように海に走り飛び込んだ獣人は、泳いであっという間に浜から離れると、頭から潜り1分もしないうちにザバっと貝を握った手を掲げて「これですかねーっ!?」と叫んだ。


スイスイと器用に波をかき分け浜に上がってくるその手に握られた貝は、デカい! アオイが知っているアワビの5倍はありそうな、大きな岩のようなそれに、アオイは「それですっー!」と、歓喜の声をあげた。


「ウネウネしてる・・・」

「これ、食べられるの?」


リリーとナナが眉を顰めて貝を突いている。


「これです! アワビ! 間違いない!」


速攻で[鑑定解析]を済ませ[可食・超絶美味]とお墨付きを得たアオイは、アーサーとセバスが見守る中、早速調理を開始した。


「同じ岩にうじゃうじゃくっついてたから、もうちょっと採ってきますね・・・」


大興奮のアオイに、件の獣人が「アオイ様がそんなに喜んでくださるなら・・・」と苦笑いしながら、再び海に潜って行った。


塩でもみ洗いして、ブラシでゴシゴシと、おおよそ食べ物の下ごしらえとは思えぬほど擦り洗い、丁寧に殻から外して肝と口を切り分ける。


「柔らかくする方法は別にあるんだけど、それは時間がかかるから、今は手っ取り早くステーキにしちゃうねっ」


ウキウキとしながら、その身に切れ込みを入れ脇に避けておき、丁寧に肝を叩いて味道楽を混ぜた肝ソースの素と、ニンニクソースを作っておく。

そしていよいよ、良い感じに熱せられたフライパンにたっぷりのバターを溶かすと、恭しくアワビの身を落とし、切れ目が開いてうっすらと焦げ色がついたら、白ワインをふりかけフライパンを傾けて、スプーンでソースをかけながら慎重に焼く。


その間に、海に潜っていた獣人が両手に抱えきれぬほどのアワビを抱えて浜に上がってきた。

どうやらわんさかある。という言葉に偽りは無く、ヘラで「簡単に採れた」と獣人は呆気なく言った。


良い感じに焼けたアワビを食べやすい大きさに切り分け、同じフライパンで肝ソース、ニンニクソースの順に煮詰めると、周りを囲む皆にそれぞれに小さなフォークを手渡して、二皿に分けたアワビステーキに、ソースをかけ「お味見」と称した試食会が始まった。


アオイは、若干震える手で、たっぷりとソースを絡めたアワビステーキを刺したフォークを口元に運ぶ。

ナナは訝しみ、ハチは呆れた表情で、目を瞑りモグモグと無言で咀嚼するアオイを見守った。

ゴクリ。と、口の中の物を飲み下したアオイは、搾り出すように感嘆の声をあげた。


「・・・これが、食べ放題とはっ!!!」


その場にいた皆が一斉にアワビのステーキにフォークを刺した。


「コリコリする!」

「うんまっ!?」

「美味しい! 美味しいですね!?」

「なぜ今までこれを食べなかったのでしょう!?」

「肝ソースも美味いが、ニンニクソースの方がパンチが効いていて好みです」


「・・・もう無くなっちゃった・・・」


そうでしょう! そうでしょうとも!!


「アオイ、もっと焼いて?」


可愛い顔でおかわりを要求するナナに、アオイは満面の笑みで「おうともっ!!」と、新たなアワビを擦り洗い出した。

アオイに、良い笑顔でブラシを渡されたマリーとリリーも、怒涛の勢いで倣ってアワビを磨き出す。

ライズ村長が林の開墾をしていた獣人達に声をかけ、さらに数人の素潜り名人達を呼び寄せると、ナナが[塔]に走ってマークやダン、ビア達を呼んで来た。


その後は、女性の獣人達が貝の下拵えに夢中になり、アオイは一心不乱に、アワビのステーキを焼き、牡蠣の蒸し焼きとオイル煮を作りまくり、アレは? コレは? と、目を輝かせて勢いづいた貝漁師達が採ってきた、サザエの壺焼きに、ハマグリの酒蒸し焼き、巨大なシャコ貝の天ぷら、バイ貝の煮付けと、次々と貝料理を作り上げ積み上げていく。

料理はついつい出してしまった酒に合い、瞬く間に消費されていく。


「そしてっ! これがお約束の牡蠣料理です!」


アオイは、カゴに山盛りになった牡蠣を見て目を輝かせると、牡蠣のソテー、牡蠣のアヒージョ、牡蠣グラタン、牡蠣の燻製、牡蠣たま、牡蠣の炊き込みご飯を、ビール片手に見事な手腕で作り出した。

ビア達大人組がヨダレをすすりながら歓声をあげる。


「「「おぉー!」」」


そこからは、単なる「お味見」だったはずが、いつの間にか「貝類の大試食会」からいとも容易く「大宴会」になだれ込む。

その日来たばかりの隊商の皆も荷解きもほどほどに、その立場に関係なく、あっと今に出された酒と料理に夢中になった。


「さすが異国の料理人です。知らない料理がこんなに!」

「しかもいずれも絶品だ! 素晴らしく美味しい!」


アーサーもセバスも、すっかり仕事を忘れて貝料理に舌鼓を打つ。

やがて打ち鳴らされた舌を甘やかに蹂躙する酒の価値も忘れて、全員が強かに酔っ払い始めた。

恐るべきは美味しいものの威力。

そう、ナン百年も後世に貝塚などという“塚”が残るほどに、貝は美味しい海の恵みなのだ。


皆が心から笑い合うその中に、見知らぬ赤髪の女の子が混じっていることに誰1人として気づかぬほどに盛り上がった大宴会は、その日の深夜まで笑い続いた。



それでは皆さまより良いお年を。

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