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来て良かった




領地運営といっても、これから積極的に流入してくる住人がいるとは考えにくい。

迫害の対象である獣人達の集落に[魔法師の塔]と、大きな問題が残る地である事は変わらない。

簡単に人口を増やすのは無理だ。と住人達は思っていた。


衣食住を安定させ、落雷による生活の不安は解消されたとしても、魔法師の[魔力暴走]は魔法師達がいる限り絶対なのだ。しかし、災害を恐れてその土地を放棄するなど、元いた世界でもあり得ない。ここはもう、人々の暮らしが営まれている地であるのだから。


とはいえ、このような行き止まりの辺境地に来るのは、訳あり、もしくは迫害された者どもだろうことは明白だ。

流れてくる住人の選別は、最優先で必要なことになるだろう。


宴会の翌日、前回のように死屍累々とならなかったのは、お互いに自重し合った結果であったが、村人達と塔の関係者達は、概ね親睦を深めることに成功したようだ。


いつもの朝食の後、貴族のマークとミルコ、ライズ村長、それに商人の経験のあるテオドアと、年嵩のビアとアヴァリ、ヴァニタスが残って、浜辺の海の家に集まって村の今後について皆で話し合うこととなり、アオイは、皆にお茶を出しつつ、契約終了後のお昼の用意はどうしようかしら。などと考えていた。


「今いる全員がこの村に残れるとして、大体100人ぐらいか?」

「ダンジョンのドロップ品が知れ渡ったら、冒険者達はガッと来るだろうな。ガッと」

「わざわざ宣伝しなくても良さそうなレアアイテムばかりですものねぇ」


あらそうなの? とアオイが視線を向けると、マークとミルコは昨晩の酒を思い出し、さもありなん。と頷きあっている。


そんな中、アヴァリが顎に手を当て考え込んでいた。

ここが行き止まりの地とはいえ《聖領域》である以上、魔物や魔獣などの脅威はそう多くはない。

自給自足を安定させる事が可能だとしても、外部との関係を拒み続けることは不可能だろう。


「やはり商人の誘致は必須ですよね?」

「領地運営の大事な要素の一つに、外貨の獲得がありますよね? それを安定させるにも、アーサー様のような商人の存在は欠かせない必須要素ですもの。商人の出入りに何か問題でもあるんですか?」


幸い、獣人達の作る野菜や漁による魚介類の他に、稀に見るダンジョンのドロップ品と、魅力的な商品など、当てにできる()()()が目白押しだ。

ガンガン売っていけば良いのでは? と、アオイはアヴァリの懸念に疑問を向ける。


「アオイ様は、『黄金が出るダンジョンを所有する土地は破滅を迎える』と、言われているのをご存知ですか?」

「知りませんでした。それはなぜですか?」

「冒険者の()が下がるのです」

「人が増えたとて、それが荒くれ者ばかりでは・・・」

「あぁ、なるほど・・・」


有用な資源があるとて、それを目当てに集うのが一攫千金狙いの無法者ばかりでは、元々の住人には面倒ごとが増えるだけなのだろう。

生活を安定させた引き換えに、治安が著しく悪化するのではまさに本末転倒だ。


ここは、日本のように法の遵守がデフォルトの世界じゃない。

ただし、ひとの住まう集落なのだ。偏っているとはいえ守るべきルールはある。

それなのに、極端な話、権力や暴力が強い力を持つ世界なのだ。ひとたび悪党が蔓延れば失った秩序を回復させるのはまず無理だろう。


「そこは我がいるのだから、ひとまず力でねじ伏せれば良いのではないか?」


ハチの申し出に、ギョッとした視線が集まった。

そうだった。今ここには、ひとの営みになど無関係な[魔法師]より強い力を持つ神の御使[聖霊獣]がいる。


だが、皆の思惑を遮るように、アオイは眉間にシワを寄せ「()()()ができることには限界がある」とハチのマズルを優しく撫でた。

その姿を見て、ライズも自分の役目を言葉にして覚悟を決める。


「聖霊獣様のお力に頼るのは最後の手段にしましょう。せっかく自治区を賜ったのですから、人の営みは人の力で循環させてこそ正しく巡り廻るのです」

「ハチだけが忙しくなったら、アオイと一緒にいろんなことできなくなるよ」

「!・・・そうだな。ありがとう。ナナ。ライズ村長」


ウチのナナってばやっぱり賢い。そして2人ともカワイイ。


小鼻を膨らませてドヤ顔を披露するナナと、しみじみとライズの申し出を素直に受けたハチを、アオイはこれでもかと撫でさすった。

その様子に苦笑いしながらも、アオイの言葉に、ライズは頷いて「お心遣いありがとうございます」と、ハチに頭を下げた。


「国に払う税は、両隣の俺らの家が考えることだと思うから、そこは考えなくて良いと思う」

「仮にも新たな領地を賜りそれ相応の[俸禄]も得るのだろうし、此処はしばらくは本当の意味で()()だけ最優先に考えれば良いよ」

「楽観的かもしれないけど、適当に『問題無い』とでも言っておけば、放っておいてくれるんじゃないかな」

「今までがそうだもんな」


マークとミルコは貴族然とした考えを述べ、それにアヴァリとヴァニタスも頷いた。

そうゆう問題もあるのか。と、アオイは嘆息する。


納めなきゃいけない税がいくらなのかわからないけど、それは両隣の貴族領主で分割して払うのだろうか? [塔]に住まう[魔法師]達が払うのだろうか?

王族や貴族の庇護下から抜けた今、この地域の現実的な金の流れが全く掴めない。


「俺達も、具体的なことは何もわからないけどさ」

「ずっと騎士科だもんなぁ」


もっと勉強しておけばよかった。と、騎士見習いの2人が嘆く。

それは何処の地でも、普遍的な悩みなのだろうな。とアオイはフフッと笑んだ。

そうは言っても、何事も用意や準備をしておくに越した事はない。


「ここは一つ新たなシステムを確立しておきましょう。商人に限らず、誰でも自由に商売できるようにするのです」


楽観ついでに、既にいる村の住人達で、さっさと楽市楽座を成立させてしまえば、その後の貴族達の利権の食い込みも阻めるのでは無いかと提案する。

この封建社会では、所詮王侯貴族が商売を牛耳っている。

だが、ここはそれら貴族の力から外れた獣人達の自治区になるのだ。


本家楽市楽座も、それまでの特権階級の利権を廃し、誰もが自由な商売ができた方がゆくゆくはその領地の為になるとの判断があったから発展したし、実際それは正しかったわけだし。

初心者の経済政策としては王道なのではないだろうか。


「どうせ壁も門もない集落なのだから、商人の出入りに税は取らず、自由に商売してもらうことにして、そうねここは王族を見習って、商売する()()を貸し出して賃金を得ることにしようか?」


しかも店子と大家としての関係性は平等では無い。

獣人達村人のレアアイテムのドロップ品の独占は、揺るぎないアドバンテージになるのだから、圧倒的不平等契約。商売に税をかけない代わりに、不労所得、不動産で儲けを出すことにしよう。

シンプルで固い! 固いぞ!

悪い顔をしてしれっと提案するアオイに、ハチは茶番の台詞を吐いた。


「フフフ、お主も悪よのう!」

「何をおっしゃるお代官様!」

「なにそれ! なにそれ!」


ナナが「俺も混ぜて!」とぴょこぴょこ跳ねる。

ここで使わずいつ使うというのか。

圧倒的資金力を元に、さっさと基盤を作ってしまおう。


「手っ取り早く“商店街”を作っちゃいましょう」

「ショウテンガイ?」


アオイはニンマリほくそ笑むと、箱物政策を提案した。

簡単にいうと、今後必要、又は考え得る店舗や商業施設、行政役所の建物などの入れ物をコチラで先に作ってしまおう。と。


「何しろ土地は十分にあるし、建物さえ先にあれば、後から来る人はそれを利用せざるを得ないのだから、移住希望者にそれぞれを貸し付ける形で[賃料]を徴収するのです」


もちろん、一定期間を過ぎたら[継続]か[買取]を選ばせれば異論はないはず。

財産を一気に失う可能性がある特殊な土地だからこそ成立する、[魔力暴走]を逆手に取ったwin-winの一手になるだろうとアオイは説明した。


「なる、ほど。しかし、その条件で“商人”達は納得するでしょうか?」

「商人が、いつ起こるかどうかわからない災害を恐れて、このダンジョンのドロップ品を諦めるでしょうか?」


なんなら希少な宝石類も解禁してしまっても構わない。

正直[魔力暴走]がどの程度の“災害”に当たるのか想像しきれないが、アオイがいた元日本は、地震、台風と災害大国であったにもかかわらず、世界第2位まで上り詰めた経済大国でもあったのだ。

ましてや、今ここにはレアアイテムがドロップするダンジョンがある。

それは災害の後でも揺るぐことのない経済資源になることは間違い無いのだ。

奇しくも、バブル崩壊前に買い漁った不動産や資金源が、崩壊後の日本を支えていたのは、変えられない事実だったのだから。


「なぜか見落とされがちなのだけど、災害後も世界は、ひとの営みは回り続けるものなのです。人は意外と強くてしぶといのですよ」


『スクラップアンドビルド』は、長く続くひとの営みの基本だ。

どんな災害があったとしても、今回のように復興すれば良い。それだけだ。と、アオイは力強く笑った。


「そう、ですね。元々何も無い地なのです。最初はなんでもやってみないことには、何も始まらないですもんね」


アヴァリの賛同を機に、皆が力強く頷く。

アオイは大きな紙をテーブルの上に広げて、村と[塔]までの松林だけの土地を拓き、商業都市計画を実施させるべく、皆で考えた都市計画地図を描き起こすのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ひとしきり今後の方針が煮詰まったあと、早速明日から作業に入ろうとそれぞれに分かれて家路についた。

規模としてはそう大きく無い。住人100人による小規模な[村]の自治だ。まずはできることはなんでも試して、違うな。となったらいくらでもやり直しが効くちょうど良い自治区だ。楽しみな事しかない。

当然のように、獣人もヒト族も奴隷平民関係なく、今いる全員分の住まいも商店街近くに作ることにして、自由に家族を持ってもらおう。そう決まったら問題はその都度、みんなで考え案を出し合って解決していくんだ。幸いここではそれが許されるまっさらな土地。

みんなが夢と希望に満ちている。未来をみて、明日を楽しみに夜を迎えることができるようになった事がたまらなく嬉しい。


夜の浜辺で、アオイは煙草の煙を燻らせながら、海の波音を肴にビールの缶を開けた。

ナナは家のベットでひとり眠っている。

家で煙草を吸うのを控えているので、こうしてハチと2人で浜辺で夜更かしするのも定番になってきた。


「色々あって、たくさんの人が亡くなっているのに不謹慎だけど、とても楽しい。私、ここに来て良かった〜」

「・・・そう言ってもらえて良かったよ。だって無理やり連れて来ちゃったからさ」


アオイは、しょんもりとするハチのマズルをカサカサと指先で撫でる。

《コチラの世界に未練のない魂を探していた》と、尊き方々がおっしゃっていたではないか。

アオイが向こうの世界に嫌気がさしていたのは紛れもない事実。


「むしろ、連れて来てもらってありがたかったよ。あのまま向こうにいたら、きっと私、ヤケになってた。こうやってハチとのんびり海をみれて嬉しいしかないよ」


コチラを見上げる金色の瞳は、ウルリと一際大きく輝きを増したあと嬉しげに細められ、グルグルと気持ち良さげに喉を鳴らす。

ハチだって、向こうからコチラに送られて来た。自分よりも未練も縁もあったかもしれないのに。

煙草の火を消して、本格的に両手で胸毛を撫でさするアオイの思いを察してか、ハチはポツリと言葉をこぼす。


「俺は向こうでも独りだった。一緒に来ることを承諾してくれてありがとう。アオイ」

「私に居場所をくれてありがとう。私を必要としてくれてありがとう。これからはずっと一緒よ。ハチ」


まばゆいほどの黄金の光が2人を包む。


「これからも、何があっても、俺がアオイを守ってあげるからね」

「私も。ハチとナナが幸せになるように頑張るわ」


額をつけあい誓い合った呟きは、ポワッと小さな光の球になって共に空高く登っていった。



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