イイコト思いついちゃった
今朝も朝食の後、ダンジョンに種まきをしに来たアオイとナナとハチの3人は、地下2階の要塞フィールドの隠し部屋に、せっせと[異世界の調味料]と[異世界のアルコール]と[異世界の衣服]などの生活用品を置いていく。
前日放置した分は全てなくなっていて、各部屋の湧きモンスターがリポップしているので、タネは正しくダンジョンに吸収され、順調に解析やら精査やらされている事だろう。たぶん。
2階の隠し部屋に出るモンスターは、ほとんどは[骸骨兵士]なんだけど、人型の骸骨が一部屋に10体以上湧いていたりするのはやはりまだちょっと怖い。
[骸骨兵士]は、こちらに気づくまで微動だにせずそこにただ立っているんだけど、気づいた途端に武器を振り上げて向かってくるので、全く仲良くなれる気がしない。
動きは緩慢だが、攻撃時は慣性や重力を利用したスピードがのるので侮れない。
なので、隠し扉を開けた途端に、ナナが〈風魔法〉でボコボコに砕いてしまうのだけど。
「兎や鼠の小動物モンスターより大きいせいか、魔石がほぼ必ず落ちるのが良いよね。〈無属性〉の魔石汎用性高いし」
「〈無属性〉の魔石が、どんな属性の魔力でも吸収できるとは知らなかったな」
ナナの蹴散らした[骸骨兵士]がドロップした〈無属性〉の魔石を呑気に拾い歩くアオイの後ろで、ハチが床の魔石の匂いを嗅ぎながら首を捻っている。
「馴染んだ属性があるって言い分は理解できたけど、そもそも魔素?マナ?は、この世界の万物の素になってる[万能エネルギー]なんでしょ? 〈無属性〉は属性が無いって事なんだから、何を入れるのにもこだわらない石ってすぐに思えたけどなぁ」
どうもコチラの人々は、料理も魔法も一辺倒で創意工夫が感じられない。
それが、この地特有のものなのか、この世界全般的にそうなのかは定かではないが、野菜は煮て塩だけ。肉も焼いて塩だけ。魚は食べない。ハーブやキノコなんかの、香りや出汁が出る食材があるのに一切使っていない。
素材が新鮮な分、それはそれで美味しく食べられるけど、味が一辺倒なのはいかんせん直ぐに飽てしまう。
魔法も料理と同じく、詠唱も使い方も価値もみな同じ。融通が全く利かない以前に独創性が皆無なのだ。
「後続の者に、教え伝えるには、便利ではないか?」
「便利なだけでは片付けられない、意図的な作為を感じる。だって無詠唱で魔法が使えないのは不便じゃん」
決められた〈スペル〉を特定の人間にだけ狭い範囲で教え伝える。
〈スペル〉をどれだけ早く、強く、正確に詠唱できるか研鑽しより優れた〈攻撃魔法〉を発動させるのが〈良い魔法使い〉と言われる所以だ。
この世界には、生活を便利にするために研鑽を積む者など存在しない。
「ここではアオイのいた世界と違って、魔法を見る機会がないんだよ」
「え? どうゆう事?」
ハチが言う事には、コチラの世界の人々は、わざわざ柵や壁で囲まれた人間の居住区からでて、魔獣や魔物と出くわすことなどしないという。
一般の平民が平穏な人生を送るには、広い狭いには関係なく、その囲まれた中から出ることをせずに生涯を終えるのだ。
「モンスターや盗賊が出るってわかってるのに囲いから出たい人間なんていないだろ」
「あぁ、人の生活圏《聖領域》と、魔物の生活圏《魔領域》って別れてるんだっけ。そっかぁ映画とかアニメとかも無いもんねぇ」
「そうゆうこと」
そうは言っても、生活に必要な魔法もあまり発達してるとは言えないのは、いかがなものなのだろう。とアオイは思った。
「不便を自覚してこれからゆっくり科学の進歩が始まるところなんだね」
「そうはならないのが封建社会ってやつさ」
「あ〜なるほどねぇそんな時間をかけるより、奴隷や下働きに労働させた方が早いって、結論出しちゃうんだなぁ」
現に魔法の研究は、一部の特異な魔法使いか[魔法師]しかしていない。
人間は、基本的に怠け者なのだ。そのしっぺ返しを喰らうギリギリまで惰眠を貪る。
誰かがやってくれるのなら、自分がやらなくとも良い。と考えるのが人間という生き物だ。
アオイは、拾った魔石に魔力を込める。
〈無属性〉の魔石は赤く輝き、うっすら発光する壁の光を反射させた。
せっかく数がいる人間同士で情報の共有をしない理由が、特定の階級にいる人間の既得権益を守るため。とは。
人の閃きは無限じゃない。
「なんだかもったいないねぇ」
「アオイは好きなようにやればいいさ。この世界のあらゆる不遇からは俺が守ってあげるからさ」
「ハチ・・・『ホレテマウヤロー』って叫んじゃうわよ」
「良いよ」
アオイは、首を上げ胸を張るハチに飛びついて、その胸毛を存分に堪能した。
「あー! ダンジョンでなにやってるの! 遊んでちゃダメでしょ!」
「ナナもおいで! 一緒に吸おう! ネコスイならぬハチスイしよう!」
「ハハハッ! ナナも来い!」
最後の[骸骨兵士]を砕いたナナも、一緒に抱きついて、ハチの胸毛に顔を埋め、肺いっぱいに息を吸い込む。
「お日様の匂い!」
「私は、ポップコーンの匂いだと思う〜」
「なに? ぽっぷこーんってなに?」
「あーポップコーン無いかー!! 手持ちにも無い! 思い出したら食べたい!」
「美味しいやつ!? あまい!? しょっぱい!?」
「両方できるよ! あぁ〜ないかなぁコーンの爆裂種って・・・スイートコーンよりポップコーンの方が先なんじゃなかったっけ? 最初のポップコーンって向こうでも紀元前とかじゃ無いっけ? あるかも! 次に来た時、アーサー様に聞いてみようね」
「ヤッター! あ、アオイ、なんか奥の壁が開いたよ」
「えっ!?」
ナナに連れられ部屋の最奥の壁に向かうと、なるほど、壁が開いて小さな空間がさらにある。その小部屋の中央に、いかにも宝箱という赤い箱が置いてあった。
「ミミックとか、罠とかある?」
「こうゆう時こそ[鑑定]を使うんだよ」
「そうでした[鑑定解析]」
ハチに促されアオイが[鑑定]すると、箱に[沸き部屋の宝箱]と引き出し線が出た。
「宝箱だって! ナナ! 開けてみよう!」
「うん!」
ナナが箱を躊躇なく開けると、そこには[味道楽の里]の1リットルボトルが入っていた。
「ヤッター! 養殖大成功ー!」
「ヤッター!」
「おー! 上手く行ったなっアオイ!」
アオイの目論見通り、タネは正しく発芽した。これで異世界のアイテムも、ダンジョンのドロップ品として、村の獣人達が恒久的に手に入れることができる。
「さぁさぁこの調子で色んなアイテムがドロップするようにタネまきがんばろー!」
「「おー!」」
3人はひとしきり喜び合うと、今日の朝の種まきを終え、ライズ村長に養殖成功の報告するべく村に帰る事にした。
「ところで、この開く壁って来た時は無かったじゃん? 元に戻るの?」
「ダンジョンの壁は、まぁ滅多に壊れることはないが、物理攻撃で多少壊れたとしても、次の日には元に戻っているな」
ハチが、犬のようにクンクンと壁の匂いを嗅ぎながら教えてくれる。
ダンジョンには自動で環境を修復する機能があるようだ。
「ん? 物理攻撃?」
「ダンジョンの壁や環境物は魔法攻撃で破壊することができないんだよ」
「物理でだって無謀じゃない? だって石だよ」
「無理を通せば多少は削れたり崩れたりする。ただ魔法では破壊できない。おそらく受けた魔法は魔素に返す仕組みになっているんだろ」
確かに、[森林フィールド]の木を[収納]したり土を掘り返したりできた。
植物や拾得物など[ドロップ品]として、ダンジョンの外に持ち出すことができるのは確認済みだ。
「ちょっと魔法当ててみても良い?」
「俺がやる!」
「まっ・・・」
ナナは、目の前の壁に向かって、ハチが止める間もなく魔法を繰り出した。
パフッ
「ムゥ・・・」
ナナのグローブから放たれた〈風の刃〉は、あれだけ[骸骨兵士]を粉々に打ち砕いたにも関わらず、壁に当たるとなんの抵抗もみせず弾けて消えた。
ナナは、目を細めてスゥと息を吸い、腰を落としてグローブごと拳を握り込む。
渾身の力を込めた一振りは、3枚の〈風の刃〉になって壁に向かった。
「ニャッ!」
パフッ
「ニャー!!」
「わぁ! 凄いねぇ! ナナ!」
「でも壊れなかったっ・・・」
悔しそうなナナの頭をグリグリとなでる。カワイイ。カワイイ。
「どれどれ〜」と、アオイが採取用に持っていたサバイバルナイフで壁の表面をガリガリと傷つけると、石壁は傷つけることができた。
「なんで!」
「ハハハッ、そうゆう 理 なのだろう。何せダンジョンの壁だからな」
「そう言えば、ここの魔法ってフレンドリーファイアも無いもんね。よくできてる〜便利〜・・・って、この壁、外に持ち出せないかな?」
アオイは、続けて壁に手を当てると「[収納]」と呟いて、目の前の壁1メートル四方を[収納]してみせた。
「なんと!?」
「えぇ〜! なんで! なんで!」
「ねぇ! すっごくイイコト思いついちゃったんだけど!」
どうせ明日には元通りになるんだ。
ニンマリと口端を上げたアオイは、道中手当たり次第に石壁を[収納]して村に帰った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この日のお昼のメニューは[ミートソーススパゲッティ]にした。
たっぷりの牛ひき肉を、同量のトマトで煮込んだ最高に美味しいミートソースができた。
パスタも予め茹でて[収納]しておけば、[時間停止]機能があるので、提供する時に伸びる事もないので、ウハウハで塔の[台所小屋]へ持ち込んで、鍋に入れて出来立てを提供できた。
素晴らしく美味しくできた[ミートソーススパゲッティ]は、騎士見習いと兵士達に大好評で、コチラではパスタが珍しかったらしく、大変に喜ばれた。
奴隷達と一緒の食卓で、ナナも大喜びで口の周りを真っ赤に染めてパクついている。
ですよね〜子供はこの味大好きだよね〜。
「ねぇねぇ、食べた後、ちょっと魔法で試したいことがあるんだけど、お願いしても良い?」
「魔法で試したいこと? ですか?」
アオイの言葉には、ヴァニタスが答えてくれた。
他のみんな目の前の皿に夢中だ。
よくみたら大人達の口の周りも真っ赤になっている。
細長い麺は慣れてないと食べにくかったか。
その姿に、アオイは「フフッ」と笑って、濡れタオルを出してみんなに渡した。
今日はみんな、ちゃんと服を着てブーツを履いている。
「何を試すのですか?」
「壁を持って来たから、魔法を当ててみて欲しいの」
「俺の魔法ではダメだったの。みんなのはどうかなぁ。俺、猫獣人だから上手くいかなかった」
「え? 壁?」
「壁を? 持って来た?」
口元を拭いながら、ラクスとトリスが不思議そうに言う。
「ダンジョンの壁、持って来たんだよね」
「「「えっ!!?」」」
みんなの視線が集まる。
「ミルコ様にもお願いするけど、魔法はみんなの方が強い? のでしょう?」
大事をとって、マークはまだベットで休んでいると言う。
アオイはこの後、お粥を持っていこうと思っていたので、その間に[塔]と同じ方法で壁を一画、作っておいて欲しいとお願いした。
「資材は[塔]の資材置き場に積んでおいたからお願いできる? すでに整っている石ブロックだから、[平し]の魔法はかける必要無いし、中のコンクリに魔法を問題なくかけられば、物理的には今の石壁と何も変わらないと思うのよね」
「ど、どうゆうことでしょうか?」
「ほら、[ダンジョンの石壁]って魔法で破壊できないじゃない? だったら[塔]の壁を[ダンジョンの石壁]で作っちゃえば、魔法の暴走? 爆発? があっても、周囲に被害が出ないんじゃ無いかなと思って」
「「「!!!」」」
[魔法師の塔]は、魔力暴走を起こした際の[魔法師]を、高い位置に住まわせる事で、被害を少なくするために建てられる。
そもそも、[魔法師]を中心に四方に波紋のように発生するという魔力の爆発が、具体的にどんなものかわからないけど、同じく塔の中にいる[魔法師]にフレンドリーファイアが無いとしても、今のままでは塔にはダメージはあるのだろう。当然瓦礫や倒壊による物理的な被害があるのに、どこかの階が壊れたら、その上階も中にいる[魔法師]も万事無事であるはずがない。
そしたらまた建て直すつもりだったのだろうか? そうゆう事は、これまで誰も考えなかったのだろうか?
なん年もかけて、国家レベルで塔の建設している。という割に、人力でちまちまと石を積み、かける人員も予算も不十分で、その計画は杜撰で適当なのが《神聖契約》の内容からも容易に見て取れる。
まるで本気で成功させようとなど誰も思っていないような。
《それと、どうか、子供達を助けてあげて》
『本物の貴族どもはこうはいかないぞ。アイツらは狡く奸智に長け、自分の利のためになることにのみ尽力している』
[奉納]の日に、神様達から言われた言葉と、ハチの言葉が耳にリフレインする。
アオイは、中央貴族や神殿の、仄暗い計画に勘付いていたが、それは口には出さない事にした。
ジェノサイド
短い人類史の中で、もっとも唾棄すべき人間の所業。
現世の中央貴族達は、先王の結んだ《神聖契約》のことの重大さに気づいて、土地を渡すのが惜しくなり、獣人達の根絶やしを目論んだのではないか。
そんな事、現代日本の価値観を持つ私が来たからには、絶対に絶対に許すわけがないだろうが。
皆が生きているうちに塔さえ完成させて終えば、その杞憂も意味が無い思い過ごしに変わる。
「私が来たからには、そんなクソみたいな事、絶対に阻止してやるんだから」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「マーク様、入りますよ」
ナナをダン君たちに任せて、アオイは、ミルコと一緒に騎士見習いの[小屋]に入ると、お粥のボウルを乗せたトレイをベットのサイドテーブルの上に乗せた。
マークはベットの上で横になっていたが、オリベから尋問を受けた時に見たような、顔色の悪さはすっかり無くなり、いつものように笑って片手をあげて向かい入れてくれた。
「アオイ殿!」
「聞きましたよ、マーク様。大変でしたね」
〈奴隷契約〉の更新と[魔力枯渇]について、ビアやミルコから説明を受けた。
皆その活躍を褒め称え、奴隷たちはとても感謝していた。
「大袈裟なんだよ。一晩寝たらもうなんとも無いのに」
「ダメダメ。[魔力枯渇]は貧血と同じって聞きましたよ。無理は禁物です」
「そうだよ! そのまま死んじゃう事だってあるんだ!」
「それこそ大袈裟だよ!」
[犯罪奴隷]のヴァニタスが〈身体強化〉をかけてくれたおかげで、魔力の前借りができた。そのぶり返しで身体が疲れているだけで、本来の命に関わるような[魔力枯渇]にはならなかった。
イーラが〈火属性〉の魔法をプラスしてくれたおかげで、[焼印]にかける魔法もそう多くなかった。「だから大丈夫なのに」と、マークは言った。
「学園での騎士の訓練で[魔力枯渇]は経験済みです。あれは本当に辛かった。あれに比べたら全然だよ」
「俺だってその訓練は受けたよ! その後3日も寝込んだ! マークだって・・・」
「だから、アレとは違うって言ってるだろっ」
ミルコが、無茶をしたマークを心から心配しているのがわかって胸が痛む。
仲良しなんだなぁ。
そんな2人のやり取りを、アオイがからかい囃し立てると、マークは年相応に照れた。カワイイ。やっぱりまだ子供だよ。
「マーク様ってばさすが騎士様です。イヨッ! ステキ!」
「大した事ないですよ!」
「カッコつけちゃって!」
アオイはそんな2人に微笑みながら「つきましては・・・」と、実験の許可をとる。
「それは、俺も見てみたい!」
「大丈夫?」
「大丈夫だってば! これ急いで食べちゃうね! ありがとう、アオイ殿!」
「フフッ、準備がありますから、ゆっくり食べてからにしてくださいね」
アオイは、ミルコを残して、ひと足先に[塔]に戻るのだった。
次回から火曜更新になります。




