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スキルで家造り




隊商は、昨日のうちにこの村から馬車で半日ほどの[町]に帰って行った。


諸々の査定結果は「また来週」と約束をして、宝石の類もいくつか持って行ってもらったが、恐縮し通しのアーサーとセバスに「これから何卒よしなに」と、簡素な証文1枚で快く預ける。

宝石など、買い手がいないとキレイな石に過ぎない。と言ったアオイに、セバスは驚き、アーサーはその価値感を褒め称えた。

代わりに、獣人達に必要な生活用品を持ってきてくれると言質もとった。対価はまだ手にしていないが、友好的な伝手ができただけでも、初取引としては上々だ。


「職業が[料理人]だからね。資金作りは当分消耗品でしばらくはやり過ごそう。来週アーサーさん達が来る前に家を作っちゃおうと思ってるんだけど、ライズ村長のお家を見せてもらっても良い?」

「それは構わないのですが、家を作るとなるとやはり人手が・・・」


浜での朝漁を終え、村人への配布を終えた後、ライズ村長宅での朝食をご一緒させてもらえることになったアオイは、ハチとナナと一緒に浜からライズ村長宅へ向かっていた。

普段、みんながどんな生活をしているのか興味津々だったので「ご迷惑かも」と言う迷いは振り払った。


松林の中、石と木でできた[家]は、すぐそばに石で組まれた囲いのある井戸の傍にこじんまりと佇んでいる。

金物の類が見当たらない扉は、木製の重厚な物だが、鍵のようなものはついていなかった。

開けられた扉の中で、年嵩の女性と、ライズ村長と同じぐらいの猫耳女性2人に笑顔で向かい入れられた。


「母のマリーと、妻のリリーです」

「今日はお招きありがとうございます」


ライズ村長の紹介で、マリーとリリーが手を組み頭を下げる。倣ってアオイも頭を下げた。

促されるまま足を踏み入れ、ふわりと暖かな室内に入った。


石床の土間が10畳ほどで、二口の釜戸と、腰高の石窯には薪火が灯り、村のみんなにあげたダッチオーブンが吊るしてあり、手前に簡素なテーブルと丸太椅子が設られている。

その奥に井戸に出る小さな勝手口、階段のようなものはなく、開口部の奥に寝床にしている部屋が一つあるだけで、ここで奥さんと父母4人で暮らしていたらしい。板の間はない。


「前村長である()()()()は・・・あの、先日の奉納で首を棒の先に括られてたのが、その・・・父でして」

「! 私っとんでも無いことを!!」


あの日、子供達を助けようと切り倒し吹っ飛ばしたアレがまさか。と、アオイは慌てて腕を組み膝をついて頭を下げた。


眉を下げて説明するライズ村長に寄り添ったマリーは、柔らかな笑みを向けながら、膝をついて謝るアオイに「どうかお立ちください」と手を添え言った。


「あれは、主人が自ら一矢報いたのだと誇りに思っております」

「母さん!」

「良いのよ。どうせ聞いてる人間など、ここにはいないのだもの」


「私の血を分けた兄も、先日の奉納で貴族達に、剣で、命を奪われました。あのままでは兄の子も、他の、村の子供達まで命を落とすところだったのです。アオイさ、アオイが、間に入ってくださらなかったら、きっと、私達も罰せられ、全員皆殺しにされていたでしょう。()()()いただいてありがとうございますっありがとうございますっ」


リリーが、同じく膝をついて腕を組み頭を床につけた。

アオイは慌ててリリーの身を起こす。と、リリーはボロボロと涙をこぼしていた。


「私達は、もうダメだと、あの時、本当に、村の全員が、生きることを諦めていたのです」

「それなのに、あのように笑い合って、また生きる希望をっ」


リリーを支えるように、マリーが抱き支え合って涙を流す。

ライズ村長は、2人を抱いてその背を撫でさすっている。


そうだ。事態は依然深刻だった、何を呑気にオーシャンビューを堪能していたのだろう。馬鹿か。


アオイは、出し惜しみしている場合じゃなかった。と、気持ちを改めた。


「ではご用意させていただきますね」


謝罪の応酬のあと、お互いに立ち上がり、マリーとリリーは釜戸に向かった。

ライズが持ってきた、海ですでに下処理を終えた魚を串に刺し、薪火の側に立てかけ、鍋の中を木杓子でかき混ぜている。


ライズと椅子に座って待つ間、アオイは[家]の()()()を説明した。

ハチとナナには[収納]から出したアウトドアテーブルセットに座ってもらった。


「私、【錬金術】ってスキルがあるようなのですが、物を作るのに特化してまして、材料さえ合えば、そう大変なことでもないようなのです」


アオイは、取り出したiPadの[間取り]アプリを開いてみせる。

平面図を書いて実行ボタンを押せばそれだけで3Dの躯体が出来上がる簡素なアプリだ。

ライズにわかりやすく説明するために見せたが、実際にそのまま建てるわけではない。似たような事だと簡単に説明した。


「材料の木材はなんとでもなりそうですが、石はどこからか切り出してきているのですか?」

「近くに川があり、そこから運んでいます」

「ご存知の通り[収納]スキルで資材の運搬も1人で事足りますし、それは後で連れて行ってもらうとして、建築自体も今見ていただいた通り簡単です。一軒建ててしまえば、同じ物を作るのはより簡単ですので」

「え!?」

「そうゆう【スキル】なのです」

「そ、そんなっ」


うん。わかる。全く出鱈目な魔法だよね。異世界チート様様だよ。

つきましては世帯数と、大体の家族構成を事前に知っておきたい。と申し入れ、早速ライズ村長に教えられた悲しくも、そう多くない数をメモる。

まる1日もあればできてしまいそうだ。


「たった12世帯・・・」

「村から出て、長く戻らぬ若者達もいるのですが、ここ数年連絡すら途絶えています」

「では、私の家も含めて20軒ほど建てておきましょう。浜から林に入るあの辺に家を新たに建てても良いですか?」

「それは勿論構いませんが、水から離れて・・・いや、アオイは大丈夫でしたね」


火や水の魔法を自在に使って料理をしているアオイの姿はもう見られているので、ライズは「あのように料理をする人間を見たのは初めてです」と苦笑いした。


「それなんですけど、村の人達はあまり魔法を使ってない?」

「あぁ、猫種獣人は魔力のほぼ全てが[身体強化]に回されてしまうので、放出系の魔法は苦手なのです」

「なるほど?」

「人間の街では[魔道具]なる便利なアイテムがあるらしいのですが、見た事はありません」

「それって塔の建設地にはあったりします?」

「おそらく。その、本来普通の人間は、強弱はあれど魔法は一つの属性しか持ち得ません。足りない力は魔道具を使って補うのです。その、どうか、十分にお気をつけください」

「え?」


「アオイがポイポイ色んな魔法を、気軽に使うのは、その力を狙われるってライズは言ってる」


急に話に入ってきたハチに、ナナが付け加える。


「それに、雷の魔法なんて見たことも聞いたこともないよ」

「あ、そうなの?」

「[電気]の概念がない」

「ははぁ、なるほどねぇ。その代わり魔素とかマナとか言う全物質、全エネルギーの素があるじゃん?」

「それを[森羅万象]に変えることができる【錬金術師】はこの世界にアオイしかいない」

「マジか」


ハチは「マジだ」と真剣な顔をして答えた。


「みんなも覚えたら使えるようになる?」

「どうやって教える?」

「あ、う〜ん、言語化、はできないなぁ」

「無理だな」

「魔法はイメージじゃん? 見て覚えてもらうことは?」

「無理だな」


「グムム」と、アオイが唸る。

ハチは笑って「獣人が[身体強化]から他の魔法にリソースを割くと()()なるのでは?」と、わかりやすくアオイに説明した。


「なるほどねぇ」

「魔道具は作れないの?」


ナナがまたしても真を突くので「それもそうだ」とアオイは納得した。

作るには[レシピ]を知らねばならぬ。なんとしてもマークとミルコに見せてもらおう。とアオイは心のノートにメモった。


マリーとリリーが用意してくれた朝食は、焼魚といくつかの野菜の入ったスープだった。

「粗末な物で」と恐縮していたが、天然の海塩に、焼魚は新鮮で炭火の焼きたてで、カブらしき根菜とその葉のスープは甘く優しく絶妙な塩加減で、現代日本からきた身には、紛い物が一切ない大変に贅沢な物だった。


「これは、とんでもないポテンシャルを感じる・・・」


そう、文明が発達していないからこそ得られる贅沢。本物のオーガニックだ。

アオイは、感謝と共に心から料理を褒め称え「これからは一緒に美味しい物をいっぱい食べましょうね」と笑った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


マリーとリリーにお礼を言って、ライズ村長に連れられ河原まできたアオイは、数種類の石を[収納]すると、途中で拾った楢の倒木を[複製]で増やし、あっさり新しいライズ村長の家を建ててみせた。


小一時間ほどで戻り、隣にあっという間に建ちあげた家に、目を丸くするライズ一家に、ざっと家の中を説明する。


間取りは3LDK。屋根裏を全面物置にした平家だ。

キッチンは、石造りの床をそのままに、木製の棚に、食器類や調理器具もキャンプギアで使えそうな物を置いて、小さなパントリーをつけ、穀物をガンガンに積み上げた。

バス・トイレを別でつけ、使い方を説明し、掃除しやすいように洗剤や掃除用具も用意した。

水回りの水をタンクに運び入れなければならないし、浄化槽には後で魔道具か何かで対策することにして、当然、陶器製の洋式トイレを見よう見まねで設えた。


それぞれの個室は板の間に、天蓋枠付きのダブルベットを用意し、毛布や布類は手持ちの物で賄った。

木組みのレターデスクと椅子、タンスを作りつけ、キッチンにはダイニングテーブルセット、リビングには、煙突付きの暖炉の前に、ソファとローテーブルを置いた。

簡単な内閂だが、玄関扉には鋳物の回し錠を新たにつけた。

力の強い獣人達にはあまり意味がないかもしれないが、人間にはそれなりの()()()()にはなるだろうと説明した。

とはいえ、すべての部屋にある窓は、採光にガラス窓なのだが。雨戸はつけたが、詰所のような鉄格子はつけなかった。


「こんな感じでどうでしょう?」

「「「・・・・・」」」


ライズも、マリーもリリーも、顎が外れんばかりにアングリと口を開け、佇んでいる。


「えっと・・・?」


「こ、こんなことが!?」

「こんなあっという間にっ!?」

「やはりあなた様は!」


「グルル!」


3人が跪いたところで、ハチがすかさずマズルにシワを寄せ唸ると、3人は即座に立ち上がった。

アオイは「ブハッ」と、吹き出し笑った。


「ハチ! メッ! 一度外に出ていただいてよろしいですか?」


アオイはみんなと外に出て、家一軒を丸ごと[収納]すると、すぐに同じ場所に家を出した。


「[複製]しましたので、あとは()()()()()()()です」


ライズ達が、ギギギ と、首を動かし、3人揃って顔をこちらに向ける。


「アハハッ! なんだそれ!?」


その様子に、ナナの笑い声が響いた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


各家があった場所に宣言通りに家を()()()行くと、それぞれの家族に合わせて、服も置いてきた。

いずれもホームセンターで買った、白Tシャツと、無地に色だけ変えたなんパターンかのネルシャツと、作業ズボンと、寝巻き用スエットに、女性用のスカーチョを数着づつだが、当座のつなぎには十分だろう。

その中でも、革製のベルトとブーツが大変に喜ばれた。

女性達に可愛らしいワンピースやスカートも用意したが「着ていく場所がない」と泣き笑いされた。

Tシャツの素材で下着もそれぞれのサイズに合わせて作った。

「健康のために毎日の入浴の習慣」も促した。琺瑯で猫足の浴槽を作った。これは完全にアオイの趣味だ。給水の魔道具ができたら根付いてくれるだろう。

村人達が自由に取り扱える様に、必要な消耗品は[ダンジョン養殖]に大いに期待するところである。



そうして、村の皆に感謝と感激を雨あられで受けた後、新しく建てた自分の家に入ると[自分の部屋]でナナが不満気に口を尖らせているのが今だ。


「どうしたの? 気に入らなかった? 何が欲しい?」

「今まで通りエース号で良い」

「なんで? 広くなったのに」

「どうして別々に寝るの? 俺のこと嫌になった?」

「!! そんなかわいいこと言って〜っ!!」


アオイは、あっという間に自室のベットを2倍の大きさに変えると「これからも3人で寝ましょうね!」と、ナナとハチを抱きしめ、グリングリンと頬擦りしまくった。



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