05_情報を求めて。
05_情報を求めて。
街の門をくぐると、すぐに検閲を受ける事になった。
荷物をさらりと見せ、いくつかの質問に答えるとセフィアはすぐに解放された。
危険物の所持や怪しい人物でないかを確認するお決まりの対応、という形だけのものようだったが、心配な様子で後ろを振り返る。
「あなたの名前を教えてください。あと、出身は?」
「名前はシミリアン。闇からきた。」
「闇?」
セフィアは踵を返しコミュニケーションに失敗していたシミリアンのフォローに入る。
「彼の故郷は闇に飲み込まれてしまったのです。」
セフィアは両手を胸の前で握りしめ、祈るような仕草で伝えた。大いに誤解するように。
すると検閲人は気の毒そうなまなざしをシミリアンに向けた。
「そうか。気を確かにな。いっていいぞ」
二人は会釈をして街の中へと足を進めた。
「胸が変だ。安らかな目覚めを鳥の群衆が発する声に邪魔された時と同じだ。」
おそらく不快という感情だと思う。言葉にせずにセフィアは苦笑いを返した。
門から続いていた道は、商店が立ち並ぶ大通りへと繋がった。
静寂の森の静けさから一変し、賢者の街は活気で溢れていた。
通りに立ち並ぶ商店は、日中の暖かい風を呼び入れるように扉を開け放っている。
住民らしき人々の服装は装飾のあまりないものをゆったりと着るラフなスタイルだ。
ぽつりぽつりと見える装いの異なる者たちは、外部から訪れている商人や旅人だろう。
「ここまで旅をしている人はほとんど見かけなかったけど、私たち以外にも外からきている人がたくさんいるみたい。」
シミリアンは衣類や装備品で見分けるという発想がなかった為、とりあえず「そのようだな。」と相槌を返した。
見回しながら大通りを進むと広場に到着した。
その中央には大きな石碑が置かれている。大人が2,3人その後ろにすっぽり隠れてしまえるほどの大きさだ。
手前には木製のベンチが設置され、噴水がふたつを囲っている。優しくシャラシャラと水が流れる音が心地よい。
周囲に広がる街並みはレンガや石で築かれており、この街の歴史の深さを感じさせた。
ひと通り街の様子を伺ったセフィアとシミリアンは、この場所を起点に、幻の語り部の存在について住民たちに話を聞いていくことにした。
広場で商いをしていた店主に軽く挨拶を交わした後、セフィアが尋ねる。
「あなた方は、幻の語り部のことを知っていますか?」
予想外の質問に、一瞬目の玉がひょっと浮き出てきた店主の顔が少々おもしろかったのか、シミリアンの口元がゆがんだ。
「うーむ。幻の語り部など、実際に存在するのか確かめたことはありません。ただの古い逸話に過ぎないのではないでしょうか」と店主は首を振る。「私たちも子供の頃、そんな話を耳にしましたが、直接見た者はいないですね」と並んで出店している店の主が付け加えた。
店主達に礼を言い、場所を変えてさらに情報を求めていく。
「きっと、情報を知っている者がどこかにいるはず」という希望を持ちながら。
夜が深まり、二人は街の広場に戻ってきた。
街に来るまでも歩きどおしであったが、石畳の上を歩きまわるのは脚に堪える。
セフィアは噴水の前に拵えてある椅子に腰かけて足を休めた。
「疲れたのか」
そいういうシミリアンも疲れた様子でその隣に座り、片手を椅子について足を延ばした。
噴水の流れる音が心地よい。
すっかりリラックスしてしまったので、続きは明日にしようかな、とセフィアが宿の光を探して辺りを見回すと、老人が石碑の前に静かに佇んでいるのをみつけた。
老人は叡智と静寂を纏っており、まるで時代を超えた存在のようで、釘付けになった。
セフィアはふらりと老人に近づき、「貴方は、この街の伝説、幻の語り部について何かご存知ではないでしょうか?」と尋ねた。シミリアンは座ったままで視線だけ老人に向ける。
老人はしばらく沈黙した後、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「幻の語り部の存在は、多くの人々にとっては伝説のままでしょう。なぜなら、古の力を受け継いだ者だけが、その宣託を受けることができるのです。」
さらに、目を細めて謎めいた笑みを浮かべ、「古の力を持つ者が知識の湖へと語りかけると、語り部は姿を現すのです」と付け加え、石碑の裏側へと静かに姿を消した。
その言葉の余韻がセフィアの耳に届く。
「古の力とは?!」
はっとして老人の後を追ったが、その姿は見当たらなかった。
「古の力って、光と闇の力の事ではないでしょうか」セフィアは確信に満ちた表情でシミリアンに言った。シミリアンは静かに頷き、「知識の湖といっていたな」と答え、知識の湖へ向かう決意を固めた。
突如、その様子を見ていた人物が確実な足取りで近づいてきた。 セフィアとシミリアンが振り返ると、翠眼の青年と厳つい面構えの剣士が立っていた。
「幻の語り部に会いに行くのであれば、私たちも同行させていただきたい」と青年が穏やかに言った。
シミリアンが疑問の視線を送ると、翠眼の青年は「私はこの街の賢者として研究をしています。知識の湖にはよく訪れているので、道を案内できます。もし危険があれば、この剣士が守ってくれるでしょう」と説明した。
セフィアは少し驚いた様子で青年を見つめたが、「わかりました。ご協力に感謝します。一緒に知識の湖へ向かいましょう」と答え、行動を共にすることに決めた。