04_到着
04_到着
橋を渡り切ったすぐ先で、森から平地へと景色が変わった。
間もなくして村が見えてきたので、二人はここで宿を取り、足を休めることに決めた。
宿でのひと時、セフィアは人間の姿に変わったシミリアンに向かって、少しの戸惑いを感じながらも、優しく言葉をかけた。
「シミリアン、新しい姿、感じはどうなの?」
シミリアンはしばらく黙って自分の新しい体を眺め、冷静に答えた。
「かつての”闇”の時、私は広がった暗闇の全てで感じ、聞いていた。しかし今、この肉体の限界に縛られ、自由を奪われている。」
彼は出来る限りに腕を伸ばしたり、ぐるりと体ごと回して周囲を見回した。おそらく以前の姿であればその様な動きで闇の中を駆け巡れたのだろうが、その様子は疲れで凝り固まった体をほぐすストレッチにしか見えない。
落ち着かない様子で首を傾げ、やがて低くつぶやきながら胸を押さえた。
「この世がここにしか無いような気分だが、景色が変わったり味わったり変化を受けるたびに、胸の鼓動を強く感じる。」
セフィアは、彼の言葉に微笑みながら返答した。
「それが人の心というものですよ。」
「そうなのか。人の姿である事に興味が沸いてきた。」
セフィアは、彼の人間らしい感情に、愛着を感じるのだった。
平地を二日間歩き続け、視界に新たな森が姿を現し始めた。
これが”平静の森”。
その名の通り、足を踏み入れると穏やかな時間が流れ、木々の間から差し込む柔らかな光が、心を安らぎで満たしていく。
森をまっすぐ進むと、遠くにヘンソスベルグの壮大な門が見えてきた。
セフィアは、風に舞う髪を押さえて言った。
「ここがヘンソスベルグ。知識と叡智の地ね。」
その瞳には、闇を制する手がかりを求め期待が宿っている。
シミリアンはしばらく考えた後、静かに言った。
「ところで、幻の語り部が実在するなら、もはや幻ではない。本当にいるのだろうか。」
だが、“幻”と表現される程に滅多に現れないとか、鏡像のような存在を演出している別の語り部がいる、といった可能性もある。そうでなくてはならんぞ。とシミリアンは門を見上げて話つづける。
セフィアはその姿をみてクスリと笑って「そうですね。」と相槌を返した。
「もし見つけたら、"幻の"という肩書きは取り除いてもらおう。」
冗談を交えながら会話を楽しんでいた。
「それでは、行きましょう。」
セフィアが先導して二人は街の中へと進んでいった。