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作成中無題  作者: よっく
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02_出会い

02_出会い


深い闇が森を覆い、周囲は静寂に包まれていた。

セフィアは、重たく項垂れた草の上を静かに進んでいる。

「ここまで来たのは初めてね。」

陽の光があるうちに事を運ばなければならないと、早朝に森に入り数時間たったころ、周囲の雰囲気が変わり始めた。

雨は先週から1度も降っていないのに植物は水が滴るほど湿り、奥まで見通せたはずの景色が暗くなっている。

分かれ道なくまっすぐ進みつづけてきたので戻るのは容易だが、彼女は祈りを込めた杖をしっかりと握りながら、振り返らずに進み続ける。

「この闇を払うのは私の使命……怖くはない、怖くはないわ」

自分に言い聞かせるように囁きながら、その瞳には不安と決意が交錯していた。



この重苦しい森には人の言葉を理解し、語ることができる竜が潜んでいた。

竜は森に深く入り込んだ者たちに対し、「闇に入った者はその一部となり、二度と元へは戻れないだろう」との警告を発していた。

多くの者たちはその言葉に耳を傾け引き返していったが、警告を無視し姿を消した者もいた。



セフィアもまた、この竜の存在とその警告を知っていたが、彼女の使命感は、恐れを越え、足を前へと進めさせていった。

光を灯しながら道を進むと、突如、空気が重くのしかかるような衝撃と共に、低い轟音が森全体に響き渡った。

「何の音…?」

セフィアは驚きながらも、身を固くし、震える手で杖を握りしめた。

暗闇の中から黒く長大な影が浮き現れる。

「この影は…!」

それは影の竜シミリアンだった。

彼の瞳は紫の炎で燃えており、闇そのものの力が体から溢れ出ていた。

セフィアは恐れを感じながらも、一歩踏み出した。

「私は闇に覆われたこの森に、光をもたらしにきました。」

その言葉に対して、紫の炎は静かに揺れ、重々しい声で応えた。

「この地は長い年月、闇に覆われてきた。深く根付いた闇に挑む者は、これまで全て飲み込まれてしまった。お前は、それと違うと言うのか?」

セフィアが静かに杖を掲げ、深く息を吸い込むと、その掌から緩やかに光が滲み出した。

周囲の深い闇は、霧が晴れるように徐々に晴れ渡り、日差しが樹々の間を繊細にすり抜け、葉に留まった水滴をキラリと照らした。

暗がりだった森は、光に包まれて新たな息吹に満ちていく。

やがて、その光は黒く長大な影を次第に包み込んでいった。


溢れ出た闇の力は体を包む装束に。

黒い鱗は滑らかで褐色の肌へ。

炎のような爪は指や足に。

紫の炎を灯した瞳は漆黒の瞳へ。

セフィアの前には黒髪の青年が現れ、その瞳にはかつての闇の力の影がちらついていた。



「人間の姿に…!」

青年は肩まで伸びた髪の弾力を試すように指で弾き、翼や尾があった背中を触って確認した後、考え込んだ様子で言った。

「この姿は、お前の力の影響で変わったようだ。だが、いずれ闇に包まれた姿へと戻る日が来るだろう。」

彼の言葉には不可避の未来への予兆が込められていた。

「私はあなたが再び闇を生み出す怪物になるのを止めなくてはなりません。元に戻る可能性があるならば、今、その姿のうちに倒します。」

セフィアは杖を構え相手の反応を確認する。

彼は無表情で見透かしたように言った。

「お前は俺を封じた後、この世界に闇をもたらした魔王をどうやって探すつもりだ?」

「魔王?」

この森にいた竜が全ての根源だと確信していたセフィアは眉をひそめた。

「俺たちは、彼の生み出した闇の一部にすぎない。似たような存在をいくつ倒したところで次々と新たな者が産まれ、闇を放つだろう。本当に闇を払いたいと思うなら、魔王を見つけ出さなければならないぞ。」

それが本当であればこちらの力が尽きるまで新たな敵と戦い続け、いずれは負けてしまうだろう。

シミリアンはさらに続ける。

「闇の同胞達は互いの存在を常に認識している。魔王を探すのであれば手助けしてやろう。」

ただし・・と付け加え、シミリアンはセフィアに歩み寄り、微笑みながらいった。

「魔王を倒したら、俺が人のまま生きられるようにお前のその力を全て頂く」


もし全ての力を奪われてしまったら、一体自分はどうなるのか。もしかしたら、命を失うかもしれない。

セフィアは構えた姿勢のまま考えを巡らせた。

闇が晴れた森に風が二度、三度ち通り抜け再び沈黙をもたらす。


提案についての返事がないので、シミリアンは俺の言うことを信じなくても構わないと目を閉じた。

「ここから出れば、大陸の半分が闇にのみこまれたままである事がわかるだろう。」

ではどうぞ、というように腕の力を抜き全てを受け入れるような姿勢でセフィアの行動を待った。



他に闇をもたらす存在がいるとしたら見つけ出さなくてはならない。

森に入る時に自らも果てる覚悟は決めてきたのだ。諦めるわけにはいかない。

セフィアは決意を新たにし答えた。

「私の中には、闇を打ち破る力が宿っています。それがどれほどのものであろうと、諦めません。魔王を見つけるためにあなたの力を借りましょう」



シミリアンはじっと彼女を見つめた後、少しの間を置いてからゆっくりと頷いた。

こうして、二人は魔王を見つける旅に出た。

その先に待ち受ける謎は、濃い霧のように彼らの道を覆い隠していた。


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