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心くすぐるピーチパイ・ナイト

ノリと勢いでなんとか書き切りました。

どうやら字数がオーバーしていたようでほんの少しカットしましたが、無事収まってくれて一安心です。


今回は前回のキリカさんと牧野くんの嬉し恥ずかし初デートと言うことで、内容が甘酸っぱくなりました。


少し長くなりましたが、もしよろしければお楽しみください。

 どうも、喫茶店ポルカのウェイターをしている、桐歌です。アルバイトで同僚の牧野くんから告白されて、あっという間に週末。そう、初デートの日が来てしまいました。


 常日頃マダムバトルに夢中になっていた分、終わったのが寂しくもあったのですが、マダムレスに浸る前に牧野パニックがあったので、フワフワしたまま今日を迎えてしまいました。


 牧野くんは私の一体どこを好きになったのか?がいまいち不明ですが、あの瞳は本物でした。

 私は状況に流されるかのようにツルッと返事をしてしまったものの、そこに後悔はありません。しかし、若い頃のキュンもありません。

 果たしてこれで良かったのか?と思わなくもないのですが、断っていたら後悔していたと思うので多分これで合っています。ちなみに私は『やらずに後悔するより、やって後悔したい』派です。


 告白された日にLINEを交換して、毎日LINEのやりとりをするようになりました。お互いにシフトがかぶれば、仕事終わりに少しコーヒーを飲みながら話をしたりするようにもなりました。

 牧野くんも私も、割と普段からテンションが爆上げになる事は殆どなく、割と淡々としてる方だと思っていました。

 が、しかし。どうやらそれは違ったようです。


ポコッ!


(今朝のLINEのやりとり)

『おはようございます、キリカさん。今日はデートの日です。最初の約束通り、河南映画館前に11時で大丈夫ですか』

『おはよう。大丈夫』

『じゃあ、またあとで。』

『うん』

『あ!キリカさんの白ワンピ、楽しみです』

『あ、はい』

『猫のおじぎのスタンプ』


 私はスマホをベット投げ捨てると、クローゼットを前に苦悩しました。

「あ〜!忘れてくれてなかった〜!!」

 なぜなんだ、牧野くん。なぜ、君は白ワンピにこだわるんだ。


 いや、わかっています。青少年は白ワンピ彼女にきっと憧れがあるし、私も白ワンピ女子は単純に好きです。まじで可愛いと思います。

「手持ちの白ワンピなんて…」

 私が持っている白ワンピは、丈長目のシャツワンピでした。それこそ、普段のウェイター姿とシルエットがどことなく似てなくもない。良いのか、これで?自問自答しました。

 でも、私は牧野くんより年上です。可愛さは彼の同級生には負けるでしょう。下手に可愛いワンピよりしっくりくるワンピで正解ではないでしょうか。いや、わからん。


・○・○・○・○・○・○・○


(一方、その頃の牧野くんは?)


ポコッ


 キリカさんからも、おじぎのスタンプが返事で届いた。

「あー、キリカさんにオフで会うのマジで楽しみ!」

 あんだけアピールしたら、桐歌さんは白ワンピを着てきてくれるだろうか。彼女の新しい一面が見えるだろう事にワクワクを隠せない。


 ちなみに、オレから見た桐歌さんは清純派であり、喫茶店や書店の似合うお姉さんである。

 ぱっと見は地味に見えるかもしれないが、自分のタイプど真ん中だ。色白まではいかないがインドア派だからあまり日焼けしていない肌に髪はストレートロング、体型は中肉中背である。

 しかし、どこか透明感があり落ち着く雰囲気を持っており、正直そばにいるだけでめちゃくちゃ癒される。正真正銘の大人の癒し系お姉さんと言ったところが最大の魅力である。

 ぶっちゃけ何でこんなに好きなのか自分でもよくわからないが、めちゃくちゃ好きな事だけは間違いない。毎日LINEするのが楽しい。


 今日は映画館デートだが、街中を歩く事になるし、キリカさんは絶対白ワンピを着てきてくれるだろうから、オレもモノトーンにしよう。

 黒いレギンスデニムに白シャツ、黒リュック、黒いスニーカーでシンプルにした。

 言い出しっぺは自分だが、相手の格好がわかってると自分の服も決めやすい事に気づいて自分を褒めたくなった。

 そろそろ出る時間である。

「行くか。行ってきまーす」


・○・○・○・○・○・○・○


「あ、キリカさん!こっちです。」

「牧野くん、おはよう!待った?」

「いや、来たばかりなんで」

 待ち合わせ時間より数分前に着いたもののすでに牧野くんは立っているのが見えて、私は走りました。今日はパンプスなので少し走りづらいです。


「キリカさん、ワンピ可愛い。」

会って早々に、牧野くんは褒めてくれました。どうやら、正解の範囲内だったようでよかったです。

「牧野くんも、カッコいい。いつもと雰囲気が変わるね?」

「ありがとうございます」

 新鮮だからか、お互いをまじまじと見てしまいます。そして、目が合ったので笑いました。

「今日はよろしくお願いします、先輩」

「こちらこそ、後輩くん?」

 2人で映画館の方に歩き始めました。


 歩いてる最中に私はハッとして、牧野くんに重要な質問をする事にしました。

「牧野くん、牧野くん」

「ハイ?どうしました?」

「牧野くんはポップコーン派?チュロス派?鑑賞中は何も食べない派?」

牧野くんは一瞬キョトンとしたあと、少し考えてから

「コーラ派、ですかねぇ」

「ポップコーン、買ったら食べる?」

「あれば食べますよ」

「ポップコーンのソルト味買いたいです」

「いいよ」

 そう、実は私は映画見るときはポップコーンを食べる派なんです。牧野くんは残念ながら違ったけど、お許しが出たので素直に嬉しくなりました。

 しかも、不意打ちの質問だったからか、最後は素で返事をくれました。プラスで嬉しいです。

「キリカさん、今日はデートだから、手を繋ぎたいです」

「いいよ。一旦、拭くね」

「はは、じゃあオレも拭きます」

 お互い手をふきふきしてから繋ぐと、私は道中の電車内の冷房で手が冷え切っていたのですが、牧野くんの手は程よく暖かかったです。

「あれ?キリカさん、冷えてる?」

「大丈夫!電車内の空調が強かったから」

 歩きながら、段々温もりが移って同じ温度になってきました。しかし、牧野くんはふと呟きました。

「映画館の中も冷えるかも?」

「ぐっ」

 確かに、そうかもしれません。今日のカバンは小さい為、カーディガンは持ってきていません。シャツワンピは5分丈かつ裾ロングなので大丈夫と思いましたが、今日は真夏日です。館内の空調はきっと強めでしょう。

「あー、その時はブランケット借りようかな」

「オレのでよければ、上着貸します」

 牧野くん、君は神では?用意周到とも言えます。

「え、ありがとう。お言葉に甘えようかな」

 そんな事を話していると、映画館に着きました。


 チケットを買い、ポップコーンのソルト味とコーラを手に持って準備万端です。ちなみにトイレも済ました。開場したので、中に入ってしばらく待ちます。牧野くんはパンフレットを買っていました。

「キリカさん、一緒に見よう?」

「うん、是非!」

 どうやら、今回の映画はハードボイルドラブアクションです。ミステリあり、アクションありのラブコメのようです。

 そう、実は今回のセレクトは牧野くんチョイスです。私にこだわりがない、というと語弊があるものの、守備範囲がめちゃくちゃ広い為、任せることにしました。

 今回は、探偵の奥さんとスパイの旦那さんが新婚旅行中に一つの事件に巻き込まれて最終的に敵組織とやり合う内容です。夫婦の絆も見どころらしいです。旦那さんが職業スパイのため、身体を張るシーンが割と多いとか。しかし、奥さんも探偵の為、頭脳戦では旦那さんに負けていません。

 個人の印象ではとても面白そうです。


「パンフレットにも今回の事件・ミステリのネタバレは無いから、謎解きも気になるね」

 2人で顔を突き合わせて1冊のパンフを一通り頭に入れていきます。

「えぇ、気になります」

 しかも、女優さんも男優さんも好みの人だったので、キービジュアルを目に焼き付けました。パンフに気を取られていた私ですが、

「キリカさん」

「ん?」

「タメ口にしてもいいですか?」

「ふふ、いいですよ」

 思わず牧野くんを見ると牧野くんもこちらを見ていて、嬉しそうに笑いました。

「キリカさんは?」

「んー、そうですねぇ。徐々に、かな」

 また視線を外して、パンフを捲りながら答えました。

「わーい」

(??)

 人生の中で1番平坦な棒読みのわーい、に驚いて牧野くんを見ると、顔は満面の笑みでした。可愛いです、あれ?好きかも。


 その後、パンフを2人で堪能しているうちに時間が来て映画が始まりました。控えめに言って、めちゃくちゃ感動しました。


「軽めの昼ごはん、食べる?」

「うん、ポップコーン結構量あったね」

「じゃあ、カフェランチ行こう」

「賛成」


 街中のお洒落だけど穴場なちょっと良いカフェでランチする事になりました。フレンチトーストとパンケーキをそれぞれ頼みました。

「ここのカフェランチ、美味しいんだ」

「へぇ、良い雰囲気だね。初めて来た」

 角のソファ席に案内されて、隣同士に座ったが、ゆったり目のサイズ感でまだ余裕です。お客さんも静かだが、団体客もおひとり様もいて、席はゆったり目の距離感が取られていました。心地よい音楽が流れています。


「さっきの映画、どうだった?」

「良かった。すごいハマった。」

「はは!オレも面白かった」

 2人で満足気に余韻に浸っていると、料理が来ました。早い。入店5分でくるのは流石です。いいお店ですね。

「お食事をお持ちしました」

 美味しそうなパンケーキが目の前に置かれて、フレンチトーストは彼の前に置かれました。

「「いただきます」」

 ひとまず冷めないうちに食べ始めます。そして食べ終わり食後のカフェオレタイムが始まりました。ちなみに2人とも、カフェオレもコーヒーも好きです。時間を忘れて映画の感想をシェアできるのがめちゃくちゃ楽しかったです。牧野くんも謎解きがめちゃくちゃ面白かったようで、いつもより少し饒舌でした。


「この後どうしよっか?」

「まだ時間あるし、買い物でもする?」

「良いね、街をぶらぶらしよっか」

 2人して満腹・満足になったが、まだ1日の半分がやっと終わったばかりです。2人とも焦らないタイプだし、のんびりした場所を選んだからか、時間の進みがゆったりでした。

 牧野くんには名店に連れてきてもらえて、感謝しかないです。しかも買い物まで提案してくれました。映画兼街歩きデートとなりました。


 いろんなお店を覗いては楽しんでからしばらく。ふと可愛いお店が目に入りました。

「雑貨屋さんがある!」

「見る?」

「見たい〜」

 おしゃれなインテリア雑貨を集めたお店が気になり、入ってみました。ちなみに価格は良心的です。安くないが頑張れば手は届く物から、意外と安い物まで陳列されていました。

 ちなみに買い物をする際、2人でくると2タイプに分かれると私は思っています。一緒に着いて見回るタイプと、店に入ったら各自好きなものを見るタイプです。ただ、状況によってシフトするハイブリッドなタイプもたまにいます。

 それで言うと今回、牧野くんはずっと私に着いて一緒に見てくれていました。2人で色々言いながら見て回っているので飽きません。

 所狭しと商品が売られている中、私はなんと劇中に出てきた結構なモチーフアイテムの目覚まし時計を見つけてしまいました!

「牧野くん、牧野くん」

「んん?あぁ、さっきの!」

 牧野くんはハテナを浮かべて呼びかけに答えた後、私の目線の先に気づいてピンときたようです。

「2人の家に出てきた時計、ここのお店のだったんだね」

「…買いたい?」

「欲しい、かも。劇中の2人が使うだけあってこの目覚まし、多機能デジタルだよね」

「ぷ!確かに。オレも欲しいかも」

 2人で片手に時計を持ち、顔を見合わせました。

(買っちゃう?)(え、買っちゃう??)

 じーっと見て、目で会話しました。言いたい事が不思議とわかります。

「一旦、詳細を確認しよう」

「あぁ、まずカラバリは…」

 2人でそれから30分は吟味しました。今日の想い出の品はこれに決まりそうです。


 ちなみに、劇中では主人公2人が新婚旅行の際、2つの時計の内1つを旦那が紛失し1つを2人で使う中、事件でしばらく離れて活動する事になり時計を取り合うシーンが出てきます。

『それは私の時計でしょう?!私が持って行くわ!!』

『いいや、ダメだ。これは僕が持って行く。それに君を感じられる物を持っていたい』

『だったら、なんでお揃いの時計を無くすのよ?!置き忘れてるんじゃないわよ、これがないと私、起きれないのよ』

『僕だって無理だ。起きられない上に寂しい』

『だから、それは私だって同じよ!』

という夫婦のギャグのような痴話喧嘩のシーンがあります。

 旦那さんはナイトブラックの目覚まし時計、奥さんの方はサンドベージュの目覚まし時計でした。コンパクトなサイズ感、シンプルかつレトロな四角いデザインがとてもお洒落なのですが、その真髄は多機能さです。

 この目覚まし時計、なんとアラーム機能の他にカレンダー・タイマー・循環機能・湿温度計・気圧計・ライトがついています。マグネットと、折りたたみのスタンド付き、消音機能付きでそこも便利です。

 ちなみに劇中で奥さんは偏頭痛持ち、旦那さんは喘息持ちという設定でした。だからか、台風前後は奥さんの推理力は鋭さを欠くし、旦那は咳き込んで死にそうになります。気温・気圧・湿度を把握することは偏頭痛持ち・喘息持ちにめっちゃ大事だという描写が映画の端々に出て来るのです。なぜそこ?と思わなくもないですが、ぶっちゃけ、役者さんの演技も真に迫っており、広告効果は半端ありません。スーパー超人な2人でもこの設定があるおかげで人間味が増して親近感が湧きます。諸々絶妙です。


「私、偏頭痛の気があるの」

「奇遇ですね、オレもです」

 私も牧野くんも買う前提で、どんな時に使うかを脳内でシミュレーションし始めました。手のひらに収まるカセットテープサイズなので旅行にも持っていけます。むしろ劇中の旦那さんのように紛失に注意しなくては、と考えていると

「キリカさん」

「ん?」

「オレ、モカブラウン使うんで、キリカさんはスペースシルバー使ってください」

「いいけど…なぜに?」

「たとえばですけど、2人で旅行に行ったら交換しません?」

「おお、なるほど。」

「シルバーはオレが買います」

「よっし、ブラウンは私に任して」

 悩んだ末に、牧野くんのおかげで結論が出ました。粋な提案もしてくれました。普段にない高揚感と共に応えます。

 牧野くんの提案はつまり、普段は自分のじゃない色の時計を使って、旅行で2人の時は自分のを使う、と言いたいのです。

 謎は解けたよ、ワトソン君。ドヤ顔で牧野くんに答えたのですが、キメ顔でさらに畳み掛けられました。

「これでいつでもオレを思い出して下さいね」

「もー!ずるい」

 なんで、毎回ちょっと負けた気分になるんでしょうか。照れます。けど、嫌いではありません。


 こうして、お揃いの時計をゲットし、距離感もグッと縮まる一日となりました。お店を出ると日はとっくに暮れて、名残惜しいけどもうそろそろ解散かなー?と思っていると、なんと、牧野くんから夜ご飯の提案が来ました!

「キリカさん、そろそろ夜ご飯食べよ?」

 牧野くんはどうやら夜ご飯まで一緒のつもりだったようです。すごくナチュラルで最初からそうするつもりのような声かけでした。私もつられて自然に答えます。

「いいよ」

2人でカレーライスを食べました。美味しかったです。

「キリカさん、キリカさん」

「ん?」

「もう一つ、お願い聞いてくれます?」

 カレーライスも食べ終わって、買い物についても満足感を共有して、今度こそ解散かなーと思っていましたが、なんと牧野くんが小首を傾げながら上目遣いで何か言ってきました。

 あれ?もしかして、牧野くんって寡黙クールと見せかけて結構あざとい子??と、思いながらも、可愛さに負けてしまいました。なんとなく悔しいので今更だけど大人の余裕で武装します。

「内容によるね。なにかな?」


 カランカラン…。

扉を開けると、落ち着いた空間が広がっていました。

「ここ、ずっと気になってたんです。夜のスイーツ店」

「素敵だね」

「キリカさん、ここでオレとピーチパイ食べましょう」

「え、うん。いいよ」

 2人でいそいそと案内されたテーブルに座り、出されたお水で一息つきました。牧野くんがホットティーとピーチパイを一切れずつ頼みました。

「もしや牧野くん、甘党?」

「うん。キリカさんは?」

「同類。甘党」

 2人でにやにやします。

「でも、なんでピーチパイ?」

 水を飲む牧野くんを見て尋ねました。

「ここのお店のイチオシっていうのもあるけど、先輩と食べたいのがピーチパイだったんです」

 牧野くんもこちらをみて応えてくれます。

「そっか。私モモめっちゃ好きだから嬉しい」

 にへら〜と笑ってしまいました。牧野くんも笑顔になりました。が、それも束の間、爆弾を投げてきました。

「オレのこともすき?」

「す…き?だね」

(っぐ!)

 不意打ちだったから、つい流されて条件反射のようにサラリと言ってしまいました。今日一日で何度もグッとくる瞬間あったし、好きな気持ちも増えたので、もっとしっかり受け答えしたかったのですが。やられました。

「すき?」

じーっと見て、なぜかまた聞かれました。

「すきだね」

 今度ははっきり応えました。そしてジャブを打ってみます。

「牧野くんは?」

「めっちゃ好き」

 即答でした。しかし、まだです。

「どこが?いつから?」

「最初から全部好き」

 なんということでしょうか。騙されてるんでしょうか。完璧な解答を即答されて、しかし情報が足りません。

「もっと詳しく」

「初日に優しく声をかけて珈琲くれた」

「ふむ」

(そんなこともありましたね…いや、珈琲はウェルカムドリンク的な扱いで毎回新人の子には出すんですけど。それは知ってるはずですし)

「纏う空気感が好き。見た目もタイプ」

「へぇ。私も牧野くんのマニッシュな見た目好き。年のわりに落ち着いてるよね」

「キリカさんの方が大人で癒し系だよ?」

「ふふ、ありがとう。」

 内心動揺がすごかったのですが、笑っておきました。

 無愛想とか真面目、と言われることはよくありますが、癒し系とは初めて言われました。褒められて素直に嬉しいです。

「土砂降りで濡れ鼠だったのにタオルと帰りの傘貸してくれてめちゃくちゃありがたかったです。細かい気遣いができるとこも好き」

(あれ?やばいですね、牧野くんいつもよりなんか饒舌だし止まらないな?終わりはどこでしょうか)

 内心動揺が続いて顔に出さないように必死になってきました。

「そんな事もあったね。大変だったね」

「今も優しくて好き。」

 BGMは流れているものの、人はまばらで店内が静かだからか、ずっと小さめの声で話しています。が、今のは胸にグッとくるものがありました。まずシチュエーションがずるいです。

 そして、毎度好きと言うワードで締めくくるのもずるくないでしょうか。


 と、そこにようやくピーチパイが来ました。

「食べよう、牧野くん」

「ハイ」

 2人で美味しいピーチパイをしばし堪能します。サクサクのパイ生地に爽やかで甘い桃の香りが弾けて美味しいです。半分忘れていましたがカレーを食べた後なのでこの甘さは嬉しかったです。

 美味しいピーチパイを食べながら冷静さを取り戻そう、と改めて牧野くんを振り返ります。


 なんでしょうか。この、時々出してくる後輩感にやられているのでしょうか?物静かでクールで淡白な方だと思っていたのに、割と見た目に反してグイグイ来るし、1日通して甘え上手すぎではないでしょうか。そして、私もチョロすぎないでしょうか?いや、でも、嫌じゃないんですよねぇ。

「美味しい?キリカさん」

「めちゃくちゃ美味しい。シンプルに美味しい。」

「だよね」

 微笑む牧野くんですが、こちらを優しい眼差しでじっと見ています。君、目から何か出てませんか?すごい幸せそうなんですけど。

 私までつられて幸せだと錯覚する勢いなんですけど。いや、今も幸せですけども。ピーチパイは美味しいし、喫茶店もゆったりしてるし、何より牧野くんといるのが心地よい、のですが、何となく負けた気持ちになって悔しいです。


・○・○・○・○・○・○・○


 もっと一緒にいる時間を伸ばしたくて、オレはキリカさんを前から気になっていた真夜中の洋菓子店に誘ってみた。そして、ピーチパイを一緒に食べている今。

 オレはピーチパイを食べる可愛いキリカさんを眺めながら、今日の幸せを噛み締めていた。

 映画を見てカフェに行きショッピングの中で揃いの目覚まし時計を買い、カレーを食べた。初回のデートにしては随分長い時間一緒にいるが、全然気疲れしなかった。むしろ心地良かった。もっといたいくらいだ。

 しかし、焦ってはいけない。タメ口もOKしてもらえたし、旅行の予定も布石を打ったがOKしてくれそうだし、自分の気持ちも話せたしキリカさんの気持ちも少し聞けた。今日の満足度はとても高い。キリカさんも、おそらく今日一日付き合ってくれたという事は概ね満足だったのだろう。このまま締めくくりたい。

 おそらく告白の時の感触から言っても、キリカさんよりオレの方が好きだ。キリカさんは相手もいないし、オレを嫌いではなかったからOKしたような気がする。なので、願わくば今後もっと好きになってもらいたい。

 しかし、今日のデートを見るに勝算はあるのだ。いささか飛ばし気味にいくつかワガママを言ったがキリカさんは特にノーと言うこともなく、甘えさせてくれた。

 今日のキリカさんは喫茶店で見るより何倍も可愛かった。喫茶店ではどちらかと言うとカッコイイ雰囲気だったが、今日はロングのシャツワンピでめちゃくちゃ可愛いかった。

 手首も足首も出ててオフ感が増していたし、華やかなアクセサリー類でキラキラ感を増していた。ベージュの小さなカバンも似合っていたし、普段見ないピンクベージュのパンプスは大人っぽさと女性らしさがあって、自分の為にお洒落してくれたと思うとより一層心にグッときた。

 オレも人のことは言えないが、キリカさんはドライな性格なので嫌なことははっきり断るタイプだ。

 困ったことに、存分に甘えさせてくれるせいでこちらは余計好きになっている為、相打ち所じゃない気がするが、多分これで良いのだ。

 先程、ちゃんと言質もとれた。なんと、好きだと言ってくれたのだ!万歳。

 しかもあわよくば聞きたいからと、少しズルい流れで言わせてしまったのだが、2回目に畳み掛けるように聞き直したら、はっきりと返してくれた。これは自信を持って良いのではなかろうか。

 まだまだお付き合いは始まったばかりだが、楽しみである。早く次の約束をしよう、と心に決める。


・○・○・○・○・○・○・○

 

「今日は楽しかったよ、ありがとう」

 お店を出てすぐ、感謝を伝えました。本当に楽しい1日でした。

「こちらこそ、充実した1日だった」

 牧野くんも気持ちを返してくれました。

「名残惜しいけど、そろそろ帰ろうか」

「うん」

 絶品ピーチパイも食べ終わり、気持ちの整理も済み、隣の牧野くんとのこれからにワクワクしながらも今日は帰ろう、と切り出した所、牧野くんも素直に従いました。でも、顔を見るに満足気です。きっと私も満面の笑みです。

  2人で並んで駅に向かって歩き始めました。

「次は足湯に行かない?」

「え?面白そう、いいね!」

 牧野くんが新しい提案をしてきました。2人してウキウキしながら次の計画を立てていると、駅に着いたので別れました。別れた直後に牧野くんからLINEで連絡が来ました。

『今日は楽しかった。時計もありがと。ゆっくり休んでね』

 それにすぐ返事を返して、電車に乗り最寄り駅に着きました。が、ふと思い立って駅ビルに寄りました。まだギリギリお店は空いていました。良かった!

 いつも覗く雑貨店に入り、お目当てのものを探しました。桃の香りのデフューザーと寝香水です。今日のいい気分を思い出せそう、と言う事から桃の香りをチョイス。

 自宅に着いたらお風呂を済ませ、早速、自分の部屋と枕にそれぞれ桃の香りをひと吹きしました。その香りを嗅いで癒されつつ、時計を開封し、写真を撮りました。


『今日はありがとう、おやすみ』

 とメッセージを添えてLINEを送ると牧野くんからもすぐ返事が来ました。スマホにはシルバーの時計の画像とブラウンの時計の画像が並びました。ふふ、と笑います。


 その夜は多幸感に包まれながら眠れました。知らず疲れていたのかすぐに眠れました。

 長くなりましたが、こうして、私の初デートはピーチパイ・ナイトとなったのです。

読了、お疲れ様でした。読んでいただき、ありがとうございます。


このカップル、基本ドライなのに愛は深いカップルでした。とりあえず、牧野くんはなんでかキリカさんには全力で甘えに行きます。そして、なぜかキリカさんも疑問はもつものの、受け止めます。


基本的な波長が合っているからか、物事がスムーズに進んでいきます。どちらかが「ちょっと待ってくれ、ついていけない」とならない、謎の熟年夫婦感をかもしてました。

 牧野くんが甘え上手で本当良かった。


お楽しみいただき、ありがとうございました。

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