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突然に

 心臓がビクッと、跳ねた音が聴こえたような気がした。


「ん? おお? 昨日の子か……」


 またしても急に現れる女の子に、驚きを隠し、いたって平常な様子で返答する。


「ねぇねぇ? アメドある?」


「あ、ああ、あるよ」


 気だるそうな雰囲気を演出しつつ、内心ではまたあの子に会えたことに喜んでいる自分がいた。

 いやいやいや、まさかほんとに惚れてる? そんなわけねぇよな……


 焦りながら、女の子にアメドを渡す。


「……なんとなく今日もぶんどられそうな気がしたから君の分も買っといて正解だったよ」


「あはは、ぶんどるなんて人聞きの悪い。でも、いただきます」


「ああ」


 しかし、本当にこの子はどういう子なんだろう。どこからきた?

 スマホを見ていたとは言え、さすがに誰かが近付く気配があったら気付きそうなもんだが……2日とも気付かないとかあるのか?

 この女の子やっぱり幽霊……いや、足あるな。……ん?


「そういや、まだ君の名前すら聞いてなかったな。俺は佐味 大翔っていうんだけど。君は?」


「ふぐっ?」


 口いっぱいにアメド頬張っていた。


「あー……いいよ。食べ終わってからで」


 コクコクと頷く彼女を眺めつつ、俺もアメドをかじる。うむ、やはり深夜のアメドは最強だな。


「ングッ!?」


「あーあー、そんないっぺんに食べるから……ほら、コーラあるから飲みな」


 2本買っておいたコーラのうち、1本を手渡す。


「んっ ゴクッゴクッ んん!?」


「え? どうかしたか?」


「な、何これ!? シュワシュワってして甘くて……何これ!?」


「何これ2回言ったよ? コーラだよ、コーラ。飲んだことない?」


「うん、すっごく美味しい! こんなの初めて飲んだ!」


「そ、そうか……」


 アメドもコーラも初めてか……なんだかかわいそうになってきたな。いや、もしかして超大金持ちのお嬢様とかなのか?

 でもそんな雰囲気でもないしなぁ


「あ、私の名前だったね。リオラだよ。リオラ・フローラって言うの」


「えっと、リオラさんでいいのかな? 外国の人?」


「リオラでいいよ、えっと、タイトさん?」


「別に俺もタイトでいいよ」


「そっか、アメドとコーラ、ありがとねタイト」


「おお、どういたしまして? リオラはどこから……」


 ディロリラー……デレレレーレーレーレー……テーレテー……ソイツガ


「へ!? 何何? なんの音!?」


「ああ、スマホだよスマホ。見たことない?」


「ないよ。何に使うの?」


「あー……えーっと、遠くにいる人と話ができるんだよ。ちょっと電話に出るね」


「ほぇぇぇ……」


「もしもし? サンコー? なんかあった? え!? 急にエラーが大量ってうっそだろ!? とにかくすぐ戻る!」


 電話を切ってすぐにリオラに話し掛けようとすると。


「いない…………っと、こうしてる場合じゃない! とにかく戻らないとえらいことだぞ!」


 急ぎ、職場へと戻る。


 相変わらず神出鬼没だなぁ……とか考えつつ。


 ……


 …………


「サンコー!」


「あ、先輩、見てくださいよこれ! 1/65536級っすよ?」


「なっ!?」


 エラーのアラートを検知する端末を凝視する。


 next step abnormal end.

 virtual system abnormal ended.

 10.271.49.291 node down.

 10.271.49.211 node down.

 10.271.49.1 node down.

 system DB ホスト停止しました。

 pos system ホスト停止しました。

 …

 ……

 他多数。


 おびただしい数のエラーを吐く端末を見て、数秒呆然とする。


「帰っていいか?」


「ダメっすよ先輩……んで、これどっから手つけます?」


「こんだけ大量に出るってこたぁ……ルーターかロードバランサーが逝ったか? とりあえず目に付いたサーバー、ルーター、ロードバランサーに片っ端からping打ってみよう。俺はこっから上」


「自分はこっから下、っすね。了解っす」


 試しに片っ端からpingコマンドを打ち、該当の端末へ疎通が出来るか確認する。


「ダメ……ダメ……ダメ……これもダメ……ダメだ! そっちは?」


「同じっすね……全滅です」


「あーー……今日は平和だと思ってたのになぁ……とりあえずサーバー室見てくるわ」


「了解っす。とりあえず上司に連絡しときます?」


「頼む。ざっとでいいから報告しといてくれ。っつっても、あらゆるところから停止のメッセージ出てる、くらいしか報告できることないけどな……あはは……」


「先輩、笑い事じゃないっすよ」


「わぁってるよ。惨憺たる状況に思わず苦笑いしただけだろ。ははっ、サーバー室はエラーでランプが燦々と光ってるだろうな……散々な状況だぜ」


「激アツじゃないですか? …………早く見てきてください」


「へいへい」


 サーバーを一括管理しているサーバー室へ小走りで向かう。

 うちのプロジェクトは、よりによって監視室から一番左奥、歩いて2分ほどかかる。そこを小走りで1分半くらいに縮め、軽く肩で息をしながら、サーバー群を見る。


「ぐおおおおおお逝ったああああああああああ! ぬあんじゃこりゃあああああ」


 ランプが……ランプが……ほとんどのラック……てか全部じゃないか?

 アンバー点灯とアンバー点滅してるもので溢れかえっていた。

 ※アンバー点灯、点滅……オレンジとか赤系統の色。主にサーバーのどこかで異常や故障が発生していることを示す。


「はぁーーーー……おいおい、こりゃ……どこが原因かわかんねぇぞおい!」


 想像していたよりもかなりひどい状況に思わず頭を抱える。


 ぐらっ……


 ぐらぐらっ……と、視界が揺れる。


「は!? うおおおお!? なんだなんだ!? 異変が起きてたのはまさか地震の予兆だったってか!? 冗談じゃないぞ!」


 耐震工事はしてあるけど、人間はそうはいかない。


「どうする!? すぐ収まるか!?」


 相変わらずぐらっぐら揺れていて、さらに増しているようだ。


「くそっ、そういやサンコーは無事か!? 内線内線」


 ややパニックになりながら、サーバー室の地面に転がってる電話機を手に取り、内線を掛ける……


「……だめだっ、そもそも受話器取った時の音がしない」


 どうする……どうする……とりあえず廊下に出るか?

 ここよりはマシだろう。


「くっ、揺れが……ひどくて……進めない……」


 くそっ、廊下までが遠い!


「ピュオー! ピュオー」


「な、なんだ!? なんの音だ!?」


 急にけたたましい音が鳴り響き、思わず固まる。


「火事です 火事です 消火剤を放出します! 危険ですので避難してください!」


「まずい! 消火設備か! くそっ……避難したくたって揺れで動けねぇんだよ!」


 這いつくばりながら、必死に出口を目指すが、複数回の警報が鳴った後、


 プシューーーー!


 っと、消火ガスが放出される音が聞こえる。


「おーーーーい! まだここにいるぞ! 人が! 誰か…………」


 白く染まる景色の中で、俺は徐々に……気を失った。

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