夜のお楽しみ
「3点と、袋代で378円でーす。ん? 佐味さん? どうかしました?」
「え? あ、いや、ちょっとぼーっとしててね、えっと、交通系電子マネーで」
「うふふ、お疲れなんですね」
ピュリンッ
とICカードのタッチ音を聞きながら、
「夢見さんもね。大変だよね」
「そうですねー。夜中ってやることけっこうあるんですけど、やっぱ基本的に暇なんですよね。でも、最近は佐味さんが夜中に喋り相手になってくれるのでけっこう助かっちゃってます」
チロリ、と舌を出して上目遣いでこちらを見てくる夢見さん。
なんと小悪魔的な……こんな可愛い子なら……彼氏とかいるんだろうな……。圧倒的敗北感……。
「あはは、お世辞でも嬉しいよ」
「もうー……お世辞じゃないのにぃ」
「あ、アメド、ありがとう。またくるね」
「はぁい。またのお越しをお待ちしてまぁーす」
真夜中なのに元気な夢見さんをもう一度眺めて、職場のビルのほうへ歩きだす。
彼女いない歴=年齢=25歳の俺に、いつ春が訪れるのかねぇ。初めてはやっぱ夢見さんみたいな人がいいなぁ。
職場のビルの階段……を登らず。真横……右側にある階段を登る。
ちょっと立地が意味不明なんだけど、この階段を20段ほど登ると行き止まりの踊り場に到着する。
そこには脚の部分が苔むしたベンチが置いてある。
座るところ自体は俺がしょっちゅう座っているのである程度はきれいだが。
……何を思って誰がこんな階段を作ったのだろうか? なぜかうっすら光る電灯もあるし。何用??
右を見ると、ちょっと距離を置いて別の道路へ繋がる獣道があるが、ジャンプするにしてもちょっと厳しいしな。
やっぱ意味がわかんないな。
でも、おかげで俺はこのベンチを独り占めできるってわけだ。使ってる人見たことないし、そもそも今は深夜3時過ぎ。ド田舎にある職場だから人も少なくて素晴らしい。
俺のようなぼっち気質な人間には実に過ごしやすい環境だ。
「さて、休憩時間をエンジョイするとしますか」
ガサゴソと、コンビニの袋を漁る。
「くっくっく、この深夜のアメドは背徳感がたまんねぇぜ……」
ぷっくりたっぷり付けられた、ザクザクっとした衣。噛んだところを想像しただけでワクワクするぜ!
でも慌てちゃいけない。アメドにはこれが必須。
ディスペンパック……今はパキッテと呼ぶんだったかな?
ケチャップとマスタードが入った容器をパキリと折り、アメドに均等にかけていく。これ、最初に考えた人すげーわ……めちゃくちゃ便利だもん。手も汚れないし、2種類同時にかけられるのが最高だ。
……うむうむ、いい具合に赤と黄色の2本の波がアメドに描かれた。ふつくしい……
「ではいただきます!」
誰もいないのだ、おっきな口でばくりと頬張る。
ザクッ! と外側の衣を突き破る感じが心地いい。じゅわっとした油感。
遅れて、中の生地。ややモソっとしたふわふわ感。そして、明らかに安っぽいソーセージ。
このジャンキーな感じがたまんねぇぇぇ……
100円でこれが熱々で食べられるなんて、コンビニはえらいよ……何年も値段変わらねんだもん。最高よ。
「さて、コーラ……じゃなかった、野菜ジュース買ったんだ。炭酸飲みたいな……なんで俺は野菜ジュース買っちまったんだ。
こんな油ギッシュなもん食ってるのに今さら健康気にしても……ングッ? あれ? けっこう美味いな。どんなやつ買ったっけ?
えーと……夏目前!トロピカル日向夏MIX味……なんかよくわからんな。うまけりゃなんだっていいや。これまた買お」
さて、もう1口っと、
「ねぇ、お兄さん」
「んあ?」