冒険者デビュー③
「はいィ! 次……って早速来たのかィ」
「はい、登録してきたので、ほら」
「そうかィそうかィ。早速あたしんところにくるとはいい心がけじゃないかィ。そんで? 何を売るんだィ?」
「これとこれとこれと……あとこれも」
「……あんたほんとに新人かィ?」
「ええ、まぁ……」
「そうかィ……ありがたいけどねェ……」
「?」
獣人のジェニファーさんが、なんか驚いたようなビビってるような嬉しいような複雑な顔をしている。
「はいよォ。色つけといたよォ」
「ありがとうございます!」
使い道がわからない魔石3種類を全部売り払ったら350万イェンになった。計算した感じだと、300万弱のはずなので、50万くらいおまけしてもらったことになる。ありがたい!
……この額はなんかよくわからないけど、そこそこ高いんじゃないか?
この世界の物価がよくわからん。とりあえず飯食いに行こう!
ギルドカードに300万入金してもらい、後の50万は無造作にポケットにぶちこんだ。
ちなみに、このまま受付に行ったら、魔石の売却実績により、あっという間にBランク、金色のギルドカードに昇格してしまった。
魔石を買い集めて売却しただけなんじゃないかと疑われそうになったが、そもそも今回売却した魔石を落とす魔物が出るポイリー草原自体に人が寄り付かないらしいので、そもそもこれらの魔石が出回ることがほぼ無いらしい。
というとこから、なんとか信じてもらえた。
Aランク以上は昇級戦が必要と言われたが、面倒なのでパスした。別にランクでどうこうなるわけでもなさそうだし、受けられるクエスト種類がどうとか言われたけど、今んところクエスト自体やる気もない。
せっかく異世界にきたんだし、気ままに暮らしたい。
「さて、屋台屋台、っと。異世界の醍醐味はこれだよね」
クエストだのランクだのは生きる上では二の次だ。
やはり衣食住が最も大切であると言えよう。
俺はその中でも食を重要視している。
街中を歩いていると、色んな屋台が並んでいる。
「ふむふむ……あれが300イェンか。あっちの服が2000イェン……こっちが……」
色々な商品を見比べて見た感じだと、驚くべきことに、どうやら1イェン≒1円くらいの物価らしいということがわかった。
ってことは……さっき売却した350万イェンは……実質350万円ってことか!?
ほとんど俺の年収じゃねぇか! 1日でとんでもない額を稼いじゃってるよ!
そりゃー、受付の人達も変な顔するわけだ……今後はちょっと気をつけないとな。
「とりあえず市場調査も終わったところで、っと」
最初に目についた屋台のお肉を買うことにする。じゅーじゅーと肉の焼ける音と匂いが気になっていたのだ。
……何の肉かはわからないが、そこらにいる人も食べてるし、死にゃーしないだろ。
「おっちゃん、串1本ちょうだい!」
「あいよ」
「どれどれ」
行儀悪いかもしれないが、我慢出来ずに串にかぶりつく。
ジュワッ! と肉汁溢れ、口の中に……
「いや、しょっぺぇな……」
なんていうか……スパイス感が足りない。肉汁は確かに溢れてるんだけど、いまいち美味しくない。
なんていうか生臭さが残ってるのに、塩だけしっかり振ってあるから、塩辛いだけなのだ。
地球の食品で例えると、鶏モモ肉に塩のみをたっぷり振って焼いただけって感じの味だ。
まぁ昨日自分で焼いたやつよりは塩気があるだけマシなんだけどなぁ……美味しくはない。
地球出身者としてはツラい。アメド食べたい……。
ジャンキーな味が恋しい。
色々と食べてみたのだが、やはりどこも似たり寄ったりの味だった。
「うーん、みんな特になんとも言わずに食べてるしなぁ……俺が贅沢なだけなのか?」
とは言え、この食生活は是が非でも改善しなければ。
探せばスパイス類もあるだろうし、小麦粉とか砂糖とかその辺もあるはず。
……歴史の教科書で見たような、スパイス類が目が飛び出るような高級な世界だったりしねぇだろうな?
「はぁ……」
とりあえず腹も膨れたし、宿を探そう。
「あ、違うな。先に服買いに行かないと」
……
…………
「うん。高いな。ぼられたか?」
見かけた適当な服屋に入って、この世界でよく見かける感じの服装を3セットほどチョイスしたら5万とかいったぞ?
食品は安いけど服は高いのか、地球の服が安すぎるのかよくわからんな。
ともあれ、俺もこれでこの異世界ちょっと馴染めたかな?
「今度こそ宿屋を……んん? あれは……」
フーシャの止まり木亭と書かれた看板の宿屋が目についた。
フーシャの止まり木亭……あれ? どっかで聞き覚えが……
━━━━
「ほんじゃ、俺はここで。フーシャの止まり木亭って宿屋をやってるからよ。ま、機会があったら泊まってくれや」
「あ、ジャイルさん! めちゃくちゃ助かりました! ありがとうございます。お金稼いで泊まりに行きます!」
━━━━
「あ」
この街に入るときに親切にしてくれたおっちゃんだ!
おっちゃんの宿屋これか!
こんなんもうここに泊まるしかないだろ!
パッと見、普通の宿屋だな。THE・宿屋って感じ。
RPGのゲームとかでよく出てきそうな見た目で、けっこうそそる。
ギィ、と音を立てる扉をくぐって中に入る。
「いらっしゃ……おお! タイトじゃねぇか。早速きてくれたのか?」
「あ、ジャイルさん、やっぱあなたの宿屋だったんですね」
「おうよ。ここにきたってことは……もうカネ稼いだのか?」
「ええ。ちょっと小金持ちになりましてね」
「そうかい、そいつぁーよかった。まぁゆっくりしてってくんな。飯はつけるかい?」
「はい」
宿屋ならご飯も期待できるだろう。
「3食付きで1泊6000イェンだが……これも何かの縁だ。タイトなら5000イェンでいいぞ」
「おぉ……じゃあとりあえず7泊で」
35000イェンをテーブルに置く。
「羽振りがいいねぇ。ほんじゃこれが部屋の鍵だ。タイトは2階だな。飯の時間は大体決まってるが……ああ、あれだ、あの表だ。あの時間にきてくれると助かる」
「わかりました」
「ごゆっくりぃ~」
2階って言ってたな。鍵を受け取って階段へ向かおうとすると……
「あーーーー! タイト!!」
え?




