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90.スライムVSゴーレム

「<進化する輝き(シルバー)>」


 少年は攻撃する手を止めない。右手のひらを胸の前に出すと、リンゴを潰すようにグッと握りしめる。

 あの技名は――爆発だ!


「くそっ!」


 俺は地面を転がって素早く位置を変えた。同時に、けたたましい爆発音が耳朶を打つ。

 頬に土の礫がぶつかる。俺が元いた地面はえぐれていて、爆発の威力を物語る。


 休ませる間もなく、少年は俺の方へ走って距離を詰めてきた。


「<雷撃(ボルテックス)>!」


 迎撃するため、覚えたての雷魔法を放つ。

 うねるような雷が一直線に進み、少年の顔の辺りを捉えた。


「<壊れない双璧(ダイヤモンド)>」


 しかし、直撃する寸前。少年は右手を前に出して、手のひらで雷を受け止めたのだ。

 <雷撃(ボルテックス)>はまるで建物に吹く風のように、いとも簡単にかき消されてしまう。まさか、攻撃だけじゃなく防御にも優れているのか!?


 ひるんでしまった。それでも攻撃の手は止まらない。少年は俺の目の前で飛び上がると、両手の拳に銀色の光を宿らせる。


「<比類なき豪傑(ミスリル)>」


 放たれたのは、連撃だった。

 拳が無数に分裂して、俺を仕留めようと真っすぐに伸びてくる。

 この一発一発がさっきの衝撃波以上の威力だっていうのか!? 冗談じゃない。こんなの食らったら誰だって死ぬぞ!


「鉄壁スライム!」


 即座に鉄壁スライムを召喚し、目の前に配置。俺が下がっている間、緩衝材の役割を果たしてもらう。

 一秒も経たないその刹那。連撃を食らった鉄壁スライムが弾けた。盾が細かく砕かれ、目の前で飛び散る。


 こっちの最強の盾を用意しても、こんなにあっさりとやられてしまうのか。

 だが――隙は出来た!


「だったら、これでどうだ!」


 俺は緋華を引き抜き、切っ先を彼に向けた。同時に、炎が刃を取り囲むように絡みつき、真っすぐと彼を襲う。

 いける。鉄壁スライムを容赦なく叩き潰したことで、少年には大きな隙が出来ていた。この魔法を起点に反撃を――


 そこで違和感に気づいた。少年は避けない。

 魔法を防ぐために、さっきの<壊れない双璧(ダイヤモンド)>とかいう技を使うのかと思った。


 違う。この少年は生身で俺に突進を仕掛けてきている。なのに炎を避けない。

 炎を恐れていないのだ。


 炎を全身に浴びながらなお、俺に攻撃をぶつけることだけを考えている。だから避けない。

 少年の生気を失った青色の瞳に、俺が放った炎が映った。俺はその光景を目に焼き付け、ただ愕然としてしまった。


「<目指した理想郷(ゴールド)>」


 少年が拳を俺の腹に向かって突き付ける。刹那、白い爆発が間近で起きて――

 俺は攻撃を食らった。


「ぐはッ!」


 腹部に激痛が走る。一瞬の痛みの後、遅れてマグマのような熱が走る。俺の体は吹っ飛ばされた。

 地面を転がり、俺は腹部を押さえた。口の中に土が入って苦い。

 これまで散々地面を転げまわってきたけど、ここまで痛いのは初めてかもしれない。なんせ、爆発をモロに食らったのだから。


 少年は、俺が攻撃を食らったことに対し何も動じない。嬉しそうな顔をするでも、同情するでもなかった。ただ無表情のまま、こちらへ歩いてきている。

 わからなくなった。どうして奴はあそこまで無情に敵を追い詰められる? まるで表情のない人形(ゴーレム)を相手にしているようだ。


「ゴーレム! どれだけ時間をかけているんですか!?」


 マシューが声を張り上げた。少年が足を止める。


「<比類なき豪傑(ミスリル)>を使っても仕留められないとは何事です!? くだらないことで無駄遣いされては困ります!」


 叱責。俺にはその意味がまったく理解できなかった。

 状況から見て、俺が追い詰められているのは誰にでもわかるはず。なのに、なぜ?


「……まあ、ワタシはいいんですけどね。少なくなったらオルティアで補充すればいいだけですから。ただ、苦しむのはアナタですよ?」


 少年がはっとした表情になる。その時はじめて、彼の目に恐怖のようなものが映った。

 冷汗が額を流れる。呼吸が乱れる。それはまさに怯えている子供のようだ。

 なんだ? 炎を目の前にしても動じなかった少年が、マシューの言葉で恐怖を感じている? 一体なぜ?


 思考を巡らせていたそのとき、ガサガサと茂みが揺れる音がした。


「……おいおいおい、嘘だろ?」


 音がした方には、一人の男が立っていた。男はこっちを見ると、ニヤリと薄ら笑いを浮かべる。


「お前は……バリー!」


 バリーだった。そうだ、彼はレベル35。<インビジブル・ウォール>の効果範囲であるレベル30を超えている。

 さしずめ、レベルの制限を超えている彼は、拘束を振り切って陰で俺とイルザの話を聞いていたんだろう。そしてついてきたわけだ。


「なんですかアナタは? 悪人ですか?」


「……いいや。少なくともあんたにとっては善人だよ。だって俺は計算を間違えない」


 バリーはマシューの前に立つと、言い放つ。


「俺をあんたらの仲間に入れてくれ。そこの男に復讐したいんだ」

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