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80.違和感【SIDE:バリー】

「おい! どうなってる!!」


 大会1日目終了。夕刻になって、俺は運営委員の男を怒鳴りつけた。


「なんであの三下が勝ち上がってるんだ! 剣はないはずだろ!?」


「そ、それは私が聞きたいことだ! 武器無しで大会を勝ち進むなんて話は前代未聞で……」


 俺は男の胸ぐらをつかみ、肥えた体を壁に叩きつけた。男の『うっ』という悲鳴が部屋に響く。


「確認するが、ちゃんと俺の命令通りに剣をへし折ったんだよな? もし手を抜いていたら……」


「ちゃ、ちゃんとやった! 真っ二つにしたのは見ただろう!?」


「じゃあやっぱりおかしいのはあいつか……どうなってやがる?」


 俺は男から手を放し、部屋に置かれたテーブルに腰かけた。

 この世界はシンプルだ。計算さえ間違えなければ全てが思った通りに進む。

 しかし、あの三下――アルクス・セイラントは外れ値だ。何を起こすかわからない。


 現在の時点で、奴は俺の計算を二つ覆している。一度目は最初に対峙した時。そして二度目は剣がないことがわかった時。

 剣さえ失くしてしまえば、奴は大会に出る理由を無くす。だからわざわざリスクを冒してまでこの中年を脅したんだ。


 なのに――奴はどうして大会に出続ける? あれだけ会場から罵倒され、意味もないのに、どうして舞台に上がる?

 そして気になるのは二回戦。奴は鍛治師の女を連れてこないで試合に臨んだ。


 素直に考えれば女が観客からの罵倒に耐えきれずに逃げた、と解釈できるがーーだとすれば三下が大会に出る理由も同時になくなるはず。


 拭いきれない違和感。奴らは何を考えている?


「おい、剣が折れた場合、奴らは新しく剣を用意することはできないんだよな?」


「あ、ああ。大会の規則で、二本目の剣を持ち込むことはできないはずだが……」


 運営委員が言うなら間違いない。仮にあの鍛冶師が剣を作ってきたとしても、試合に持ち込むことは不可能。

 やはり、俺の考えすぎだろうか。あの二人組はとうとう頭がおかしくなってしまっただけなのだろうか。


「あの二人組を失格にはできないのか? 剣も持ってきてないし、鍛冶師もいないんだろう?」


「それができないみたいなんだ。別の武器を使ってはいけないルールがあるだけで、武器を必ず持参しないといけないわけではないし、鍛冶師が入場するのも宣伝の意味があるっていうだけで……」


「使えねえな!」


 俺は思い切りソファを蹴り倒した後、部屋の外へ出た。

 外はすっかり日が傾いていて、オレンジ色の光が苛立った俺を照らす。


「ずいぶん荒れてるみたいだな」


「……エルゲンか」


 会場の外で俺を待っていたのは、相方のエルゲンだ。

 他人に対しては嫌みったらしい口調のこいつだが、俺の前ではそんなことはない。逆に、俺もこいつの前では自分を出せているような気がする。


「で、どうだった?」


「あの三下をなんとか排除しようと思ったが、どうにもならないみたいだ。不正でもでっち上げれば話は別かもしれないけどな」


「ははは、えげつないな。それもお前の計算ってやつか?」


 俺は黙った。なんとなく、俺が三下に怯えているんじゃないかと思われるのが嫌だったからだ。

 エルゲンはそんな俺の心を察してか、また笑った。


「お前なら勝てるさ。これまで一緒にやってきて、お前が計算を間違えたことなんかないだろ?」


「……ああ。絶対に勝つ。だが、もしも危ないことがあったら」


「もちろん、俺がこの前みたいに助ける。俺たちは最強のコンビだからな」


 エルゲンと出会ったのは半年前。カラスみたいな目をして燻っていた俺たちは、あの日ゴミ捨て場で出会った。

 なぜか、こいつだけは俺の気持ちを理解してくれるような気がした。エルゲンも同じように感じたらしい。


 俺たちは互いを利用しあうことにした。そして、誓ったのだ。

 絶対に大会で優勝し、名声を手に入れるのだと。


 明日、決勝戦であの三下を潰す。俺たちは計算を絶対に間違えない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 脅迫して剣を折らせるって、それなんて三下? [一言] いくらなんでも最初から剣が折れてるってことに誰も突っ込み入れないのは流石に違和感がすごい
[気になる点] 『二本目の剣を持ち込むことはできないはずだが』、 これは一本目の打ち直しはOKってこと? 素材変わっても果たして一本目の打ち直しって認めてもらえるのでしょうか?
[一言]  石橋を叩き壊して、自前の橋架けて渡るタイプ? ダセェ。
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