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78.イレーナらしさ

「イレーナ……? どうしたんだよ、そんなところに座って……」


 イレーナが振り返る。彼女の目は涙でうるうるとしていて、いつもは覇気がある彼女からは想像できないような、そんな表情だった。

 よく見ると、彼女の足元には工具が散らばっている。投げ出してしまったように見える。


「……駄目なんだ」


 イレーナは細い腕で涙をぬぐいながら、ぼそりとつぶやいた。


「駄目って、何が?」


「この剣じゃまた壊れるかもしれない! あたしの実力じゃ駄目なの!」


 もはや躍起になってしまったように、イレーナは座り込みながら叫んだ。


「なんか喋り方おかしくないか?」


「キャラ作りに決まってるじゃん! あたしはあんなに元気な女の子じゃないの!」


 明かされる衝撃の事実。しかし、それに驚いているまもなくイレーナはどっとまくし立てる。


「アルクスは強くて、あんなに頑張ってるのに、足を引っ張ってるのはあたしじゃん! 剣が折れたのも、バッシングされたのも、全部……あたしのせいじゃん!」


 イレーナは涙をボロボロ流しながら、思いの丈を叫んだ。まるで今まで溜め込んできたものを全て吐き出すように、イレーナの言葉は止まらない。

 何も言い出せず、俺は咄嗟に足元に視線をそらした。そこで、あるものを見つける。


「なんだこれ?」


 それはぐしゃぐしゃになった一枚の紙だった。開いて中身を確認する。


――


 ・2メートルの大剣

 ・金と銀の二刀流

 ・炎が噴き出す魔剣

 ・瞬間移動の剣

 ・なんでも斬り倒す斧


――


 そこに書き綴られていたのは武器の特徴。イレーナが書いたものだろう。

 その共通点は一瞬でわかった。大会に参加した選手の武器だ。


「わかんないんだよ……どんな武器を作ればいいのか。何を作れば次はちゃんとできるのか、考えても考えても手が動かなくて……」


 イレーナの手が震える。彼女はこれまでも何度も同じ葛藤を繰り返したのだ。


「アルクス……あたしはどうしたらいいの!? こんなあたしでもアルクスの足を引っ張らないようにすれば――」


「イレーナの好きなようにやればいいんじゃないかな」


「は……?」


 イレーナがきょとんとし、目を見開く。


「真面目に言ってよ! あたしは真剣に――」


「真面目に言ってるよ。俺は相方がイレーナだから大会に参加したんだ。他の参加者の武器を真似た武器を持つために参加したわけじゃない」


「でも、あたしが作った武器じゃまた笑われるだけじゃん! アルクスだってわかってるでしょ!?」


「笑われたっていいさ」


 俺は収納スライムを出し、インベントリを開いた。中から普段使っている片手剣を取り出す。


「それは……」


「最初にこの店に来た時に、俺はこの剣に惹かれたんだ。だから剣の前に立ち止まった」


「でも、そのあとはあたしが押し売りして……」


「うん。あの時は正直驚いたよ。でも、今となっては後悔してない」


 剣を握り、顔の前で横に構える。刃に反射して、俺の目が映った。


「俺はこの剣に何度も命を救われてきた。俺はこの剣がすごいことを知ってるし、これを作ったイレーナがすごいことも知ってる。だからイレーナはイレーナでいいと思う」


「あたしが、あたしで……?」


「俺はイレーナの剣で試合に出たい。だから、イレーナの好きなようにやってほしいんだ」


「それで負けることになっても?」


 俺は首肯した。これで負けても文句を言われても、文句なんてあるはずがない。

 俺は再びインベントリを開き、大きな鉱石を床に落とした。


「ミスリル鉱石。約束よりちょっと早いけど、これを使って。決勝戦までに剣は間に合いそう?」


「……うん。できるかわからないけど、頑張ればきっと」


 それだけ聞ければ充分だ。俺はワープスライムを出して移動先を会場へつなぐ。


「大会は俺一人で出るよ。イレーナは剣に集中して」


「わかった。やってみるよ」


「それから……喋り方はいつもの方がしっくりくるかな」


「う、うっせえやい! 黙ってろい!」


 慌てて取り繕うイレーナがおかしくて、俺は思わず笑ってしまった。

 でも、イレーナは元気な方がいい。

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― 新着の感想 ―
[一言] かなりビックリ。
[一言]  流石、アルクス。無自覚に女の子を誑す男。
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