7.新入り少女の失望【SIDE:パーティ】
このパーティは最悪だ。
私、ライゼ・メイトランドはパーティに入団し初日にして、そのことを確信していた。
貴族の娘である私にとって、金銭的な理由で冒険者をやる必要はなかった。
しかし、私が生まれ持ったスキルは<四大元素>というものだった。1万人に1人しか発現しないと言われている、控えめに言って大当たりのスキル。
私はこのスキルを人を守るために使いたいと思った。だから強くなろうと誓った。
両親は『貴族が平民を守る必要はない。平民が貴族のために死ぬべきだ』と言ったが、そんなのは間違っている。人の上に立つ者が弱くては話にならない。
そんな両親を見返すために、私は冒険者になることを誓った。そして、一流のパーティに入って実力をつけようと思った。
……だと言うのに、残忍な刃は大ハズレだった。
「やだー、ダン様かっこいい~!」
「はい、お口開けて! あーん!」
特に失望したのは、パーティリーダーのダン。今はニヤニヤしながらパーティメンバーの女に食事を食べさせてもらっている。
これは今に始まったことではない。ダンと他のパーティメンバーたちは、一日中ずっとデレデレとしている。真剣さが全く感じられない。
倒すモンスターも弱いものばかりで、はっきり言って趣味の領域だ。強くなろうという意気込みは全くと言っていいほど感じられない。
私は残忍な刃はS級パーティだと聞いてきたのだ。それに、受注したクエストもそれなりの難易度のはず。
なぜこんなパーティがS級なのか。その答えはあっさりと判明した。
ダンの本名はダン・オルテーゼ。要するに領主の息子だ。
家のつながりで何度か見かけたことがあった。いけ好かない金髪の男という印象しかなかったし、今でもそれは変わらないけど。
どうやらダンは家のコネを使って不正にパーティのランクを上げているらしい。
おまけに実力の方もかなり盛っているらしく、私が聞いたときはレベル40だったが、実際は12くらいだろう。
周りをイエスマンの女で固め、不正にパーティのランクを上げる。その理由は、おそらく王女との結婚を目論んでいるためだ。
冒険者として噂を広めていき、英雄としての噂が広まれば王女の婚約者を探すときの相手として名前が挙がる。
最終的には権力を手に入れる、という算段だろう。
はっきり言って気持ちが悪い。虫唾が走る。
私は強くなりたくて冒険者になったのに、両親がパーティを組むことを許したのは残忍な刃だけだった。
今思えばそれも納得がいく。私をダンのハーレムの一員にして、領主と懇意になるための戦略だったのだろう。
私は貴族という生き物が嫌いだ。人間とはこうも醜くなれるものなのかと思う。
「おい、ライゼ」
一人で夕食を摂っていると、ダンが話しかけてきた。
「お前もこっち来いよ。すぐ慣れるからよ」
「お断りよ。あなたたちと一緒にいると私まで同じレベルになるじゃない」
「おい、口の利き方に気をつけろよ? 俺はパーティリーダーだ。お前の待遇は俺が決めるんだぞ」
おまけに、私の家の方が下流であることをダンは知っている。抵抗すれば家にも被害が及ぶという脅しだろう。
「さ、来いよ。テントはあっちだ。他の女たちも準備は出来てるから、お前も早く――」
「触らないで!」
私の肩を触ろうとしたダンの手を叩いた。すると、ダンがキッと私を睨みつけてきた。
「調子に乗るな!」
刹那、私の頬にはダンの強烈な平手が飛んだ。思わず私は地面に倒れる。
「お前、自分が可愛いとか思ってるだろ? 大切にしてもらえるとか思ってるだろ? そんなわけねえだろうがこのアマが!」
怒り狂ったダンの蹴り。私は痛みを感じながらも必死に立ち上がって睨み返した。
「わかってねえようだから教えてやるがな、俺にとってお前なんか道具でしかないんだよ。道具に拒否する権利なんかあるわけないよな? お前は黙って俺の言うことだけ聞いてればいいんだよ!!」
ダンの叫び声が森林に響き渡った。後ろに立っていたイエスマンの女は私を睨みつけたあと、ダンにすり寄った。
「ねえダン様? せっかくの楽しい夜を台無しにするのもよくないですし、あんな女捨てて一緒に楽しみませんか?」
「待ちきれないですよダン様~!」
「ちっ、まあいい。ライゼ、お前はテントの周りでも見張ってろ。俺の気分を害するんじゃねえぞ」
ダンは私にそれだけ言い残すと、テントの中へと入っていった。
最悪だ。気分が悪い。なぜこんな目に合わなければいけないのか。
私はテントをキッと睨みつけた。怒りに震えながら、絶対にあんな人間の言いなりにはならないと誓った。