表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/218

4.VSゴブリン

 ゴブリンと言えば、この草原エリアの中では比較的強いモンスターと言える。

 強さはスライムとは比較にならない。好戦的な性格で、スライムは逃げ惑っているうちに潰されてしまう。

 知能は人間と比べれば大したことはないが、弱いモンスターの中では高い部類だ。


 俺は今日、レベルが6になった。腕力で言っても、あのゴブリンに負けることはないだろう。

 安全策を取るなら、人間の姿でゴブリンを倒すべきだ。でも、今の俺には試してみたいことがあった。


 12匹のスライムに分裂した場合、俺はゴブリンを倒すことができるのか? ということだ。


 さっきも言ったように、ゴブリンとスライムでは勝負にならないほどの戦力差がある。そもそも人型というだけでハンデなのだ。

 だが、それはあくまで通常のスライムの話。


 俺の場合は知能がある。そして数も多い。12匹同時に操るのはかなり頭を使うが、うまく連携すれば戦力は普通のスライムとはけた違いだ。

 多くの場合、スライムは戦って負けるというよりは、逃げている最中に負けてしまう。最悪の場合、俺は人間の姿に戻ればいいわけだから、そのリスクもない。


 そして何より、『擬態』した状態でゴブリンと戦えば経験値が12倍だ。何と言ってもこれは美味しすぎる。

 ゴブリンを倒すことができれば、今後もそれを再現して戦うことができる。その時に得られる経験値はスライムの3倍はくだらないだろう。


 敗北するリスクを取って、一か八か戦いを挑むか。安全を取って、人間の姿で戦うか。


「もちろん、やるに決まってるだろ!」


 俺は誰よりも弱い。だからこそ、誰よりも早く強くなる必要がある。

 ここで安全策を取っていたら、いつまで経っても強くはなれない! 出たとこ勝負だ!!


 俺はスライムの姿に『擬態』して、すぐさま『分裂』を開始する。本体の俺を含めて12匹のスライムになった。


 おお、ちゃんと12匹になれたぞ。頭も正常に働いている。数が増えただけではあるけど、新鮮な気持ちだ!


 よし、俺の分身たち! みんなであのゴブリンを倒すぞ!


「グゲゲゲッ!!」


 ゴブリンは俺の存在に気づくと、好戦的な笑みを浮かべながら走ってきた。

 人間のときと違って、スライムになると背が縮むぶん、圧迫感を感じる。まるで巨人が迫ってくるようだ。


 ええい! 怖気づくな! あのゴブリンを倒すんだ!


「キュッ!!」


 俺は持ち前のスピードを活かしてゴブリンに近づくと、渾身のタックルをお見舞いしてやった。ゲル状の俺の体が変形し、ボヨンと反射する。


 うわ、硬ッ! 短剣で攻撃すればあっさり斬れるのに、スライムの体だとビクともしない!

 分身たちも俺の後に続いてタックルをするが、ゴブリンに決定的なダメージを与えることはできていない。


「グゲッ!」


 その時、ゴブリンが拳を振り下ろして分身の一匹を叩き潰した。グチャッという音がして、エメラルド色のしぶきが飛び散る。


 12匹のうち1匹がやられてしまった! <スライム>は本体の俺が潰されない限りは継続するし、元に戻ってもダメージが反映されることはない。だから大きな問題はないと言える。

 しかし、こっちの攻撃は通用しないのに、ゴブリンの攻撃がこっちには致命傷になってしまうのは痛い。


 どうしよう。今から元の姿に戻るか? 1匹ずつ潰されてしまったらいつかは本体の俺がやられてしまうぞ。


『スライム野郎! お前はこれから一生そうやって逃げることしかできないんだよ!! この世界に、弱い奴の居場所なんてない!!』


 気づけばダンの言葉を思い出していた。悔しい気持ちが蘇る。この体に歯はないが、悔しさが俺に歯を食いしばらせている。

 ――最後まで戦おう。こんな雑魚モンスター相手に負けちゃ駄目だ! ここで逃げたら、俺は一生負け続ける!


 みんな! 諦めずに戦うんだ! スライムとゴブリン、どっちが我慢強いか教えてやる!


 ゴブリンにとってスライムのタックルが効いていないとはいえ、まったくノーダメージではない。

 得意の高速移動でゴブリンをかく乱しつつ、隙を見つけて攻撃をする。ヒット&アウェイ戦法だ!


 俺は自分の意識を最大限、残った11匹のスライムに向ける。地面、ゴブリンの体、そして俺たちスライムの体。すべてを利用してボールのように跳ね回ってやる!


 360°を蚊のように跳ね回る俺たち。ゴブリンもさすがにこのスピードには追いつけないらしく、どこに攻撃をするべきか迷っている様子だ。


ピギー(今だ)ッ!!」


 ゴブリンの隙をついてタックル。すると、反動でゴブリンの体が少し揺れたのがわかった。

 チャンスだ! ここで一気に畳みかける!!


「キュキュキュキュ!!」


 俺たちはピョンピョン跳ね回りながら、嵐のようなタックルをお見舞いする。全方位からの攻撃。これにはゴブリンもひとたまりもない。隙がどんどん大きくなっていく。


「グゲゲゲゲ!!」


 その時、ゴブリンが振るった腕が分身の1匹に直撃し、水風船が割れるように分身がはじけ飛んだ。

 ゴブリンの奴、やけくそで腕をぶん回しているな。あれにうっかり当たったらゲームオーバーは間違いなし。


 でも、このまま攻撃を緩めなければ勝てる! 仲間がやられようとも、俺たちはタックルを繰り返した。


 1匹、また1匹と仲間が潰れていく。時には本体の俺にぶつかりそうになったところを、間一髪で分身にガードさせることもあった。

 体感で5分の時間が経過した。残ったのは俺1匹。


キュキュ(とどめだ)ッ!!」


 会心のタックル。ゴブリンの額を直撃したその一撃は、木を切り倒すようにその巨体を倒してしまった。


「グエエエ……」


 ゴブリンは小さく断末魔を上げると、地面に倒れて動かなくなった。

 ――俺の勝ちだ!


 すぐさま『擬態』を解除し、俺は地面に寝そべった。かなり疲弊していて、息も荒くなっている。


「危なかった……」


 命がけの戦いだった。それだけに、勝利したのが達成感になって全身を駆け巡っている。


「さて、ステータスはどうかな……?」


 確認しようとしたその時、頭に声が響いた。


――


 レベルが7になりました。


 <スライム>の能力が強化されました。


――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 一人になったのに12倍? スライムが死んでも本体に影響ないのに? よく分からなくなってきたような。
[一言] スライムが死んだのに経験値が入るのは他の方が言っている通りなのですが、ここは完封してもよかったんではないかと思います。 んで、別の強個体により自分以外が全滅で逃げるとかどうでしょうか? あと…
[一言] なるほどな。スライムは12匹で戦ったが、1人でたたかってるよなあ!? そしてスライムは消し飛んだが主人公が死んだわけではないから経験値も入るよなあ!? 1人分がパーティー全員にはいるよな!?…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ