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215.百鬼夜行

 やはりそうだ。アズマには、シラユキがいる。


「……どうしたの? 二人とも、シラユキを知ってるの?」


「ああ、知ってるよ。実際に戦ったこともある」


「やっぱり! じゃあ、二人はシラユキを倒しに来てくれたんだ!」


「いや、そういうわけじゃないんだ」


 俺たちは、シラユキがここにいることを知らなかった。あくまでここに来たのは裏世界に行くためだ。


 だけど……だとしたら、シドレラがシラユキの存在を隠したのはなぜだ?

 アズマに向かわせるなら、裏世界よりもシラユキがいることを伝えればいいだけだ。


 疑問は残るが、俺はフウカに本当の目的を伝える。

 すると、途端に彼女が神妙な面持ちになっていく。


「残念だけど……今、西に向かうのはやめた方がいいよ」


「それはなんでだ? シラユキがいるのは東の新都だろ?」


「そうだけど、問題はそこじゃなくて。今は百鬼夜行(・・・・)日なんだ」


 百鬼夜行、という聞いたことのない言葉に、俺たちは首を傾げる。


「百鬼夜行っていうのは、百以上の妖怪が東から西にかけて行列を作って移動することなんだ」


「妖怪って……聞いたことあるぜ! アズマのモンスターのことだろ!?」


「まあ、間違ってないかな。百鬼夜行は年に一度出現して、元々は幕府が討伐をしていたんだけど、シラユキがクーデターを起こしてから野放しなんだ」


 よくわからないけど……大規模なアウトブレークが放置されてるってことか?


「百鬼夜行の妖怪たちはどれも強力で、幕府のサムライたちがいなくなった今、人々は抵抗する術を失ったんだ。西の古都はシラユキと百鬼夜行に対抗するため、もはや別の国みたいになっているの」


「じゃあ、今はその百鬼夜行のタイミングで、古都に行くにはそれを突破しないといけないのか?」


「突破、なんて考えない方がいいよ。百鬼夜行に立ち向かって生きて帰った人間はいない。新都にも古都にも入れなかった人々は、ただ隠れて耐え忍ぶだけだ」


「……ちょっと待った! 古都に逃げられない人がいるのか!?」


 いや、考えてみれば当然か。それほど強力な百鬼夜行に対抗するには、要塞のような防御力が必要だ。そこに人を匿うには、食料が限られている。


 それにしても、最初は裏世界に行くだけのつもりだったのに、ずいぶん厄介なことに巻き込まれたな。

 新都に古都、シラユキ、百鬼夜行……いろいろと問題はあるが、まずは西に行くことが出来なければ話は進まない。


「その百鬼夜行って、今どのあたりにいるのかな?」


「百鬼夜行は一週間ほどかけて夜の間にゆっくり進むから、今はちょうど新都と古都の間くらい――って、ちょっと待って!?」


 まさか、と言った様子でフウカが俺の顔を見る。

 もちろん、そのまさかだ。


「百鬼夜行を倒しに行こう。今から急げば、今晩には追いつけるはずだ」


「冗談じゃない! あんたたち、なんで命を捨てようとするんだよ?」


「大丈夫だよ。俺たちは世界最強の冒険者なんだ」


「世界……? 本当に、世界一なの?」


 俺は首肯する。実際、俺は世界で一番なわけだし。


 俺の返答を聞くと、フウカは真剣な表情で一度頷くと、覚悟の籠った瞳で俺を見つめた。


「……わかった! 百鬼夜行の場所を案内するよ!」



「ねえ、お母さん……? 私たち、大丈夫かな……?」


「しっ! 絶対に大丈夫だから、今は静かにしてて!」


 少女は、母親と隠れていた。家族3人の平和な日常。それは『隠れる』という非現実的な行為からはかけ離れた、当たり障りのない毎日だった。

 だが、この日は別だった。


 窓の外を練り歩く甲冑たち。首のない馬。人の頭を取ってつけたような蜘蛛の化け物。

 少女たちは、この怪異から姿を隠していた。


 父親の手には鍬が握られ、小刻みに揺れている。歯を食いしばり、寒さに耐えているような父親の姿に、少女は毛布を掛けてあげたくなった。


 少女が生まれてから、この百鬼夜行は毎年起こっていた。そして、行列が消えるまでに息をひそめることももはや風習のようになっていた。


 毎年、村を通過するまで人々は家に籠り、息をひそめる。今年もそれで逃れることが出来るはずだった。


 ――だが、今年はいつもとは違った。少女に妹が生まれたのだ。


「うわあああああああああああ! うぎゃあああああああああああ!!」


 幼児に言葉が通じるはずもない。泣き声は、静まり返った家の中で響き渡った。


「しまった……!」


「母さん、マヤを頼む!」


 今の声で、百鬼夜行に気づかれてしまった。少女は、窓の外の怪異が一斉にこちらを見たことに気づき、絶句する。


 今、父が斧を握って家の外に出ようとしている。少女はただそれを見ることしかできない。


 ――誰か。こんな理不尽な現実を変えてくれればいいのに。胸の内に秘めたそんな思いは、誰にも通じない。


「うおおおおおお!!」


 少女の父親は、目の前の甲冑に向かって走り出す。斧を振り上げ、決死の特攻をかけた――!


 ――その時だった。


「<パーフェクトショット>!」


 父親の斧が甲冑の持つ刀の刃と交じり合おうとした瞬間――甲冑がぐにゃりと力なく倒れる。

 その家族に、何が起こっているのかはわからなかった。ただ、甲冑が瞬きの間に倒れた。それは通常、ありえないことだった。


「アルクス様! やっぱりここ、村人がいるみたいッス! ちょっと遅れたら危なかったッスね! ま、襲われてそうだったから自分が助けたんスけどね。いやー、やっぱり姐さんばかり目立ってますけど、自分もそこそこスライムの中では戦力になるというか――」


「わかったトークありがとう! 引き続き村の妖怪を倒してくれ!」


 絶体絶命のピンチ――そこに現れたのは、異国風の男女だった。

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