214.少女が語るアズマ
「ちょっと待ってくれ! お前、何か勘違いしてるぞ!」
「勘違いなんかしてない! お前ら師匠を……!」
少女が怒りに満ちた目でこちらを睥睨した瞬間、彼女のナイフが剣に形を変えた。
……いや、あれは剣じゃない! 刀だ!
「<戦器変形・月刀>!」
少女はそのまま刀を握り込むと、迫力のある叫び声を上げて前進してくる。
「……ッ!」
「悪いけど、イレーナを傷つけるわけにはいかない!」
刃が俺の額を切り裂こうとした寸前、俺は緋華の刃を交え、少女の攻撃を防ぐ。
鍔迫り合いを通して、彼女の膂力が伝わってくる。激しい憎悪をそのままぶつけてきたような剣筋だ。
「うわっ!」
が、少し力を入れると、少女はあっさりと後ろに弾かれ、剣を投げ出して尻餅を突いてしまった。
「勝負あったようだね」
「くそっ……私じゃ勝てないっていうのか!」
「落ち着いてくださいぃ! アルクスさんもイレーナさんも、あなたが言うような悪い人ではないんですぅ!」
「……あんた、クノイチか」
少女は地べたに座り込んだまま、観念したように話し始めた。
「アズマのために尽くすはずのクノイチが、体制側につくなんてな! 呆れるよ!」
「違いますぅ! 私は生まれはアズマですが、ここに来たのは子どもの時ぶりなんですぅ! ここにいる皆さんもそうですぅ!」
「……なに? ってことは、あんたたちは私を殺さないのか?」
「そんなことするわけないだろ。第一、殺そうと思ったら一瞬だ」
<鑑定>を発動してみると、少女のレベルは11。普通の人間にしてはそこそこの強さだが、俺には到底敵わない。
「もしかして……私は勘違いしていたのか?」
「最初からそう言ってんだろすっとこどっこい! 何があったのか知らないけど、ちったあ落ち着けい!」
イレーナに諭され、少女はようやく事態を飲み込み始めたようだ。
落ち着きを取り戻した少女は地面に膝を付き、土下座の姿勢を取った。
「すまなかった! この責任は死を以って償う!」
「別に死ぬ必要はないわよ。ただ、状況は説明してくれる? 私たち、この国に起こっていることが知りたいのよ」
ライゼは少女に立つように促すと、辺りを見渡す。
「人が寄り付かない国。活気のない街。覇気を失った人。この国はどう見ても異常よ。あなたが言った『アズマがめちゃくちゃにされた』ってどういう意味?」
ライゼに問われ、少女はようやく顔を上げてこちらを見つめた。
「まず、私の名前を名乗らせてほしい。私はフウカ。この国のサムライだ」
「おおっ、サムライ! 初めて見たぜ!」
見ると、確かに彼女は髪をポニーテールにしていて、服装も和服のようでありながらスタイリッシュだ。
フウカは神妙な面持ちのまま、話を続ける。
「この国は、8年前までは活気があった。八百八町は人で溢れ、多くの人が一緒になって食事をしたり、喧嘩したり、笑ったり……平和な日々が続いていたんだ」
そこまで言ったところで、フウカは苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「でも……あるとき、国は変わってしまった」
「……8年前、何があったの?」
「一人の女がこの国に現れて、クーデターを起こしたんだ。その女は超常じみた妖術を使い、反抗する者を殺し続けた」
フウカの拳に力がこもる。いつの間にか、彼女の目には憎悪の炎が戻っていた。
「でも、民衆は希望の光を消さなかった。女と戦い、この国を守ろうとしたんだ。でも――」
「……それも長くは続かなかった、ってわけね」
「きっかけになったのは、この国で絶大な支持を受けていたサムライの死だ。彼が女に負けたとき、人は諦めてしまったんだ。そして――反抗する者は現れなくなった」
やっと、この国で覚えていた閉塞感のようなものの正体がわかったような気がする。
街の人が、まるで魂を吸い取られてしまったような不気味さのある無気力さをしている、その理由が。
「そして、そのサムライは私の師匠だったんだ」
「つまり、フウカはその師匠の仇を取るために戦ってるってわけだな」
フウカは頷く。彼女はひとしきり話すと少し落ち着いたようで、また頭を下げてきた。
「とにかく、言い分も聞かずに襲い掛かったのはすまなかった。街中であんたを見て、つい頭に血が上ってしまったんだ」
「それはもう気にすんなよ! でも、その女っていうのはあたしに似てるのか?」
「似ているのはその女じゃなくて、側近の別の女だ。国を乗っ取った女の名前は――」
なぜか、俺はその先の言葉がわかっていた。
きっと、シドレラがアズマに行くように言ったのも、ここに来るまでに違和感を感じたのも。きっと、全てが繋がっていたんだろう。
「女の名前はシラユキ。たった一週間で、国中のサムライたちを殺しつくした女狐だ」
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