213.浴衣お披露目!
海賊たちが船長との交渉を終え、撤退する。
船が再び出発し、それから長い時間、平和が続いた。
そして、時はやってくる。
「おいアルクス! あれを見てみろ!」
仮眠を取っていると、イレーナが大声で俺を叩き起こしてきた。
何事かと思い目を覚ますと、皆はすっかり起きて一点を見つめていた。
「あれが……」
太陽の光が昇る方向に、島があった。あれは港だ。
オレンジ色の日の出が街を照らす。まるで黄金のように輝くその建物たちは、遠くからでもその存在感を放っている。
「アズマだ! アズマに着いたぞ!」
イレーナの歓声。あれが、アズマか……!
*
港にたどり着き、船から降りる。
「んー、疲れた! 流石にモントロリアと同じくらいの時間……とはいかなかったわね」
「ここがアズマ……なんだか懐かしいような、新鮮なような……そんな気がしますぅ」
「なあ、早く街を見て回ろうぜ! あたしはサムライを見に行きたい!」
三人はそれぞれ、アズマに到着した感想を言い合っている。
さて、俺はとりあえず、ワープスライムの移動先にアズマを登録して……と。
「よし、これで準備は出来た。着いて早々なんだけど、ルリカさんに聞きたいことがあって……」
「なんでしょう?」
「俺たち、青のダンジョンに行くためにアズマに来たんです。どのあたりにあるか、教えてもらえませんか?」
「青のダンジョンですかぁ!? ここからだと少し時間がかかりますよぉ!?」
青のダンジョンという言葉を聞くなり、慌てだすルリカさん。
彼女は頭を抑え、しきりに『どうしよう……』とつぶやき始める。
「アズマは大きく、東と西に分かれるんですぅ。私たちが今いるのは東の新都で、青のダンジョンは西の古都の近くにあるんですぅ!」
「じゃあ、まず西に行かないと駄目ってことか?」
「そうなんですぅ。新都と古都はかなり距離があるので、徒歩だと一日で移動はできません。私がもっと早くに言っておけばこんなことにならなかったのに……本当にごめんなさいぃ……」
ルリカさんが悪いわけじゃない。俺がそう伝え忘れていただけだ。
「ってことはアレ? 今からまた移動ってこと?」
「そういうことになるな。俺のミスだ、すまない……」
「そんな、アルクスさんのせいじゃないですぅ! アズマに詳しい私がちゃんと把握しておかなかったから……」
「なあ、だったら新都を見て回らないか!」
三人で頭を抱えていると、イレーナが突然切り出した。
「移動が続いて、あたしたち疲れてるだろ? だったら、今日は新都で観光をして、明日から移動すればいいじゃねえか!」
「それはそうだけど……イレーナは観光したいだけなんじゃないのか?」
「てやんでい! そんなわけないだろ! あたしはちょっと浴衣を着てみたいだけだ!」
やっぱりそういう目的のためじゃないか!
……とはいえ、イレーナの言うことは一理ある。ここからまた移動となると、かなり疲弊してしまいそうだ。
「よし! じゃあ今日は一日皆で新都を見て回ろう!」
「よっしゃあ! 皆、さっそく浴衣を着るぞ!」
興奮気味に街を駆けるイレーナ。俺たちはその後を追いかける形で街の奥へと進んでいく。
*
「なんだかんだで着ることになったけど……これで大丈夫かな?」
イレーナに勧められ、店に売っている浴衣を俺も着てみることになった。
紺色の浴衣は、通気性に優れていてかなり着やすい。……が、やはり慣れない服装だと落ち着かないな。
「待たせたわね。皆もそろそろ来るはずよ」
待ち合わせの場所に最初にやってきたのはライゼだった。
黒地に花が散りばめられた浴衣で、彼女の赤い瞳と相まってとても似合っている。
「……どう?」
「どうって? いい服だと思うけど」
「……はいはい。聞いた私がバカだったわね」
何を不機嫌になってるんだ? 浴衣が気に入らなかったのか?
「待たせたな! どうだアルクス! 似合ってるだろ!?」
次にやってきたのはイレーナ。ピンク色の浴衣には鮮やかな花柄があしらわれており、快活なイレーナのイメージにピッタリだ。
「うん。似合ってると思うぞ――痛ッ!!」
刹那、俺はライゼに足を踏みつけられてうめいた。
「本当……アンタって本当にそういうところよね、本当に」
「『本当に』なんだよ!?」
「すみません……遅れてしまいましたぁ……」
最後にやってきたのは、ルリカさん。いつも控えめな彼女のことだから、今回も控えめな服を着てくるのかと思ったが――
俺たちは、その控えめでない状態に、言葉を失った。
ルリカさんが着ているのは、浴衣――に似た何かだ。色は青色で、浴衣にかなり近いが、胸元が大きく開いている。
そして、胸元のはだけた部分には白い包帯のようなものが巻かれている。
「ルリカさん、それはいったい……」
「ごめんなさいぃ! 私も最初は浴衣を着ようと思ってたんですが、胸元がきつくてすぐ崩れちゃうので、法被にしてもらったんですぅ」
「な、なんかてやんでいな気がしてくるな!?」
ルリカさんは普段、黒い服装を着ているから気づいてなかったけど……かなり胸のボリュームがあるようだ。
ルリカさん本人も普段とのギャップに戸惑っているらしく、顔を真っ赤にしている。
「……まあ、全員着替えたわけだし、とりあえず移動しようか」
「私はお腹が空いたわ。どこかに美味しそうな……クレープのお店はないかしらね?」
クレープのお店はさておき、お腹が空いたのは同感だ。
近くに飲食店がないか聞いてみたいところではあるんだけど……。
「……街に人がいないわね」
街の真ん中だというのに、人がほとんど出ていない。往来している人は一人もいないし、店の辺りにいる人も、遠巻きに俺たちを見ているだけ。
「なんだ? アズマはもっと粋ちょんがたくさんいるって聞いてたんだけどな?」
あまりの活気のなさに困惑しながら、俺たちは街を歩く。
その時だった。
「おらあああああああああああああ!!」
頭上で声がした。と思ったその刹那、建物の屋根から少女が飛び降りてきていた!
彼女の手には刃物が握られており、イレーナに飛び掛かろうとしている!
「危ない! イレーナ、動くなよ!」
俺は即座にイレーナに声を掛けると、イレーナの体を抱えて道の脇へ回避した。
危機一髪、イレーナに怪我はないようだ。少女は地面に着地すると、イレーナの方を睨みつける。
「誰だ、君は!? なぜイレーナを襲う!?」
「イレーナ、だと? 嘘を吐くな! どうせお前も政府の犬だろ!?」
少女は再びナイフの切っ先をイレーナに向けると、声を上げる。
「お前のせいでアズマはめちゃくちゃにされた! 私がここで蹴りを付けてやる!」
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