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212.海賊船との衝突

 激しい衝突音。男たちの叫び声。


「うわあああああああああ!! 船が!! 船が揺れるううううううう!!」


 イレーナは船の取っ手を掴み、泣きそうな声で喚いている。


 約束から3日。俺たちはアズマに向かう船に乗った。

 そして今、俺たちは海賊に襲われていた。


 きっかけはつい1分ほど前。こっちに突っ込んでくる船をルリカさんが見つけたことだった。

 その船はそのまま真っすぐにこっちへ向かってきて――今ぶつかってきたところだ。


「なによ、こいつら!」


「おい! 女もいるぞ! しかも相当な美人だ!」


 船が激しく揺れる中、海賊船からその船員と思われる男たちが乗り込んでくる。

 こいつらの目的は、金と好みの女性……ということか。


「おいお前! 有り金全部出せ! そうしたら、お前は男だから端にどいてろ!」


 混乱の中で状況を見ていると、ナイフを持った男が俺に脅しをかけてきた。


「有り金全部か? 今出したら船が沈んじゃうかもな」


「なに馬鹿なこと言ってるんだ? 舐めてると殺しちまうぞ!」


「そうか、じゃあこのスライムには勝てるかな?」


 俺はスライムを出してみると、海賊はそれを見てゲラゲラ笑い始めた。


「ギャハハハハ!! なんだそれ!? お前のスキルか!? スライムなんて出しても意味ねえだろ!!」


 海賊はひとしきり笑った後、自分の鼻を指してまじまじと俺に見せつけてくる。


「オレのスキルは<超嗅覚>! 相手の強さや感情をかぎ分けることが出来るんだよ! 教えてやる! お前からは、今まで嗅いだことないほどの雑魚の臭いが漂ってく――」


 次の瞬間、スライムの体当たりを食らって、男は自分の指を鼻の奥に突っ込んでしまった。


「ぎゃあああああああああああああ!!」


 鼻からボタボタとこぼれる血液。男は無垢な目をしたスライムを睨みつける。


「なんでスライムの体当たりがこんなに強いんだよ! お前何をした!?」


「そんなにいいスキルを持ってるなら、略奪なんてやらないで真っ当な仕事をした方がいいと思うぞ。まあ、その持ち味も今無くなったけどな」


「オレは戦いと略奪こそが得意なんだよ! 舐めてるとお前の命も――」


 俺は一気に肉薄し、男が言い切る前にワンパンで沈めた。


「なん……で……」


「戦いが得意な奴は、喋る前に手を動かすんだよ」


「な、なんだあの女たち!?」


 男の相手をしていると、他の海賊たちの悲鳴が聞こえてくる。


「<千影桜歌(せんえいおうか)>!」


 まず見えたのは、ルリカさんが無数のクナイを海賊たちに投げつけている姿だ。

 まるで桜が散るように、クナイが海賊たちの体に向かって振っていく。


 刺さっているところを見るに、みねうちでとどめているようだ。あのコントロールとクナイの捌き方……まさにプロだ。


「<岩石流星群(ロック・スター)>!」


 次に目に入ったのは、黒い鎧を纏ったライゼがハンマーを振り回している姿。

 あれが音に聞く<魔装>か……ライゼのスキルと、相手に対して戦闘スタイルを変える戦略とかなり相性がよさそうだな。


「私たちは氷のように美しいのよ! 近づいたら凍らせるわよ!」


「ご、ごめんなさいぃ……でも、私も忍者の端くれなので攻撃されたら反撃しちゃいますぅ……」


 二人は背中合わせでそう言い、他の海賊たちを威圧する。


「おおっ! すげぇぜ二人とも! 粋ちょんって奴だな!」


 イレーナはそんな二人の陰に隠れる形で身を守っている。


「……あんたがここのボスか?」


 その時。一人の男が海賊船からこっちへ降りてきた。

 男は眼帯をしており、あごには灰色の長いひげを蓄えている。仙人のような見た目をした中年だ。


「せ、船長!」


「お前ら、今回は相手が悪かった。戦っても死ぬだけだぞ」


 こいつが、海賊の船長か。


「俺はボスじゃないけど……どうしてそう思った?」


「見ればわかる。船乗りってのは危険を()で判断しないといけねえ。確かにあそこの嬢ちゃんたちは活躍してたが、この船で一番強いのはあんただ。そうだろう?」


 なるほど……さすが船長だ。この中では一番話が分かりそうだな。


「で、ノコノコ出てきてどういうつもりだ?」


「降参だ。船にある財宝を全て渡すから、命だけでも見逃してほしい」


 これはこっちにとっても好都合だ。別に人殺しがしたいわけでもないし。

 ルリカさんやライゼも、全員気を失わせるだけにしている。思いは同じはずだ。


「俺は、安全にアズマまで行くことが出来ればそれでいい。後はこの船の船長と交渉してくれ」


「恩に着る。……ところで、あんたはアズマに行くのか?」


 その時、海賊の船長がなぜかそう尋ねてきた。


「ああ、そうだけど……それがなんだ?」


「珍しいと思ったんだよ。あんたほどの手練れってことは、商人ではないだろ? 俺たちはこの船が商船だと思って襲ったんだよ」


「この船が商船? それは何を根拠にだ?」


「……あの国に行く物好きなんて、そうはいねえ。あれはもはや、国ではないからな」


「どういう意味だ?」


 気になって問いかけるが、海賊の船長は押し黙ったまま、この船の船長の方へと歩いて行ってしまう。

 数歩進んだところで、船長は足を止め、こちらに振り返る。


「あんた、覚悟した方がいいぜ。どういう目的でアズマに行くのかは知らないが……関わり合いにならない方がいいのは間違いない」


 どういう意味だ……?

 アズマに何か起こっているのか? それとも、元からそういう国なのか?


 それを判断する術はない。ただ、正体の掴めない疑念が俺の中で渦巻いた。

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