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209.シドレラの部屋

「……どこにでもいるって、そういうことか」


「早く閉めてくれないか。私も暇じゃないんだね」


 俺は促されるまま、ギルドの扉を閉めて部屋に入った。

 扉の先は、いたって普通の小部屋だった。少女は備え付けられたソファに座ると、コーヒーを飲み始めた。


「君が言いたいことはわかる。本当にリュドミラの妹なのか、だね」


 シドレラと名乗る少女はゆっくりとコーヒーを飲むと、カップを置く。


「そして、その答えも君の中で出ている。真実だと」


 シドレラは的確に俺の思いを言い当てた。

 子どものような見た目をしたピンク髪の少女が、いきなり自分をリュドミラの妹だと言い出したら信じられない。


 だが、彼女は似ている。よく喋るミラさんとは雰囲気が違うが――もっと根柢の、オーラが近いような気がする。


「自己紹介をしよう。私は悠久の魔女だ。君がこれから言うことは全て(・・)把握しているけど……形式的に聞いてくれても構わないだね」


「何を言ってる……? 君は俺の心が読めるのか?」


「心を読むのとはまた違う。だが、君がこれから言うことはわかる。例えば――さっきシエラと話していたこともね」


「なんでシエラさんの名前を――」


 シドレラはさも当然のようにシエラさんの名前を言い当て、俺の発言を待っている。

 この少女、本物だ。


「じゃあ、俺が今から何を聞くのかわかるのか?」


「『どうして俺を呼びつけたのか』だろう? 教えてあげるだね」


 当たりだ。本当に読まれている。


「私が君をこの部屋に招いたのは、時が来たからだね。私の前に現れる、最適なタイミングが」


「どういう意味だ? なんでそんなことがわかる」


「最初に言っておこう。私が悠久の魔女と呼ばれる所以を。私には『全ての過去と未来を見通す能力』がある」


「は……?」


 なんだそれ……何もかも、この世のことが全部わかるってことか!?


「これから先の君の運命も、これまでに何が起こったかも全て知っている。だから、君が何を言うかもわかる。全部見ているからだね」


「そんなバカげた話、信じられるか! だったら、俺が君の意に反することをするだけだ!」


「それを含めて、君の運命は決まっている。そして、君がそんなことをしても無駄だと分かっていることも知っているんだよ、アルクス」


 気味が悪い。自分の心の中を土足で侵入された気分だ。

 だけど、彼女が言うことは全て辻褄が合っている。


「で、本題に入る前に、君は私に言いたいことがあるんだろう? もう知ってるから言っていいだね」


「全部お見通しってわけか。じゃあ言わせてもらうが……どうしてミラさんを助けなかった?」


 もし、この世の全てを理解していて、どこにでも現れることが出来るなら。シドレラはミラさんを助けることが出来たはずだ。

 なのに、しなかった。それはどう考えてもおかしい。きっと何か、重大な理由があるはずだ。


「助けない方がよかったから。それだけだね」


 しかし、そんな俺の思惑はあっさりと砕かれた。


「は? そんな理由でミラさんを見殺しにしたのか!?」


「そうすることが『最適』だったんだ。しかたなかった」


「……お前!」


「なぜだろうね、君にいろいろな言い方をする未来を見た。だけど、どの未来でも君はそうやって怒るんだよ。親を殺されたような目で、私を睨んでね」


「そんなの当たり前だろ!!」


 ミラさんを見捨てるのが最適だっただと!?

 こいつ、人間の心がないのか!?


「アルクス。これを言っても無駄なことも知っているけどね。自由と責任はセットだ。リュドミラは自由を謳歌した。だからこそ、責任を負うことも理解していた。私もそうだ」


「シドレラの、責任?」


「私は全てを見通すことが出来る。だけど、その代償として現実世界に干渉が出来ないんだね。そして、私はこの能力を世界のために活用しなければいけない」


「どういう意味かまるでわからないが」


「今はそれでいい。さて単刀直入に言おうか。箱舟(アーク)は『裏世界』でレベルを上げている」


 シドレラは強引に話題を変えると、次に俺が聞きたかったことに答え始めた。


「裏世界とは、その名の通り、この世界の裏側に位置する世界のことだ。そこでは、全てのモンスターが()よりも強くなっている」


 正直、いきなり言われても信じるのは難しいが――ごねたところで完璧に返されそうな気がして何も言えない。


「その裏世界に行くにはどうしたらいい?」


「アズマに行くんだね。アズマの西にある青のダンジョンの最下層に、裏世界に繋がるゲートがある」


「ダンジョンの最下層に、裏世界に繋がるゲート……?」


「さあ、伝えるべきことは伝えた。あとは頑張るんだね」


「あ、おい! ちょっと!」


 シドレラはカップのコーヒーを飲み干したかと思うと、右手を前に出した。

 それと同時に、突如として突風が吹いてくる。俺はそれに押され、扉の向こう側に追い出されてしまった。

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