幕間 シラユキの再起
「はぁっ、はぁっ……」
モントロリアから逃走した後、私は血が滴る腕を抑えながら息を切らしていた。
「失敗した……全部、あいつらのせいで!」
モントロリアにスキルを合成したモンスターを放ち、市民を取り込む。
その中からユニークスキルを持った人間を選別し、残った人間はダビアの<キマイラ>の素材にする。
マシューの計画が失敗した今、私の計画は完璧で、全てが上手くいくはずだった。
「なのに――なのに、なのに!!」
結果は失敗。
市民のスキルを選別できなかったどころか、箱舟はマルクを失った。
マルクは組織の中でも最弱。だが、貴重な<ウェアウルフ>のスキルを持った人間であることは間違いない。
そして――私は8つの命と、左腕を失った。
「クソ、クソクソクソクソクソクソ!!」
私は建物の壁を蹴り、怒りを発散した。
それもこれも、リュドミラとあのアルクスとかいう小僧のせいだ。
まずリュドミラ。
あいつはとにかく強かった。下手したら、最後に会った50年前よりも。
私は、リュドミラに敗北してからスキルに磨きをかけ、レベルも100になった。
若さを保つために、全力を出すことはできない制約を受けているが――それでも、自分では強くなった気でいた。
だが、そのうえで私は完敗した。<最果ての地>を使われた時点で、私に勝ち目などなかったのだ。
あのままリュドミラの意表を突く作戦に切り替えなければ、間違いなく殺されていただろう。
おまけに、奴は最後まで無傷だったのだから恐ろしい。
しかし――真に問題なのはアルクスの方だ。
奴はなんなんだ? レベルは70台のはずなのに、私と同じくらい――いや、もしかすれば私よりも強かった。
120歳の私が、どうしてあんなガキと同等の戦いをしなくてはいけない? あんなにわか仕込みの雑魚に、なぜ負けそうになる?
答えはすぐに見つかった。
『自由な人間は、他人を支配しない。支配もされない。アンタはその逆だ。自らの老いという現実から逃げることに必死で、不安だから他人を不必要に支配しようとする』
リュドミラの言葉が脳裏によぎる。
私はこの50年間、自分のことよりも他人を支配することに尽力していた。
それが敗因だ。なんとなく、自分でそのことを理解していた。
――だが、納得できるはずがなかった。
「それじゃまるで、私の50年が無駄だったみたいじゃないか!!」
美しさと若さを保つために工夫と苦悩を重ねてきた。それが無駄だなんて、思いたくない。
「シラユキ、ずいぶん荒れてるね」
苛立っていると、私の背後にリューヤが立っていた。
「……別に。あなたには関係のないことよ」
「そう? 腕が片方無くなってるのに?」
私は咄嗟に左腕の付け根を隠した。こいつに絡まれると厄介だ。
「僕の今のレベルは92だ」
「……それがなんなのよ」
「僕より君の方がレベルが高いってことだよ。僕は27年しか生きてないわけだし、君を9回も殺せるわけないしね。だけど……今はどうかな?」
「何が言いたい」
「どっちがふさわしいかってことだよ。僕と君が戦ったら、勝つのはどっちかな、と思ってね」
「……今は全力じゃないの。腕は2週間もあれば治るし、しばらくは<キュウビ>の適合になる人間を探して心臓を増やすつもりよ」
「そっか。残念だけど、だったら仕方ない」
気味の悪い奴だ。弱っている私ではなく、回復した後の私と戦いたいだなんて。
しかし、それがリューヤにとっての信念なのだ。あくなき強さへの探求心。それは弱っている私を嬲り殺すことでは満たされない。
「でも、腕が2週間で治るなんてこと、あるの? もしかして生えてくるとか?」
「アズマに行く」
「アズマって、あの東の国のこと?」
「あそこに、私の施設があるの。そこで治療を行う」
「そっか、頑張ってね」
私はリューヤに背を向け、その場を立ち去ろうとする。
「ねえ、シラユキ。一つ聞きたいんだけど」
「……なによ」
「君が戦ったリュドミラって、強かった?」
「その名を軽々しく口に出すな!」
私の一喝に、リューヤは押し黙った。
彼が何も言わないのを見て、私は再び歩き出す。
行き先は――アズマ。
すぐに完全復活してやる。3か月――いや、1か月で。
私がこの世界で最高で居続けるためにも。
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