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204/218

204.VSシラユキ

 拳に伝う骨の感触。それと同時に、シラユキの体は後方に吹っ飛ばされ、建物の壁にめり込んだ。

 ミラさんの体はその場で倒れ、地べたで横になる。


「ミラさん! 今治療します!」


 屈んでみたミラさんの体は酷く、胴体に複数の風穴が空いている。おそらく、シラユキに腕を貫通させられたのだろう。


「お前……何者だ!?」


 回復に入ろうとしたとき、崩れた建物から、シラユキが現れ、俺に問いを投げてきた。

 前髪をかき上げ、狐のように鋭い視線でこちらを睨みつける。一目でかなり怒っているのがわかる。


 それにしても、すごい威圧感だ……! レベル90台……いや、もしかしたら100もあるかもしれない。


「俺は……ミラさんの弟子だ!」


「リュドミラの弟子? ……はっ、それでノコノコと敵討ちにきたってわけね」


「お前、ミラさんに何をした?」


「何って、見ればわかるでしょ。殺したのよ。もうそいつは死んだの。立ち上がることはない」


 俺は背後のミラさんに一瞥をくれた。彼女は胴体の穴から大量に出血しており、普通なら助からない状態だ。

 シラユキの言葉の信ぴょう性が、俺の中で高くなる。


 ミラさんの死。


「ライゼ、ミラさんを頼んだ」


 だけど、それはとても受け入れられないことだった。


「ミラさんは絶対に負けない。俺がお前を倒して、それを証明してやる」


「現実逃避? 惨めね。ここで私に立ち向かったところで、死体が増えるだけよ?」


「それはやってみればわかることだ!」


 俺は右手を前に出し、<スライジング・バースト>を放つ。

 横一直線の雷鳴。それは槍のようにシラユキの胴体を襲った。


「……ッ!」


 しかし、シラユキは寸前で体をよじり、直撃をまぬがれる。横に滑った後、シラユキは崩れた姿勢を整える。

 俺はその隙を見逃さない。緋華を引き抜くと、シラユキの心臓をめがけて刺突を仕掛けた。


「このガキ……!!」


 シラユキは素早く俺の肉薄に反応すると、刃を自分の爪で弾き返し、後方へと下がった。


「お前……その力をどこで手に入れた!? さっきの攻撃も、レベル70くらいの奴のものじゃない!!」


「言いたいことはそれだけか?」


 俺はさらに突進を止めない。シラユキの間合いに入ると、剣を振り回した。

 シラユキは歯を食いしばりながら攻撃を回避し続けるが、次第に彼女の反応を俺の太刀筋が超え始めた。


 刹那、彼女の和服の袖が刃に切り裂かれた。


「――今だッ!」


 緋華に魔力を込めると、雷鳴が剣を包むようにバチバチと瞬いた。


「まだそんな技を――!」


 突然の雷に、シラユキが怯む。それは、彼女が見せた最大の隙だった。


「<氷壁龍波(ひょうへきりゅうは)>!」


 寸前まで迫ったその瞬間、シラユキも魔法を発動した。

 目の前に現れたのは、水色がかった白い鱗に身を包んだ龍。俺とシラユキの間のわずかな隙間に陣取って、壁のように立ちはだかる。


「甘いな! 私が反撃してくることを想定しなかったお前の負けだ!」


 龍は、ベヒーモスを想起させるような荒々しい動きで、俺を食らおうと口を大きく開けた。

 向かい合う俺と龍。後退するシラユキ。たった一瞬の間の、熾烈な攻防。


「さあ、下がらないと龍に食われるぞ!?」


「――お前は、何か勘違いしているな」


 お前が何か魔法を使うことなんて、織り込み済みなんだよ。


「<紫電一閃(しでんいっせん)(ほむら)>」


 緋華を握り込むと、真っ赤な炎が龍のように刃を中心にうねる。

 次いで、放たれた斬撃。それは、目の前の白い龍を一瞬にして粉々に砕いた。


「馬鹿な!? レベル80相当の龍を、一撃で!?」


 シラユキは、俺を甘く見すぎた。たかだかレベル70くらいの雑魚だと、思い上がってしまったのだ。

 そして、その計算ミスの代償は大きい。


「まさか――二撃目!?」


 今、俺とシラユキの間には何もない。間合いもかなり詰めている。

 この絶好のタイミングで、<紫電一閃(しでんいっせん)(ほむら)>の二撃目を叩きこむ!!


「<二の打ち>!!」


「この、ガキがああああああああああああああ!!」


 俺の雄たけび。シラユキの怒声。二つが交じり合う中で、雷を纏った二撃目は放たれた。


 振り下ろされた刃は、シラユキの細腕を捉え、宙に飛ばしていた。


「アルクスの攻撃が――通った!」


 ライゼの声が上がった時、地面にシラユキの腕が落ち、バタッ、という音が鳴った。


 たった一瞬の攻防。取ったのは――俺だ。


「はあ、はあ、はあ……」


「どうした? だいぶ息が上がってるぞ?」


 腕を犠牲に、自分の命を守ったシラユキ。彼女は失った左腕の付け根を抑え、息を切らしながら後方へと下がっていた。

 追い詰められた彼女から、先ほどまでの余裕の色はない。


「なぜだ――リュドミラもこいつも、なぜこうも強い!?」


「観念しろ。腕を失くしたお前に勝機はない」


「クソ――クソクソクソ!!」


 シラユキは地団太を踏み、かなり荒れた様子で吠えまわる。


「倒す前に聞いておこう。シラユキ、お前はどうしてロイドを暴走させた?」


「はっ、そんなの、これから起こる奇跡のために起こってるじゃないか」


「奇跡?」


「お前なんかにはわからない、世界のルールが変わるような奇跡さ。そのためなら、私の命なんて――惜しくない!」


 何を言っているのか、さっぱり理解できない。錯乱しておかしなことを言っているんだろうか。


「もういい。ミラさんが危ないんだ。終わらせてもらう」


「だけど――今はその時じゃない!」


 その刹那だった。シラユキが俺の後ろに狙いを合わせ、残った右腕を伸ばしているのが見えた。


「――まさか!」


 彼女が狙っているのは、俺の後方にいるライゼとミラさんだ!

 俺なら彼女の魔法を受けられるが、今の二人じゃ無理――!


「教えてやるよ、クソガキ! お前ら師弟は、その甘さで私を取り逃すんだよ!!」


 彼女の手のひらを中心に展開された、8つの魔法陣。

 そこから放たれる光を帯びた魔法の弾。それはハエトリグサのような軌道でライゼたちに向かって飛んで行った。


「危ない!」


 俺は緋華で8つの弾丸を同時に切り裂き、空中で爆発させた。

 そのかいあって、ライゼとミラさんは傷を負うことなく魔法をしのぐことが出来た。


 しかし――。


「……シラユキイイイイイイイイイイイイ!!」


 彼女の姿は、流れていた血液のみを残し、跡形もなく消えていた。

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