202.七連星(アルクトス)
一瞬の静寂。わずかな沈黙の後、それを切り裂いたのはロイドの怒声だった。
「お前えええええええええええええ!! 舐めるのもいい加減しろよおおおおおおおおお!!」
ロイドは馬のいななきのように叫ぶと、猪突猛進の勢いで俺の方に向かって走ってくる。
建物は、巨体に擦れるたびに轟音を立てて倒壊していく。
さすが、レベル80は伊達じゃないな。威力・スピードともに申し分ない。
――ゼインの魔眼の効果を試す、いい機会だ。
「潰れろ!」
接近してくるや否や、前足で俺を叩き潰そうとしてくるロイド。カエルがハエを捕まえるような、俊敏な攻撃だ。
「よっと」
だが、今は自分でも驚くほど、奴の動きがよく見える。
地面を蹴って横に逸れると、目の前で地面のレンガが礫になって宙に浮いた。
「どうした? そんな攻撃じゃいつまで経っても当たらないぞ?」
「な、なぜだ……!? レベルはこっちの方が上のはずなのに!!」
「レベルなんて大した問題じゃないよ。レベル80くらいで調子に乗るべきじゃなかったな」
「あの女みたいなことを言いやがって……! 何か卑怯な手を使っているんだろう!? そうに違いない!」
やれやれ、そろそろこいつとのお喋りにも疲れてきたな。
「ここだと邪魔だから、そっちに行ってくれ!」
俺はロイドの腹部に蹴りを入れると、後方に30メートルほど吹っ飛ばす。
「ま、また……なんでそんな軽いキックでこんなに吹っ飛ばされるんだ……!?」
ロイドは痛みに顔を歪めた後、辺りを見渡し始めた。
「……い、いない!? あのガキ、どこに行った!?」
「こっちだよ」
俺は高い建物の屋根に瞬間移動し、座っていたのだ。
「ロイド、どうしてお前は人を食う? こんなことが本当に許されると思ってるのか?」
「黙れ! クソガキの分際で説教か!? 俺は、強くなるために人間を食っているんだ! 強くなって、それから――」
「それから、なんだ」
「それから――全員を従わせて、王様になって――それから」
「お前は本当に、そんなことを望んでるのか?」
ロイドはうろたえる。しばらく押し黙ったかと思うと、苛立ったかのように身震いを始めた。
「俺は――強くなって! 全員を見返して――それから――認めて欲しい」
ロイドが最後に漏らしたのは、意外な言葉だった。
「認めてもらいたい……家族も、周囲も、実力がなければ認めてはくれなかった! 弱い人間が淘汰されてきたのを何度も見てきた! だから強くあり続けた!」
「それで今、どうなった?」
「今、俺様は――どうなっている? 誰よりも強くなれた。でも――認められたのか?」
俺は首を横に振り、困惑するロイドを否定する。
「ロイド、確かに弱い人間は淘汰されるかもしれない。でも、こんな方法で手に入れた力なんて、誰も認めてなんてくれないさ」
「俺様は――いや、ワシは――どうすればよかった?」
もう、終わりにしよう。
「そうだな――とりあえず、七本にしてみよう」
俺が腕を前に伸ばすと、ロイドの体の下に七つの魔法陣が展開された。
紫色の光を放つ魔法陣の上で、バチバチと激しい電流が走っている。
「あれは、<スライジング・バースト>!?」
ローラが驚きで声を上げた。ご名答。これは<スライジング・バースト>だ。
ツオドトスとの戦いで、一本の威力を50%にすることで反動を軽減する<スライジング・バースト>を編み出した。
あれからずっと考えていたのだ。夢物語にも近いような、必殺技の構想を。
それは、一本の威力を100%で維持したまま、複数本の<スライジング・バースト>を放つことを。
この必殺技を夢物語と表現したのは、それが不可能だと考えられていたからだ。まず、100%の威力で<スライジング・バースト>を放つには、反動を抑えるスライムたちの補助が必要だ。
おまけに、複数本となれば、さらに高い魔力コントロール能力に加え、それで力尽きてしまわないような魔力が必要。
だが、今はどうだろう?
今の俺はゼインの魔眼によって、身体能力が格段に向上している。もちろん、魔力もだ。
そして、この一か月間、ただレベルを上げるだけでは退屈だったので、魔力コントロールを集中的に強化していたのだ。
おかげで、フェニックスをソロで倒すのに1か月もかかってしまった。
「ロイド、お前はやり方を間違えた。だからせめて――俺の魔法で止めてやる」
完璧なシチュエーション。そして万全の調子でこの技を試せるなんて、願ってもいない。
俺が魔力を練り上げると、ロイドの下に展開された七つの魔法陣が、激しく光を放ち始めた。
七本の<スライジング・バースト>。出力はマックスの100%。名付けて――、
「<七連星>」
刹那、魔法陣から雷の柱が七本、出現する。
それはまるで大木が地中から生えてきたような大きさで、バチバチと震える音を立てた後で。
ドガーン!!
と、落雷したような轟音を鳴らした。
「うぐわああああああああああああああああああああああ!!」
爆発が起こったような衝撃と、その場にいるだけで火傷してしまいそうな威力の電流。
その一撃は、まるで夜空に浮かぶ星のように、地上を幻想的な光で照らしていく。
残ったのは、焦げくさい臭いを放って気を失うロイドと、大地を包み込むほどの静寂だけだった。
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