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191/218

191.そこにいたのは

「あれ……ここは?」


 俺はさっき、ミラさんの家でゼインの魔眼を取り込んだような……?


 だが、ここには見覚えがある。懐かしい匂いに、周囲の景色。ここは……。


「サリナ村?」


 俺の故郷のサリナ村で間違いなさそうだ。

 建物は全て立っているが、代わりに人気が全くない。


「何をしろって言うんだ……?」


 もう試練は始まってるってことか? だとしたら、何か説明くらいしてくれればいいのにな……。


「ううっ、ううううう……」


 困惑しながら辺りを見回していると、子どもの泣き声が聞こえてくる。

 おかしいな、人なんかいなかったはずなのに。


 声がする方を見ていると、金髪の子どもが建物の陰で泣いているのを見つけた。


 なんとなく怪しいよなあ。でも、話しかけないと何も始まらなそうだし。


「おーい、君。どうしたの?」


「うううう……うわああああああ!!」


 話しかけると、子どもはさらに大声で喚き始めてしまった。

 弱ったな……こういうとき、ライゼが傍にいてくれたら泣き止ませてくれるんだけど。


「何かあったのか? 親とはぐれたとか?」


「……親はいないよ。殺されたから」


 殺された……!?

 突然出てきた物騒な言葉に、俺は咄嗟に身構える。


「殺されたんだ。お前にな。お前が余計なことをしたせいだ、スライム野郎(・・・・・・)


 少年が加速的に成長していく。背がぐっと伸び、目鼻立ちが整っていく。

 俺はこの少年の正体を知っていた。……いや、この少年が成長した後の姿を。


「ダン……!」


「よう、久しぶりだな。元気してたか? ま、聞くまでもないけどな」


 おかしい。ダンは俺がこの手で殺したはずだ。

 しかし、目の前の人物は、明らかにダンだ。薄ら笑いを浮かべたときの目付きも、立ち姿も、記憶とまるで差異がない。


「なぜお前がここにいるんだ?」


「なんだよその目は。久しぶりに親友と再会したんだぜ? もっと会話を楽しもうぜ」


「……お前を親友と思ったことはない!!」


「奇遇だな。俺もそうだぜ。本当だったらてめえの顔なんか見たくなかったけどな、仕方なくここにいるんだぜ」


 ……そうだ、試練っていうのはこれのことか!

 きっと、ここでダンを倒せば――、


「ここで俺を倒せば試練終了、とか思ってるんだろ?」


 その時、ダンが俺の心を読んだように言い当ててきた。


「いかにもお前が考えそうなことだぜ。お前が――いや、殺人鬼のお前がな」


 殺人鬼、だと?


「ふざけるな! どっちが殺人鬼だ!」


「おいおい、責任転嫁かよ? 俺は人なんか一人も殺したことなんかないぜ」


「どの口がそんなことを……お前のせいでアンデッドになった街の人は戻らないんだぞ!」


「俺のせい? いいや違うね。お前のせいだよ、全部」


 街の事件が全部俺のせい……?

 ますます腹が立ってきた。まさか死んだ後もこいつに苛立たされるとはな。


「違う! アンデッドをけしかけたのはお前だろ!」


「本当にそうか? その原因を作ったのはお前だろ?」


 何を言ってるんだ、こいつは……?


「お前が俺に逆らわなかったら、街の人が死ぬことはなかった。そうだよな?」


「それは……」


 違う、と言ったら嘘になる。


「アンデッドをけしかけた俺が全て悪い。アンデッドに殺されるような実力しかなかった周囲が悪い。自分は一切悪くない。本当にそうか? アンデッドに殺された人の前でも同じことが言えるのか?」


「……何が言いたい?」


「だから最初から言ってるだろ。お前は人殺しなんだよ。他人に顔向けできるようなまともな人間なんかじゃない。あれだけ憎んだ俺と同じ、殺人鬼なんだ」


 違う。そんなはずがない。

 反論するための言葉はいくつも浮かんでくる。


 だけど、そこから先の言葉が思いつかない。


 街の人が死んだのは俺のせいだと、薄々思っている自分がいるからだ。

 もし、あの時俺がダンに反抗なんてしなければ……大勢の命が救われたのかもしれない。


「そうやって被害者ぶるなよ。気づいてただろ? お前は他人の人生を踏みにじって生きてきたんだよ」


「じゃ、じゃあどうすればよかったんだよ!? あの状況で、全ての人を救うなんてできなかった!」


「そんなの決まってるだろ。お前が弱いまま、膝を抱えて生きればよかったんだよ」


 ダンはいつもの薄ら笑いを浮かべて、演説のように両手を広げた。


「パーティを追放されたあの日、お前は立ち上がらなければよかったんだ。お前がその賢明な選択さえ出来ていれば、人が死ぬことはなかった!」


「結果論だ! それに、俺はあのまま生きるなんて嫌だった!」


「本当にそうか? お前は強くなって、俺をなじって善人面してただろうが! 正義を盾になんでもできて、さぞかし楽しかっただろ!?」


 違う。違う違う違う違う――!


「お前の罪を教えてやる。お前は他人を踏みにじってきたくせに、それに気づかない振りをしてのうのうと生き続けた。それがお前の罪だ!」


「あああああああああああああああ!!」


 俺は声を張り上げていた。

 反論ができない。何より、あれだけ嫌悪していたダンに言われることが苦痛だった。


 心のどこかで、ダンと俺は違うと思っていた。あいつが悪だと思うことで、良心の呵責から逃げていた。


 でも、俺もダンも、根本は同じだったんだ。いや、ダンよりも酷いかもしれない。


「なあ、お前もう死ねよ。お前はこれからも、そうやって平気で人を殺すんだよ」


「そんなこと――そんなことはしない!」


「本当にそうか? 見てみろよ」


 ダンは、俺の背後を指した。


 振り返ってみると――そこには見知った顔が並んでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ダン、久しぶりー アルクスは何も悪いことをしてないよ。 確かに思いやりを持つことは良いことではあるけど、 持たないことを完全な悪とするのはスパルタだと思う。 それにアルクスは被害を出すつ…
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