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187.修行の果てに

「フォオオオオオオオオオオン!!」


 響き渡る鳥のさえずり。肌に感じるわずかな風。


 目の前にいるのは、黄金の翼をはためかせる、一体の鳥型のモンスターだ。

 奴の名は、フェニックス。


「フォオオオオオオオオオオン!!」


 フェニックスは威嚇の声を上げると、鋭いくちばしをこっちに向けて飛来してくる。

 相手の実力を人間のレベルに換算すると、67。最強と呼び声の高いローラですら追いつくことが出来ないほどの速さだ。


 ……だが、それももう飽きてしまった。


「その動きはもう見切った!」


 フェニックスの突進を軽く受け流すと、俺は剣を振るった。

 緋華の黒い刃が、フェニックスの輝かしい翼に傷をつける。


 フェニックスはかなりダメージを受けたのか、小さく悲鳴のような声を上げたあと、翻って戻っていった。


「悪いけど、今日はただの確認(・・・・)なんだ。終わらせてもらうよ」


 俺は両手を前に出し、魔法陣を発動した。

 この作業もだいぶ慣れた。一か月前までは、衝撃で自分が吹っ飛んだり、威力が足りなくなったりしたっけ。


 でも、今は完璧。100パーセントコントロールできる。


「<スライジング・ツインバースト>」


 二つの魔法陣から、雷が放たれ、フェニックスの体に二つの大きな穴を空けた。


 フェニックスは、撃ち落とされたようにして地面に倒れ、そのまま絶命してしまった。

 <スライジング・ツインバースト>の威力を前にしては、フェニックスでも再生は出来ない。今日、そのことが確認できた。


「……よしっ!」


 長かった。この一か月間、死ぬ気でダンジョンのモンスターたちと戦い、向き合ってきた。


 そして今日、俺は灰のダンジョンのフロアボス、フェニックスを一人で倒せるようになったのだ!



「帰りました。ミラさんいますか?」


 ダンジョンからワープを使い、俺はミラさんの家に帰宅した。

 このリビングも、一か月も暮らすとだいぶ見慣れてくるものだ。


「おかえり! 早かったさね!」


 リビングのソファには、当然のようにミラさんが横たわっていた。

 一か月たっても、彼女のスタンスは変わらない。好きな時に起きて、ダラダラして、好きな時に寝る。


 そんな自由を体現した彼女は、むくりと起き上がり、大きく伸びをした。


「それで、フェニックスはどうだったんだい?」


「楽勝でした。やっぱり、一人で倒せることは間違いありません」


「そっか、じゃあ第二段階はクリアだね!」


 ミラさんは嬉しそうにパッと笑うと、俺の頭を強くなで始めた。


「よくやったよ。一か月前のアルクスとは比べ物にならないくらい強くなった!」


「ミラさんが指導してくれたおかげですよ。<スライジング・バースト>の威力調節も、モンスターを相手した時の立ち回りも、全部ミラさんに教わったんですから」


 ミラさんの指導は、彼女のちゃらんぽらんな性格とは裏腹に、具体的極まりなかった。

 動きや、魔力についての話をするときは、必ず彼女が蓄えた知識をベースに、わかりやすい言葉で教えてくれる。


 そんな彼女の指導を受けて、強くならない方が難しいくらいだ。

 最初は不気味だと思っていたミラさんだが、彼女への信頼は日増しに高まっていった。


「それを物にしたのはアンタだよ。……アルクス、レベルはいくつになったんだい?」


「70です!」


 俺はちょっと誇らしく言った。


 61だったレベルは、たった一か月で9も上がった。<スライム>の力もあるが、ミラさんの指導を元に毎日壁打ちできたのが大きい。


「魔女チョップ!」


「あぐっ!?」


 刹那、ミラさんのチョップが飛んできた。


「調子に乗るんじゃない! アタシに言わせてみれば、レベル100になってようやくスタート地点さね!」


「ごめんなさい……」


 レベル100がスタート地点なら、この国でその地点に立てている人なんていないだろうに。

 やっぱり規格外だ。この人と一緒にいると、どんどん強くなれる気がしてくる。


「とはいえ、よくやったのは間違いないさね。お疲れだろうし、食事を摂ってゆっくりするさね!」


 その時、ライゼが両手に皿を持って、厨房から顔を覗かせてきた。


「アルクスおかえり! お昼ご飯は出来たから、配膳手伝ってくれる?」


「はーい!」


 家事は分担になっており、料理はミラさんの希望でライゼが、その他はシノと俺がやるのが当たり前になっていた。

 三人とスライムたちの暮らしに、俺たちは慣れつつあった。まるで、この生活がずっとそうだったように。


「……うん、今日も美味い! やっぱりライゼの料理は世界一さね!」


「今日は、いつもと調味料の配分を変えてみたんです。どうですか?」


「最高さね! あえて言うなら、アタシはもう少し味が濃くてもいいと思うさね!」


 ミラさんは、食卓の時間がご機嫌のピークだ。

 まるで何日も食事を摂っていない旅人のように、むしゃむしゃとご飯を食べまくる。その姿に、もはや爽快感すら覚えてしまうくらいだ。


「「「ごちそうさまでした!!」」」


 食事が終わり、皿を洗いに行こうとしたとき。


「……さてと、アルクス。アンタは今日から、第三段階に進むさね!」


 ついに来たか、第三段階。

 この一か月、次の段階に進むためだけに全力を注いできた。


 そして、その内容はもう既にわかっている。


「第三段階は……お待ちかね、ゼインの魔眼を使ってみるさね!」

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