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186.緊急事態発生【SIDE:ロイド】

「くそっ! なんなんだこれは! 冗談だろ!」


 事件が起きたのは白昼だった。いつものように仕事をしていた時、部下から通信が入ったのだ。

 通信結晶(テレスタル)は、持っているもの同士でいつでも会話をすることができるアイテムだ。


 高価で希少なため、なかなか出回っている数が少ないが……ワシの直轄の騎士団・『王の盾』には完璧にそれが配備されている。


 そこいらの冒険者などとは、待遇も、設備も違う。必要なものを揃え、ミス一つ許さない体制こそが、一流の証拠なのだ。


 ……だというのに。


『ロイド様、ご報告です! 第二関門、突破されました!』


「なぜ簡単にやられてるんだお前らあああああああああああああああああ!!」


 白昼堂々の侵入者。城内の地下避難通路を通じて、何者かが入ってきているのだ。


 その人物は、まるでこのワシを嘲笑うかのように、ゆっくりとしたスピードで城に向かって進んでいる。


 いつもなら、侵入者など第一関門で追い払うのが当たり前なのに。第二関門まで至った人物は初めてだ。


「おい! ワシがお前たちにどれだけ金をかけてきたと思っているんだ! 食い止めろ! ワシの顔に泥を塗るつもりか!」


 通常なら、他の兵士に協力を要請するのが筋だろう。

 しかし、王の盾は『絶対』だからこそ価値がある。


 もし、第二関門まで破られたことが知れたら……ワシの立場は一気になくなるだろう。


 それだけは避けなくてはいけない。なんとしても、絶対にだ……!


『第三関門、突破されました!』


「なああああああにをやってるんだ!! 食い止めろおおおお!!」


 王の盾は、レベル30以上の騎士100人で構成されている。

 冒険者でいえば、全員Sランクは固いくらいだろう。それだけの人材を、ワシは金で集めたのだ。


 そんなプロ集団をあっさりと破ることが出来るのは、この国ではローラくらい――、


「そうか、ローラか! ローラの奴が裏切ったんだろ! あのガキが! いつも舐めた態度を取っていると思ったら、そういうことか!!」


『いえ、違います! 相手は二人組です! 一人は軍服を着ている男で、もう一人は……東の国の服を着た女です!』


 妙だ。女の方はアズマの人間だと想像できるが、アズマに軍服を着る文化はないはずだ。二人の繋がりが見えてこない。

 それに、そんな特徴の二人なんて、今までに聞いたことがないのだ。


『最終関門、突破されます!』


 通信結晶(テレスタル)を通じて騎士の声が聞こえてきて、ワシは倒れそうになった。


 終わりだ。ワシの名誉も、地位も。


 なぜワシがこんな目に合わなければいけないのか。ワシはこれまでの人生で、何一つとして悪いことなんてしてこなかったはずだ。

 それなのに……それなのに……!


「なぜ冒険者の奴らばっかり、楽しそうなんだああああああああああ!!」


『ずいぶんお元気なのね。今、そっちに行くわ』


 叫んだ瞬間、聞こえてきたのは女の声だ。

 女――東の国の服を着た女。今、こっちの存在がバレた……!


「もうどうにでもなれ! 誰か、誰か助けてくれ!」


 ワシはもはやなりふり構わず、自分の仕事部屋の扉を開けて、誰かに助けを求めようとした。


 ――しかし。


「あなたがさっきの人たちの大将さん? お髭が素敵なのね」


「うわああああああああああああああああああ!!」


 扉を開けたその先には、件の男女が立っていたのだ。


「な、なんで……さっきまで速くなかったのに……」


「だって、仲間を呼ばれたらめんどくさいんだもの。少しだけ力を出しちゃったの」


 二人組はワシを押しのけ、部屋に入ってくる。

 ワシは後ずさりするしかなく、声も出せない状態で床に尻餅を突いた。


 一人は、黒い軍服を羽織った男だ。髪は紺色で、オールバックにしている。


 もう一人の女は、まるで処女雪のように白い長髪をしており、前髪の横にはおくれ毛が揺れている。

 彼女が着ているのは……キモノ、といっただろうか。確かにアズマの服だ。


「な、なにが目的なんだ……? ワシに恥をかかせるためか?」


「え? そんなことどうでもいいわよ。実は、仲間から聞いたんだけど、ツンベルグ領のマシューが死んじゃったんだって」


「そ、それと何か関係が……?」


「だから、私は私なりの方法でユニークスキルを探すことにしたの。そのために、おじさまの部下たち、みんな殺しちゃった。ごめんなさいね」


「ああああああああああ、ああああああああああああああ!!」


 女から告げられた事実に、ワシは泣き叫ぶことしかできなかった。

 この二人組に立ち向かっても、ワシが勝つ確率など一分もないだろう。


「何者なんだお前たちは……冒険者か? 冒険者がワシに逆恨みしてるのか?」


「逆恨みしてるのは、どう見てもあなたの方に見えるけど。……そうね、私の名前はシラユキ。こっちはリーダーのダビア」


「リー……ダー?」


「私たちは箱舟(アーク)。神へと至る箱舟よ」


 女がそう言った瞬間、男の方がワシの額に手を付けてきた。

 その刹那、全身に電流が走ったような衝撃が襲った。


「な、何をするんだ!?」


「人間がどうして一つのスキルしか持たないか知っているか?」


 ダビアという男は答えない。むしろ質問を返してくる。


「何をいきなり……!?」


「答えは、『決壊するから』だ。人間は、一つの体に二つ以上のスキルを持つと、人としての形を失う」


「ま、まさか……!」


「そうだ。俺は<キマイラ>で、お前にスキルを流し込んでいる。<食人鬼(ヒューマンイーター)>、<暴食強化(グラトニック・バルク)>、<狂乱の戦士(バーサーカー)>……それらを全てお前に植え付け、合成する(・・・・)


 何を言っているんだこいつは? スキルを合成なんてできるわけがない!


「人間を食らえ。そうすれば、お前は最大で、レベル80相当まで強くなれるだろう。そうして、この国の人間を食らいつくすんだ」


「い、嫌だ! ワシは、ワシはただ聡明に生きていたかっただけなのに――!」


「で、泣き叫ぶだけのあなたのどこが聡明なのかしら?」


 シラユキの声を最後に、ワシの記憶は薄れていった。

 その代わりに、湧き上がってきたのは、底の見えないほどの食欲だった。

四章ラストスパートです!

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