183.命の取り愛【SIDE:グレン】
「この光は……あの時の!」
光が発生しているのは、サラの手のひらからだ。
それに、俺はこの光を見たことがある。これは、ヴィットを癒したあの光だ!
「<フェニックス>の能力は、対象を回復させること! そしてもう一つは……回復した対象の身体能力を向上させる!」
「身体能力の向上!? そんな効果があったのか!?」
思えば、ヴィットを回復させるときに、こいつは二つ目の効果を言っていなかった。
サラの手のひらから放たれる光が、俺の全身を包む。それに伴って、体の奥底から力が溢れてくるようだ。
これなら……いける!
「グレン、ごめんね。あたし、<フェニックス>を使うと気を失っちゃって……今も、意識を保つのがギリギリかも……」
「……サラ、ありがとう。あとは任せてくれ」
光が消え、サラの体を支えてやると、彼女は安堵したような表情で気絶してしまった。
俺は部屋の傍らにサラを寝かせてやると、再びザネントと向かい合う。
「……なぜ攻撃しなかった? 俺がサラを寝かせてる間に殴りかかることだってできたはずだ」
「そんなもの、愛に決まっているだろう!! オレはお前のことを殺したいほど憎んでいる! だが、それと同じくらい愛しているからなッ! !」
「どういう意味だ?」
「オレも昔は、貴族の端くれとして勉強なんかをやったもんさ。だが、オレは弟と比べて頭が悪かった。 だから、オレが武を、弟が文を極めると誓ったのだ」
ザネントは首をゴキゴキと鳴らし、ニヤッと笑った。
「愛ってのはリスペクトだ。オレは強い奴をリスペクトしている。お前みたいに、何度も立ち向かってくる奴は特にな!」
「そりゃどうも。俺も、お前のことはどうも嫌いになれないよ」
「グレン!! オレと、愛に満ちた戦いをしよう!!」
「望むところだ!」
本来なら不可能なことだが――今ならいける気がする。
おそらく<フェニックス>の効果だろう。ならば、ありがたく使わせてもらおう!
「<最硬にて最強>!!」
「うおおおおおおおおおおお!!」
俺たちは互いにぶつかり合い、ラッシュを放った。
骨と骨がぶつかり合い、激しい衝撃波を部屋中にまき散らす。
部屋が低く唸るように揺れる中、俺たちは自身の全力を拳に込め、互いにぶつけ合っていた。
「素晴らしいなグレン!! さっきまでとはまるで別人のような速さだ!」
「まだ、こんなもんじゃないぞ!」
グレンの右ストレートを躱し、顔面に飛び蹴りを入れる。
ザネントは咄嗟のことに反応できず、足で踏ん張りながら後方へ吹っ飛ばされた。
さっきまで<最硬にて最強>を使ってもザネントに攻撃を入れられなかったのは、身体能力において奴の方が上だったからだ。
だが、今は違う。相手の行動に反応し、それ以上の速度で反撃をする<最硬にて最強>に隙はない!
「面白れえええええええええええ!! お前の一撃からは愛を感じたぞ、グレン!!」
ザネントは自分の鼻から出た血を舐め、激しく猛った。
「オレはお前のことを気に入ったぞ! だから、我が奥義でお前を殺す!!」
「奥義……? まだ何か隠してやがったのか!!」
「喜べグレン! この技は今まで誰にも使ったことがないんだ!」
「そりゃずいぶんと、愛って奴だな」
「わかってるじゃねえかあああああああああああ!!」
叫んだ瞬間、ザネントの全身の皮が剥けたように、彼の体が真っ赤になり、血管が浮き出る。
目は卵のように白くなっており、その雰囲気だけでも圧倒的な力を感じる。
拳を打ち合うごとに、俺は少しずつザネントのことをわかってきたような気がした。それはおそらく、向こうもそうだろう。
だからこそ、こっちも全力で迎え撃つ!!
「<全身全霊の愛>!!」
ザネントが絶叫しながら、かつてない勢いで突っ込んでくる。
おそらく、自分の身体能力を強制的に引き上げて、一撃に全力をぶつけてくるつもりなのだろう。
ならば、俺もこの一撃に込めよう。
やったことはないが、ザネントとの戦いの中で真似ができるような気がしてきた。
「右腕に、俺が持つ全てを――詰め込む!」
意識した途端、右腕が燃えるように熱くなるのがわかった。
これを維持した状態で、奴にぶつける!!
「<ブラスト・オブ・アダマス>!!」
俺の拳とザネントの拳が交わる。
あまりの衝撃に、建物自体が崩れてしまいそうだ。足元は常に小刻みに揺れている。
二つの莫大な力がぶつかり合うとどうなるか。俺はその答えを知らなかったが、それはすぐに目の前で結果となった。
答えは、静寂。
「な、ん、だと……」
ザネントの拳は俺の顔から若干逸れて、空を捉えている。
一方で、俺の拳は、ザネントの横面に確かに叩き込まれていた。
「あ、ぐ、あ……」
壊れてしまったような声を漏らしたザネントは、白目を剥いたままその場に仰向けで倒れ込んだ。