表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

182/218

182.ザネントの猛攻【SIDE:グレン】

「えっ……ちょ、ザネント様!? な、何を……あぎゃああああああああああああ!!」


 ザネントはワカメ男に馬乗りになると、何度も何度も男の顔面を殴りつける。

 そのために男の悲鳴が上がるが、彼は手を止めない。真意の見えない突然の猛攻に、俺はひたすらに戦慄した。


「待ってください! 痛い痛い痛い!! ボクは、何を誤ったというのでしょうか!?!?」


「ん? 何を言ってるんだお前は? これは『愛』だぞ?」


「あ、愛ですか!?」


「そうだ。お前はこのオレからの『愛』を拒絶するのか? そんなはずないだろう! 愛とは、痛みを乗り越えた先にあるものだッ!」


 ザネントはそう叫ぶと、最後に強烈な一撃をワカメ男に叩きこみ、大きく息を吐いた。

 もはやワカメ男は完全に気を失っていた。それもそうだろう。あんな攻撃を千発も受けるなんて、まともな人間なら発狂していてもおかしくない。


「……オレのスキルは<千手覇王>。殴った数だけ攻撃力が上がる」


 ザネントは腕をグルグルと回して立ち上がると、ワカメ男に一瞥をくれた。


「こいつは、オレのスキルのウォーミングアップとなった。すなわち、愛の拳を受けた。愛を糧に、オレは強くなるのだ」


「……暴力を正当化しているようにしか聞こえないがな」


「黙れ。お前はオレから大事なものを奪った。それは我が弟、マシューだ」


 次の瞬間、ザネントの肩が震え始めたかと思うと、奴は大声で喚き始めた。


「うおおおおおおおお!! オレのッ! 弟をッ! よくも殺してくれたなああああああああああ!?」


「なんだこいつは……? 頭がおかしいのか……?」


「弟はッ! オレよりもずっと頭がよかったッ! だが、あまりにも貧弱だったッ! だから死んだッ! この世は弱肉強食ッ!」


 ザネントは腕で涙を拭うと、鋭い眼光で俺を睨み据える。ものすごい気迫だ。思わず息を呑んでしまう。


「だが、マシューを殺したお前だけは許さねえッ! オレは愛を糧にして、拳でお前に復讐するッッ!!」


 その刹那――ザネントの姿が消えた。

 あんな巨体が消えるわけがない。俺は慌てて辺りを見回した。さらに驚いたのはその瞬間だった。


「遅いな。それでよくここまで来れたものだ」


 ザネントの声が、聞こえた。――背後で。


「何っ!?」


 振り返った時にはもう遅い。ザネントの拳は俺の胴体を捉える直前だった。


「<壊れない双璧(ダイヤモンド)>!!」


 これを食らったら、軽く死ねる! そう感じ取った俺は、胴体とザネントの拳の間に、自分の腕を素早くねじ込んだ。

 <壊れない双璧(ダイヤモンド)>の効果は、自分の腕の硬化! 寸前で攻撃を防いだ俺は、パンチの勢いで吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「い、痛ぇ……なんだこいつ……!?」


 <壊れない双璧(ダイヤモンド)>で防いだというのに、俺の腕にはパンチの跡が出来ていて、シューシューと音を立てて煙が上がっている。

 それに、たった一撃でこの広い部屋の壁まで叩きつけられるなんて、まるで規格外だ。とても人間業とは思えない。


「……ふむ。かなり硬いな。千発も殴って砕けなかったものは初めてだ」


 どうやら驚いているのは俺だけではないらしく、ザネントも自分の拳を見つめている。


「ただの遅いガキだと思っていたが、認識を改めよう。お前は全力を以って殺し、弟への弔いとする!!」


「ああそうかよ。だったら俺も――本気でやらせてもらう!」


 俺は壁から抜け出すと、ザネントに突進した。


「<最硬にて最強(アダマンタイト)>!!」


 スキルを発動すると、全身が内側から激しく熱くなっていくのがわかる。まるで心臓が高温になっていくようだ。


「ほう、それがお前のスキルか! 楽しくなってきたな!!」


 ザネントが拳を打ち込んでくるので、俺もそれに合わせてパンチを繰り出す。

 二人の拳がぶつかった瞬間、大きな音と振動が部屋の中を駆け巡る。


 <最硬にて最強(アダマンタイト)>の制限時間は5分。連続で発動すると全身に激痛が走るため、ここで勝負を付けなくてはいけない!


 だが、いくら殴ってもザネントに隙が出来ない!


「どうしたどうした!? いくらかは速くなったようだが、全然足りないぞ!!」


 ザネントは好戦的な笑みを浮かべながら、俺への攻撃を止めない。その威力は、スキルの効果でさらに増している!


 事実、俺は威力・スピードともに、ザネントに負けている。どうやったらここまで肉体を強化できるって言うんだ!?


 じりじりと自分の足が後ろに押されているのがわかる。まさか、<最硬にて最強(アダマンタイト)>をもってしてもこいつを超えられないというのか!?


「これで1500発! オレの拳は、もう誰にも止められない!!」


 両者のラッシュがぶつかり合う中、俺の焦りだけが蓄積されていく。

 このままじゃ……失うのは俺の命だけじゃない。サラもやられる!


 どうやったら、この状況を打開できる!? あの時のように、もう俺は大事を失いたくない!


「おらあああああああああああああ!!」


 その刹那、ザネントのパンチのギアが上がり、俺は態勢を崩してしまった。


「しまっ……」


「終わりだ、ゴーレム!!」


 ザネントはさらに畳みかけ、俺の反撃も軽く弾き返す。


「この世界は、弱肉強食!!」


 俺の全ての攻撃は虚しく弾かれ、なす術がない。


「そして、お前はこのオレの拳の前に敗北した!!」


 反撃のボディーブローをモロに食らった俺は、地面に叩きつけられ、大きなクレーターを床に作る。


「恨むべきは、お前自身の弱さだあああああああああ!!」


 床で体がバウンドした瞬間、ザネントは俺の体を捉え、渾身の一撃を叩きこむ。

 俺はまるで嵐に吹かれたようにして、再び壁に叩きつけられ、床に倒れ込んだ。


 駄目だ。これは勝てない。

 いくらなんでも戦力差がありすぎだ。おまけに、向こうの攻撃力はどんどん上がっていく。


 ちょうど5分が経過し、<最硬にて最強(アダマンタイト)>の効果も切れた。もはやここから逆転する術はない。

 あとは、殺されるのを待つだけだ。悔しい気もするが、仕方ない。運が悪かったのだ。


「止めて! グレンを殺さないで!」


 そんな俺の前に立ちはだかったのはサラだった。うっすらと目を開けると、サラは両手を広げて、ザネントを通せんぼしている。


「サ……ラ。逃げ……ろ」


「逃げるわけないじゃない! あたしたち、家族だって言ったじゃん!」


「かぞ、く……?」


「そうだよ! あたしたちこれからもっと美味しいもの食べて、いろんなところを見ていくんだよ!」


 サラは俺の手を掴むと、涙を流しながら訴えかける。


 こいつ、弱いくせになんでザネントの前に立てるんだよ? 本当は怖いはずだろ……?

 俺のことなんて置いて、逃げればいいのに。なんでそこまでして俺を……?


 ……そうか。家族だからだ。俺はいつの間にか、こいつの『大事』になってたってことか。


 サラも、『大事』を守るために必死だったんだ。サラは、俺が思うような弱い奴じゃなかった。


 ……だったら、まだ負けられないよな。


「ん……? お前、なんだその光は……!?」


 その時、ザネントが不思議そうに声を漏らした。

 見ると、俺とサラが繋いでいる手に、一筋の光が宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ