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168.練られた策略

「ベヒーモス!? くそっ、厄介だな……!」


 あのモンスターは、まともに戦おうとすると骨が折れる!

 前回の巨大ベヒーモスの時は、こっちに攻撃してこなかったから時間をかけて<スライジング・バースト>を撃てたが……今回は難しいぞ!


「グゴオオオオオオオオオオ!!」


 ベヒーモスが地面を這いずり、こっちに突進を仕掛けてくる。俺たちは左右に分かれて攻撃を回避し、奴を見やった。


 パワープレイで押し切ろうとするなら、ローラがいないと無理だ。そのことはライゼもわかっているはず。

 だけど――この状況を打開できる作戦が思いつかない! 何かいい案は――、


「アルクス! ちょっと力、貸しなさい!」


 その時、ライゼがベヒーモスを挟んだ向こう側で声を上げた。


「何か作戦があるのか!?」


「あると言えばあるけど――正直ないに等しいって感じ!」


 なんだそれは、と言いたくなったが、ライゼはあくまで真剣なまなざしで俺を見つめている。

 彼女らしくないと言えば、彼女らしくない。だが、ライゼの表情は何かを確信しているように見えて、合理的な彼女の頭では算盤が叩かれているのではないかとすら感じられる。


「――やれるんだな!?」


「ええ。アンタと、私がいれば!」


「わかった! お前に任せる!」


 応答を聞き、俺は自分の運命を彼女にゆだねることにした。

 もしかしたら、彼女は本当に何の作戦も考えていないのかもしれない。でも、何も考えがないのはこっちも同じだ。


 だったら、相方を信頼するしかない!


「アルクス、私のサポートに回って!」


「――え?」


 耳を疑った。いつもなら自分からサポートをやると言い出す彼女が、自ら前線に出ると言い出したのだ。


「ミラさんが直感を信じろって言ったのは、多分こういうことよね!」


 ライゼは軽快にそう言い放つと、なぜかベヒーモスの方へ向かって直進し始めた!


「何ヲしてルんダ!? 馬鹿ジャないのカ!?」


 ベヒーモスが激しく咆哮し、前足でライゼを押しつぶそうとする。

 しかし――彼女はひらりとそれを回避すると、華麗な足取りでベヒーモスの懐に入り込む。


「瞬間的に炎を出して、放つ!」


 完全にベヒーモスの隙を突いたライゼは、足に炎を纏い、回し蹴りを放った。

 見たことのない技だ。ライゼの足蹴は、ベヒーモスの横腹にぶつかった瞬間に火花を散らし、小規模な爆発を起こした。


「ゴグガッ!?」


 予想以上の衝撃だったためか、ベヒーモスは吃驚の叫びを上げ、バランスを崩した。

 ライゼはさらにその隙を見逃さない。地面に着地した瞬間、両手を地面にペタッと付けた。


「足場を、崩す!」


 刹那、ベヒーモスの足元の地面が一部分だけ隆起し、ベヒーモスは横倒しになりそうになる。

 彼女の土属性魔法の効果だ。足場が悪くなったことで、ベヒーモスは強い攻撃も、防御も出来なくなった!


「アルクス、準備は出来てる!?」


「今やってる!」


 ベヒーモスの体勢が悪くなったことで、狙いが定めやすくなっている。俺の強力な魔法を撃ちこむなら、今がチャンスだ!

 だが、やはり魔法の発動には時間がかかる! 早くしないと、ベヒーモスに逃げられる!


「魔法の発動を早めるなら、魔法陣を複数に分ければいいの! そうすれば、一つ当たりの魔法陣の錬成の時間が短くなる!」


 耳朶を打ったのは、ライゼの忠告。俺はそれを速攻で理解した。

 なるほど、魔法陣を複数にすれば、一つ当たりの威力は低くても、強力な攻撃を放つことができるというわけか!


 だからライゼはあれだけの身のこなしと魔法を両立できたということだ!


 よし、練る魔力量を減らして、<スライジング・バースト>の威力を下げる! 代わりに、魔法陣を二つに分けて――、


「名付けて、<スライジング・ツインバースト>!」


 胸の前に掲げた両手の手のひらから、二つの魔法陣が生成され、ベヒーモスに向かって雷撃を放つ。

 その衝撃に負け、俺は後方へ吹っ飛ばされた。


 しかし、視線の先のベヒーモスは、雷に貫かれ、胴体に二つの風穴を空けた。

 勝利だ。ベヒーモスは絶命し、俺とライゼは無事!


「な、ナンダと!? フォレストベヒーモスがヤラレタ!?」


 状況が悪くなったのはツオドトスだ。ベヒーモスをやられるとは思っていなかったのか、わかりやすく焦った様子でキーキーと騒ぐ。


「おっと、動かない方がいいぜ? こいつ、話は長いが腕は確かなんだ」


「……」


 そんなツオドトスを背後から抑えたのは、他のサルたちを倒してきたガーディアンだった。

 その隣にはトークも立っており、ツオドトスの頭に向かって弓を構えている。


 兵士は全てやられ、王の頭には矢が突きつけられている。

 完全な詰み。この状況から逆転する術はない。


「さあ、ツオドトス。命が惜しかったらそれなりの態度を示した方がいいんじゃないか?」


「ひ、ヒィッ!?」


 ツオドトスは木から飛び降りると、ダイレクトに地べたに額を擦り付け、土下座をした。


「す、すみマせんデシタ! 我の――私ノ負けデす!!」


 さっきまでの舐めた態度が嘘かのように、ツオドトスは小さくなって地面に向かって叫んだ。

 よほど命が惜しいのか、体はブルブルと震えていて、口調も変わっている。俺はツオドトスの目の前に立った。


「さあ、どうしてほしい? 俺たちに喧嘩を売ったんだ。死ぬ覚悟はできてるよな?」


「ヒィィィィィィッッ!! ご、ごメンなさい!! どうか、どうか命ダけは!」


 謝罪をしながら、悲鳴のような声を上げるツオドトス。人間臭いその情けないしぐさに、思わず笑いそうになってしまう。


「そうか。お前、森の王を名乗ってたよな? だったら、この森にある食材に詳しいんだろうな?」


「は、ハい! 私ガ指示すれバ、どんな食材デも手に入りマス!!」


「だったら、お前は今日から毎日、俺たちに食料を献上しろ。さもなくば――わかってるよな?」


「わ、ワカりマシタ!! 二度と逆らイませんノで、どうカ命ダケは!!」


 すっかり怯えた様子で平身低頭とするツオドトス。ちょっと脅かしすぎたかな?


 ――とはいえ、森の王との戦いは、食材つきで、俺たちの完勝にて幕を閉じたのだった。

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