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167.現れた王

 ミラさんの家から出て、俺たちは食材を求めて森の中を進んだ。


「っていうか、森で取れる食材って何があるんだ?」


「そうね、まずはウサギのお肉とかかしら。あとはキノコをアルクスの<鑑定>で調べて、食べられそうだったら持っていきましょう」


 ということは、草っぽいものを探せってことか……? 足元によく気を張っておくか……。

 俺たちはそれから目に入った植物を吟味しつつ、どんどん森の奥へと進んでいった。


「……よし、これは食べられそうね。とりあえず回収かしら」


 ライゼが足元に生えている植物をむしっていたその時。


「おーい、二人とも調子はどうさね?」


 向こうからやってきたのはミラさんだった。手を振って、こっちに来ている。


「あれ、ミラさん? 見に来てくれたんですか?」


「ま、そんなところさね。今日の夕飯がどうなるか気になったんでね」


「こっちはぼちぼちですよ。と言っても、今のところ草ばっかりですけど」


「そうなのかい? どうせなら美味しいものがいいからね。どれ、ちょっと見せてみな――」


 その瞬間、俺はミラさんを睨みつけて身構えた。


「なんだい、その目は。ちょっと食材を見ようとしただけさね!」


「ミラさんは食事なんて食べられればなんでもいいんだよ。つまり、お前は偽物だ」


 ライゼがハッとした表情になる。

 ミラさんの言葉がこんなところに活きてくるなんて。対象を観察すれば真偽がはっきりする。そういうことだ。


 目の前のミラさんがニヤッと薄ら笑いを浮かべた刹那、彼女の体が水に絵の具を溶かすようにぐにゃりと歪んだ。

 ミラさんだったそれは、一匹のサルに姿を変えた。この前戦った奴にそっくりだが、体が大きく、人間ほどもある。


「昨日のサルか!」


「タだのサルではなイ。我ハ森の王でアる」


 ミラさんに化けていたサルは、たどたどしい人語を喋っている。まるで言葉をつぎはぎしたような不気味さを感じさせられる。


「お前の目的はなんだ?」


「貴様ラ、あの女ノ仲間だろウ? 我はアノ女が嫌イだ。だかラここデ殺す」


 サルは忌々しそうにそう言うと、キッとこちらを睨みつけてきた。

 なるほど、ミラさんがいるせいで王様面できないんだな。それで俺たちに日頃の鬱憤をぶつけてきていると。


「でも、お前の正体は見破ったし、見た感じ俺の方がお前よりよっぽど強いぞ! 大人しくどっかいけ!」


「フふフ……まだ気づいテイないノカ? すデに準備は整ッテいる」


 サルの王が右腕をバッと上げると、木々の後ろから部下と思われるサルたちが続々と姿を現してきた。

 その数は続々と増えていき……10、20……いや、30はいる!


「嘘!? いつの間にこんなに集まってたのよ!?」


「どうせまた幻覚だろ!?」


「そうではナい。彼ラハ我が兵隊ダ!」


 サルたちがキャッキャと鳴き声を上げて俺たちを舐め回すような目で見ている。

 どうやら奴の言う通り、本物であることには間違いなさそうだ。


 ただのちょっかいかと思ったが……予想以上に本気みたいだな。


「リュドミラのセいデ我の威厳は総崩レだ! その報イヲ受けてもらウ!!」


 これまでつぎはぎだった言葉に、憎しみの色が混じったように感じた。


「我ガ名はコの森ノ王、ツオドトス! 反逆者は、ココデ処刑すル!」


 猿の王ツオドトスの号令と同時に、兵隊ザルたちが一斉に襲い掛かってくる。やるしかないようだ!


「スライムたち! 任せた!」


「キュキュー!」


 俺は出せる限りのスライムたちを一斉に召喚し、サルたちに真っ向から立ち向かわせた。


「な、ナんダそのスライムたチは!?」


「俺の仲間だよ! ただのスライムだと思うなよ!」


 次いで、ガーディアンとチアを召喚する。


「チアはスライムの強化を! ガーディアンは、チアを守ってくれ!」


「わっかりました! 皆、頑張ってねー!」


 チアが両手を上げると、スライムたちが白い光に包まれて強化される。

 さながらスライムとサルの全面戦争だ。森の中がちょっとした大騒ぎになっている。


「ライゼ! 俺たちはツオドトスをやるぞ!」


「ヒッ! こ、コこは撤退ダ!」


 ツオドトスは状況が悪いと思ったのか、俺たちに背を向けて走り出した。

 向こうが本気で来たなら、こっちも容赦はしない! ここで決着をつけてやる!


 俺とライゼは全力疾走で、足場の悪い森を駆ける。目標は、前方を逃げ回るツオドトスだ!


「待て! お前はここで倒す!」


「待テと言わレて待ツ奴がイルか!!」


 ツオドトスは地の利を活かし、木から木へ飛び移って素早く逃げる。

 ライゼも氷塊をツオドトスに向かって撃ち続けているが、全てひらりと躱されてしまう。


 そんな攻防が2分ほど続いた。俺たちはかなり疲弊しながらも、ツオドトスの背を追って走り続ける。


「おい! 逃げるな!」


 そう叫んだとき、ツオドトスが木の上でピタッと動きを止め、こちらを向いた。


「……フフフ。我ガ逃げテいるヨウニ見えてイたのか?」


 そう言ったツオドトスは会心の笑みを浮かべており、俺たちはそこでようやく冷静になる。


「ココは我が国だ。貴様ラは追ってイルようで追い込マレていたんだよ、馬鹿ガ!」


 その時、俺たちの足元が大きく揺れ、目の前の地面が大きく隆起した。


「な、なんだ!?」


 森の地面が、急に山のように盛り上がったぞ!? まさか、これを想定してツオドトスは逃げ回っていたのか!?


「出デヨ! フォレストベヒーモス!!」


 そこに現れたのは、全身が緑色に苔むしたベヒーモスだった。

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