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164.敗戦のち、弟子入り

「……起きるさね。いつまで寝てんだい」


 意識を取り戻すと、俺はミラさんの部屋の中にいた。

 どうやら、さっきの手刀で伸びてしまったらしい。床にうつぶせになっていた状態から、俺は起き上がった。


 部屋の中にはミラさんとライゼがいて、俺を見ていた。

 さっきの展開からして、ライゼも気絶させられていたんだろう。俺が一番長く気を失っていたというわけだ。


「ようやく起きたね。で、やってみた感想はどうだい?」


「まだ意識がはっきりしないですけど――なんていうか、とても手が届かないと思いました」


「そう思うのが当然さね。これがアンタとアタシの実力差さ」


 俺とミラさんの距離を知りたかった。もしかしたら、少しくらいは善戦できるんじゃないかとすら考えていたくらいなのに。

 だからこそ、触れることすら叶わなかったという事実は、かなりショックだ。俺は悔しさから、拳を握りしめた。


 ミラさんの隣で俺を見ていたライゼが、手を挙げた。


「一つ聞きたいんですけど――<創造者の想像クリエイターズ・イマジネーション>は、本当にどんなことでも実現できるスキルなんですか? そんなスキル、聞いたことないんですが」


「どんなことでも実現できるっていうのは違うね。あくまでアタシが想像できる範囲でね。ただし、想像をするためにはその背後にある論理を理解しないといけないのさ」


 ミラさんは手のひらの上で炎を生成する。ゆらゆらと揺れて熱を放つそれは、間違いなく炎だった。


「例えば、こうやって炎を出すためには、炎がどうして発生するのかや、どういうふうに構成するのかを理解しないといけない。普通に魔法を習得するほどよほど時間がかかる上に、普通より魔力の消費も半端ないさね」


「じゃあ、<四大元素>を持っている私が、五属性の魔法を使うことはできないってことですか?」


「まず無理さね。アタシの場合、使える魔法の属性が増えたのはスキルがあってこそ。スキルを持っていないアンタが――ましてや、魔法の論理を完璧に理解していないアンタじゃ無理さね」


 ミラさんに可能性を否定され、ライゼはあからさまに肩を落とし、暗い顔をした。

 ライゼは負けず嫌いだ。彼女なりにその事実を飲み込みながらも、どこか納得できない気持ちなんだろう。


「とはいえ、二人ともまだ若いし、伸びしろはあるさね。ま、これに懲りずにこれからも――」


「俺たちに、伸びしろはあると思いますか?」


「なんだい、いきなり。ああ、あると思うよ。その若さでそれだけの強さがあれば、ここからまだまだ――」


「だったら、俺たちを弟子にしてくれませんか?」


 気づけば、とんでもないことを口走っていた。

 自分が発した言葉に驚く反面、俺はある種の納得感を抱いていた。


 この人には絶対に勝てない。だからこそ、俺はこの人から強くなるための何かを吸収しなければいけない。そう思ったのだ。


 俺の突然の申し出に、ミラさんは全く揺らぐ様子がなく、ただ言い放った。


「駄目だね」


 容赦ない一言。ここまでどこか適当な雰囲気を漂わせていたミラさんが、一瞬だけ真剣な表情になったような気がした。


「……アタシは弟子は取らない主義なんだ。当たるなら別のところを当たりな」


「でも、俺はミラさんだから頼みたいと思えたんです! ミラさんは、俺たちに何が足りないのか、わかってるんじゃないですか!?」


「駄目なものは駄目さね。アタシはそういう面倒ごとは嫌なんだ」


「だったら――なぜ、俺たちがモンスターに襲われていた時、あえてヒントを出したんですか?」


 ミラさんは、明らかに態度と言動が一致していない。

 俺たちが最初にモンスターに襲われていた時、彼女の力があれば、一撃で全ての敵を倒すことができただろう。


 さっきの戦いもそうだ。彼女の力があれば、いきなり瞬間移動で倒すことも出来たはず。


 彼女は明らかに、俺たちに強くなるヒントを教えようとしている。なのに、弟子にはしないという姿勢は頑なに崩そうとしない。


「……それは、ただの気まぐれさ。何度も言うけど、私はアンタたちを弟子にはできない」


 ミラさんはそれだけ言うと、部屋から出ていくために扉を開けようとする。どうやら意志は固いようだ。


「二人とも、今日は疲れてるさね。弟子にはしないけど、今日は泊まっていくといいさね」


 ミラさんはそれだけ言い残すと、扉を閉じてどこかに行ってしまった。

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