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160.仕掛けられた罠

「そんなこと言ったって、この状況でどうすればいいんだよ!?」


「それは……とにかく、戦うしかないわ!」


 サルたちが奇声を発しながら少しずつにじり寄ってくる。もはや選択肢は他になかった。


「トークは高所からの援護を頼む! 俺たちは、このサルを相手にする!」


 剣を引き抜き、サルたちを睨み据える。大丈夫だ、素性がわからないとはいえ、そこまでレベルは高くないはず――

 まずは先制して、こっちのペースを作ってやる!


「こっちから行かせてもら――」


 走り出そうとしたとき、俺は再び、ある違和感に襲われた。

 それは、先ほどの漠然とした不安よりも色濃く、より核心に迫るようなものだった。


 足が、動かない――!


 足が、何かに絡めとられたようにして動かない。まるで取り餅を踏んだようだ。力いっぱいもがくが、足はゆっくりとしか動かない。

 何が起こっているのかわからずに足元に視線をやって、ようやくその正体に気が付いた。


「なんだこれ!?」


 それは、巨大なクモの巣だった。俺とライゼの二人を中心にして、半径三メートルはあろう紫色のクモの巣が張っていたのだ。


「嘘――足が、全然動かない!」


 状況はライゼも全く同じようで、表情には焦りの色が強い。

 そうしている間にも、サルは少しずつこちらに近づいている。


 マズい。かなりマズい――! このままじゃ、動けないところをサルに襲われる!


 突然姿を現したサル。発動しないスキル。いつの間にか足元に張っていたクモの巣。その全てが初めて起こることで、驚きを隠せない。


 一体何が起こっているって言うんだ!? 考えろ! 考えなきゃ死ぬ!



「上を見な!」



 その時だった。ライゼではない、女性の声が俺たちの耳朶を打った。


「上……?」


 俺はその知らない声に従い、上を見てみた。視線の先には、一羽の鳥が円を描くように飛んでいるのが見えた。


「なんだあの鳥……!?」


 ワシと同じくらいの大きさの、一匹の灰色の鳥。大きくてわかりやすいはずなのに、今までは気づかなかった。

 俺はダメもとで、その鳥に<上位鑑定>を発動してみた。


――


ミスト鳥 レベル13


対象に幻影を見せ、意識を奪う。抜け殻になった対象をゆっくりと生きたままついばむ。


――


 発動した! そして、奴の正体もわかった。

 あのモンスターはおそらく、俺たちに幻影を見せているのだ。だとすれば、攻略の糸口はここだ!


「ライゼ! あの鳥に向かって魔法を撃ってくれ!」


「わかった! <大火球(エル・フレイア)>!」


 声に触発されて上を見ていたライゼは、すぐさま巨大な火球を生成し、ミスト鳥に向かって放った。


「グゲッ!?」


 鳥は思ったほど戦闘が得意ではないのか、間抜けな鳴き声を上げた後に、ライゼの放った火球をモロに受けて地に落ちた。

 すると、俺たちの周囲に変化が起きる。


「キャーーーッ!! なにこいつ!?」


 途端にライゼが悲鳴を上げた。彼女の足元に引っ付いていたのは、スライムの倍はありそうな巨大な紫色のクモだった。

 クモの巣を張っていたのは、十中八九こいつだ。幻影に騙されて動けない俺たちの足元を糸で絡めとっていたんだろう。ミスト鳥の幻影は、こいつの姿を隠していた!


「ライゼ、動くなよ!」


 俺は緋華に炎を纏わせ、クモを一突きにした。同時に、炎でクモの巣も焼き払ってしまう。


「よし、これで動けるようになった!」


 改めて、周囲を見回す。すると、さっきまで奇声を上げていたサルたちが、こちらを恐れているような様子を示していることに気が付いた。


「こうなったらこっちのものだ! 行くぞライゼ!」


 俺は剣を握りしめてサルたちに肉薄すると、次々と首を切り落としていった。

 ライゼは後方から氷で奴らの動きを鈍らせ、俺を動きやすくしてくれる。


 一分も経たないうちに、サルたちは全滅し、俺たちはようやく息を吐くことが出来た。


「なんとか勝てたわね……はあ、ハラハラした」


「だな。なんとかなったからよかったけど、あと一歩間違えていたらヤバかったな……」


 冷静になるにつれて、俺の意識はある一点に引っかかりを覚え始めた。

 それは、戦闘中に聞こえた『上を見な!』という声だ。


 あれは一体誰の声だったんだ……? あれは確かに、俺たちの中の誰の声でもなかった。

 そして、あの声のおかげで戦況が覆されたこともまた事実だった。


 考えた果てに、俺は一つの結論に至った。


 俺たちを、誰かが助けてくれたということか……?


「基本的な戦闘能力はあるみたいさね! まったく、これで負けたらどうしようかと思ったさね!」


 その時だった。さっきの声が再び聞こえてきて、俺たちはハッとして身構えた。


「そう警戒するんじゃないよ。一応、アンタらを助けてやった命の恩人なんだから、感謝くらいしたらどうさね!」


 声の主は俺たちのことが見えているのか、語り掛けてくる。


 次の瞬間、目の前の空間に亀裂が走るのが見えた。

 現実的に考えてありえないことだが、そう表現するほかなかった。何もない空中に卵のひびが入るようにして亀裂ができると、その向こうから白い細腕がぬっと伸びてきた。


「まあ、久しぶりの来客さね。少しくらい相手してやろうかね」


 空間の裂け目から、少しずつ体のパーツが出てくる。手の後は足、胴体が出てきて――それはついに、一人の人間になった。


「あなたは一体……?」


 長く伸ばした黒髪。透き通るような碧眼の持ち主。その人物は、歳のほどは20代くらいの女性だった。

 女性は髪をさらりとかき上げると、腰に手をやって、自信ありげに答えた。


「アタシはリュドミラ。人からは最果ての魔女、なんて呼ばれてるかねえ」

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