158.突然の呼び出し
「俺に依頼?」
実家で一晩過ごし、オルティアに帰ってきたその日。俺にとある人物が訪ねてきた。
「うん! ローラ姉からの伝言だよ!」
その人物はフランだった。ワープを使ってオルティアにやってきた彼女は、手荷物と一緒に俺の家にやってきた。
「依頼って、誰が? ローラか?」
「ううん。国の攻略班を管轄してる部署の人だよ。お役人さんって言ったらいいのかな?」
役人……ってことは、偉い人じゃないか! 今まではローラを介して連絡をしてもらっていたので、直接呼ばれるのは初めてだ。
何か目を付けられることでもしただろうか。いきなり呼び出されたと思うと、なんだか胃が痛くなってくるような気がする。
「わかった。とりあえず王都まで行こうか」
俺はワープスライムを出すと、行き先をモントロリアに設定し、フランに先に潜るように促した。
一体、国の役人が俺に何の用だろうか。悪いことじゃなければいいな!
ワープスライムのフラフープのようなゲートを通った先は、モントロリアの入口近くにある噴水の前だった。
前に来たときは夕方だったが、今回は日中。心なしか、前回よりも人が多いような気がする。
「おにーさん! こっちこっち!」
久しぶりのモントロリアを見回していると、フランが意気揚々と俺の服の袖を引っ張り始めた。
フランが行き先を案内してくれるようだ。彼女はぐいぐいと俺を先導し、道の先を指さす。
その指先を見ると、他の建物よりひときわ大きい建造物がある。
白いレンガ造りの巨大な城――あれこそが俺の目的地である王城だ。
「よく来てくれたな。待っていたぞ」
フランに連れられ、あれよあれよと言う間に王城の中に入っていき、しばらく階段を昇ると、そこにはローラがいた。
俺とフランの到着を待っていた彼女は、挨拶をささっと済ませると、廊下を歩き始めた。俺たちも後に続く。
「それで、俺は何も聞かされてないんだが、何の用なんだ?」
「そうか、用件を言っていなかったな。貴様には行って欲しい場所があるんだ」
「行って欲しい場所?」
「そうだ。まあ、詳しい話はこちらで話そう」
そう言ってローラが経ったのはとある部屋の前だった。
扉をノックし、部屋の中に足を踏み入れると、そこには一人の男がいた。
「失礼する。件のアルクスを連れてきた」
俺たちの正面のデスクについている男――この人が役人だろうか。
年のほどは60~70代ほどだろうか。髪は雪を被ったように白く、肌には深いしわが刻まれている。かなり年を取っていることが伺える。
その男は狐のような鋭い視線で俺に一瞥をくれると、フンと鼻を鳴らした。
「お前がローラの言うアルクスか。なんだ、ただのガキじゃないか」
出会って早々、老人は俺を罵った。いきなりのことに、俺は驚いてしまった。
「ロイド殿。アルクスは私が認めた実力者だ。侮辱するのはやめてもらおうか」
「口を慎むのはお前の方だ、ローラ。ワシはそもそも冒険者なんて認めていない。せいぜい趣味程度の連中の集まりだろうが」
フランとローラがムッとした表情になる。なるほど、なんとなく二人がこの人をどう思っているかがわかるな。
そもそも、冒険者は見下されることが多い。実力と教養を兼ね備えた人間は、冒険者ではなく王国直属の傭兵になるからだ。
例えば、ライゼのような貴族の身分と、類まれな才能を持っている人間なら、普通は傭兵になるだろう。あいつは少し変わっているから、冒険者をやっているが。
多くの人にとって――特に、国の役人からしてみれば、冒険者という仕事は、そんな傭兵崩れのならず者が集まる職業なのだ。
こういう扱いは慣れているので、俺は何とも思わないけど――正直やめて欲しい。
当然、そんな俺の気持ちを察することもなく、ロイドと呼ばれる老人はだるそうに話を続けた。
「まあいい。アルクスと言ったな。お前に一つ、仕事をくれてやる」
「……どこかに行くって話ですか?」
「そうだ。お前には魔女の森に行ってもらう」
魔女の森という単語にはすぐにピンと来た。確か、実家の近くにあるっていうあの森のことだ。
「魔女の森って……何のために?」
「これを調査するためだ」
そう言ってゼノは、机の上に置かれたガラスケースの上にポンと手を置いた。
ショーケースのようになっているそこには、真っ赤に輝く一粒の宝石があった。
あれはゼインの魔眼だ。
「ゼインの魔眼の調査をするために魔女の森? 話が全然見えてこないんですが」
「いいか、間抜けなお前にもわかるように説明してやる。そもそも、魔女の森がどうしてそう呼ばれるようになったか知っているか?」
「魔女が住んでいるって噂があるからですよね?」
「ほう、一応ならず者の冒険者でも知っているようだな。だが、一つ間違いがある」
嫌味交じりのロイドの話。次の彼の言葉に、俺は息を呑むことになる。
「――噂ではない。あの森には、今も魔女が住んでいる」
「え……!?」
それは、あまりにも信じがたい話だった。