156.実家に到着
「やっぱりアルクスじゃないか!? お前、どうしてこんなところに!?」
「今から実家に帰ろうと思ってたところですよ。ライネスさんこそ、どうしてこんなところに?」
「俺は仕入れた商品を持ち帰って……って、そうだ! お前、これはどういうことなんだ!?」
ライネスさんは、着火した爆弾を前にした様子で、慌てて俺を指さした。
「もしかして……あなたはS級冒険者のアルクスさん!?」
次いで、さっきまで固まっていた冒険者の一人が声を上げた。
自分のことを知られている感覚には、未だになれない。なんだか気恥ずかしさすら感じてしまう。
「S級って……アルクス、お前がか!? 何かの冗談だろ?」
「冗談じゃないです! このアルクスさんは、冒険者になってから最短期間で攻略班に入った、すごい人なんですよ!」
冒険者に否定され、ライネスさんはようやく俺がS級だということを理解したようだ。しばらく面食らったように沈黙した後、口を開いた。
「……信じられない。あのスライムのアルクスが、まさかこんなに強くなるなんて」
ライネスさんが驚くのも無理はない。出稼ぎのためにオルティアに行くまで、俺は弱虫のスライム野郎だったのだから。
ダンからもそういった扱いを受けていたが、この村でもそれは例外じゃない。もちろん、暴力を振るわれたことや、人格否定をされたことは一度もなかったけど。
「アルクス、強くなったんだな。きっと家族も喜ぶはずだ。サリナ村に帰ろう」
ライネスさんはそう言うと、再び馬車に乗り込み、後ろの座席に座るように促してきた。
俺たちは馬車に乗り込んで、ライネスさんたちとしばらく会話を楽しんだ。
「ついたぞ! サリナ村だ!」
二、三十分くらい経った頃、ライネスさんが声を上げた。
馬車の進行方向の先には、俺の背丈の倍はあるような木製の門がある。そこを起点とするようにして、壁が村全体を囲むように立てられる。
実に半年ぶりほどだろうか。もはや懐かしさすら感じる、サリナ村に帰ってきた。
「さ、アルクス。家に帰ってやんな。お前が強くなったことを聞いたら、家族も喜ぶぞ!」
ライネスさんに見送られ、俺とライゼは実家へと向かった。
小さい村だから、どこに何があるかすぐにわかる。俺の実家はこっちだ。
「……全然変わってない」
オルティアではあまり見ない、木造の平屋。街の建物を見ると質素に感じてしまうが、シンプルでいい家だ。
少し緊張しながらドアノブを回し、顔を覗かせてみる。
「……ただいまー?」
「なんで疑問形なのよ」
しょうがないだろ。久しぶりすぎて調子が掴めないんだから。
鍵は開いてる。だが、玄関には誰もいない。少しの静寂の後、家の中から声が聞こえてきた。
「アル!? アルなのね!?」
刹那、リビングの方から飛び出してきたのは、母だった。
彼女の名前はリエル・セイラント。俺と同じ黒髪青目をした母は、突然の俺の訪問に、口を大きく開けて驚いている。
「お父さん! アルが帰ってきた!」
「何、アルクスだと!?」
次いでリビングから出てきたのは、母よりもかなり背が高い、筋肉質の男。
セアド・セイラント。彼こそが俺の父だ。母さんに呼ばれて玄関に来るなり、ぎょっと目を丸くしている。
「何、お兄が帰ってきたの?」
そして、最後にひょっこりと顔を出してきたのは、茶髪をポニーテールにした少女だ。
ヒナ・セイラント。彼女は俺の妹だ。兄である俺のことを基本的に舐めている彼女は、猫が相手を品定めしているような目線で俺を見た。
「おかえりアルクス! 元気だった!?」
「そうだぞ! たまには手紙くらい寄こしたらよかったのに!」
ひとしきり驚いたと思えば、今度は両親が駆け寄ってきて、俺の体をペタペタと触り始めた。
思えば、ここ最近は忙しくて手紙を出せていなかった。そのこともあって、かなり心配していたんだろう。
「「……って、女の子を連れてきてる!?!?」」
と思いきや、今度はライゼの存在に気づいて二人が腰を抜かした。忙しい二人組だな。
「初めまして。ライゼ・メイトランドと申します。アルクス君とは相棒をやらせてもらってます」
ライゼは恭しく頭を下げると、丁寧に両親に微笑みかけた。
おかしい。なんだか、いつもの彼女よりもやけに礼儀正しい気がする。それを指摘したら殴られる気がする。
「アルが女の子を連れてきた……」
「ってことは……」
「「結婚!?」」
両親が声を合わせて叫び、俺たちの顔を交互に見た。
「パパもママも早とちりしすぎだし。クソザコのお兄に彼女なんかできるわけないし」
後半部分には反感を覚えるが、ヒナの言い分に間違いはない。
「……とりあえず、部屋に上がってもいいかな?」
俺たちはいったん落ち着くと、リビングへと向かった。