122.明かされた真相
キングバジリスクとの死闘から翌日。俺はある場所に向かっていた。
建物に入り、手続きを済ませると、職員さんに目的の場所まで案内される。
無機質な白い壁の廊下を歩いていくと、職員さんに連れられたのは、とある部屋だった。
部屋の外観は、いたって普通の立方体のような形。しかし、部屋の中心には仕切りのようなガラスがあり、それを挟むようにして椅子が二つ置かれていた。
しばらく椅子に座って待機していると、仕切りの反対側の扉が開いて、一人の男が入ってきた。
「久しぶりだな。元気してたか?」
「――何の用だ、三下」
こちらをキッと睨みつけてくる鋭い眼光。以前に会った時よりもさらに短くされている青髪。
白と黒のボーダーの囚人服が彼の青白い肌によく似合っていて、俺は思わず笑ってしまった。
俺の目の前にいるのはバリーだ。
ここはオルティアの刑務所。俺は彼に話を聞くために、面会を申し出たのだ。
英雄闘技会の一件で逮捕されたバリーは、病院での療養が終わった後、しばらくここに捕まることが確定した。会うのは久しぶりだ。
「三下の分際で俺を呼び立ててんじゃねえよ、クソが。てめえの顔を見るとイライラするんだよ」
「結構なご挨拶だな。あと、俺の方が強いんだからそろそろ『三下』って呼ぶのやめてくれる?」
「てめえは一生三下だよ。ここから出たら最初にてめえをぶっ潰して俺の方が強いことを証明してやる」
いちいち嚙みついてくる狂犬のような態度。相変わらずな様子で、俺は内心で少しホッとした。
「何ニヤニヤしてんだよ。用件をさっさと言え」
「わかったよ。お前に聞きたいのは他でもない――攻略班についてだ」
バリーが一瞬、ハッとしたような表情になる。ビンゴだ。
ローラが去り際に残した不可解な言葉の意味を調べたい。そう思った俺は、S級冒険者の彼に話を聞くことにしたのだ。
S級ならきっと、攻略班とも何か関わりがあるんじゃないかと思った。そうでなくても、俺が知らない何かを知っているかもしれない。
「……てめえがなんで攻略班について嗅ぎまわってる?」
「今、攻略班がこの街に来てる。俺は攻略班に入って、ダンジョンの奥に行きたいんだ。でも、それを言ったらローラが……」
俺は事の顛末をバリーに告げた。すると、彼はわかりやすく大きなため息を吐き始めた。
「……というわけなんだ。何か知らないか?」
「お前、そういうところだぞ。だからいつまで経っても三下なんだよ」
なぜか落胆されてしまった。
どういう意味なのか聞こうと思ったとき、バリーが言った。
「……教えてやる。攻略班は43層を超えるだけの実力を既に持っている」
バリーの言っている意味がわからなかった。攻略班は今回、灰のダンジョンの43層を攻略するために街に来たはずだ。
「ローラの実力を見ただろ? お前はあれが43層で収まる器だと思うのかよ?」
正直、それは思っていた。
以前、俺とライゼが二人で25層を攻略したことがあった。ローラは、その時よりも強くなった俺とライゼを、たった一人で軽く打ち破ったのだ。
「じゃあ、ローラが言っていたことは、つまり――」
「ああ。今の攻略班は、43層を攻略するだけの力を持っている。そのうえで、手を抜いて停滞しているんだ」
その答えは、俺が予想したものと全く同じものだった。
だからこそ――逆説的に、それを否定したくなった。
「だとしたら何のために!? 攻略班はダンジョンを攻略するための組織なんだろ!?」
「ああ。だが考えてみろ。もしダンジョンを突破して、攻略班は解散、なんてことになったらどうなる?」
「それは――そうか、仕事がなくなる!」
攻略班は国が編成した組織だ。だから、現在は公務員という扱いで、おそらくはかなりの収入を得ているのだろう。
当然、攻略班が解散すれば給料は出なくなる。今の自分にそれと同じだけの額を稼ぐだけの力がなければ、生活レベルは落ちるだろう。
つまり、攻略班を解散させないためにダンジョンの攻略をあえて遅らせている奴がいる。
そいつはこれから年を取って、冒険者として活動できなくなるだろう人物。そして、ダンジョン攻略の進捗を管理できる役職の男。
「ゲルダ――あいつの仕業か!」
「そういうことだ。奴がトップに立っている限り、攻略班はまともな成果は上げられないだろうな」
全てがつながった。ローラは気づいていたんだ。そのうえで、俺を巻き込まないように警告をした。
攻略班を腐らせていたのは、班長のゲルダ。奴は国からの報酬を不当に手に入れ続けるために、ダンジョン攻略のペースを落としている――!
「ま、気が付いたなら攻略班からは手を引くことだな。あそこにはとんでもねえ化け物がゴロゴロいるってのに、上があれじゃどうにもならねえ」
「――いや、俺、やってみるよ」
「あぁ!?」
ゲルダが攻略班を腐らせているなら、彼をトップから外せばいいということだ。
ならば、うってつけの方法がある。おそらく、俺ならばそれができるはず。
あとは、ローラがそれに協力してくれるかどうかだが――彼女ならきっと助けてくれる。
決めた。俺は攻略班に入る。そして、攻略班の真の実力を引き出してやる――!
バリーが腐ってしまったのは、ローラの圧倒的な強さを見て自分の限界に気づいてしまったことが原因です、(詳しくは95話!)