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119/218

119.一難去ってまた一難

――


 レベルが47になりました。

 レベルが48になりました。


――


 頭に響いてきたのは、レベルアップを告げるメッセージ。

 さすがにあの強敵を倒せばレベルは2も上がるか。そのうえ、『スライムテイマー』のスライムの数が100だ。レベルの上がり方は飛躍的に伸びたはず。


「アルクスさん! すごいです!!」


 エレノアとイルザが歓喜の声を張り上げて駆け寄ってきた。俺は二人に手を振る。


「二人とも、本当に助かったよ。二人がいなかったら今頃……」


「そんなことないです! あんな激しい戦い、私たちじゃとても太刀打ちできませんよ!」


 エレノアは目を輝かせながら食い気味に俺を褒めてきた。イルザが頷いて同調の意を示す。

 確かに、さっきの戦いは激しいものだった。おまけに俺の強くなり方もこれまでと桁違いだ。


「アルクス様。こちらも完了しました」


 続いて、シノとトークもこちらにやってくる。二人の後ろでは、スライムたちがアイテムの剥ぎ取りをしているのが見えた。


「二人もお疲れ様。おかげでこっちの戦闘に集中できたよ」


「もったいなきお言葉。ところで、この男への処分はいかがいたしましょう?」


 見ると、シノの右手には、ゲルダの服の襟が掴まれていた。地面に引きずられる形で、ゲルダがシノに捕まっている。


「おい! 放せ小娘! 私を誰と心得てるんだ!!」


「……誰が小娘ですって?」


「ヒィッ!?」


 シノの鋭い眼光に当てられて、ゲルダがブタの鳴き声のような悲鳴を小さく上げた。


「シノ、悪いけどそいつを放してくれるか?」


「……アルクス様がそう仰るのなら」


 シノはパッとゲルダの襟を放す。解放されたゲルダはゲホゲホとむせると、俺たちをキッと睨みつけてきた。


「ゲルダ。さっき俺たちに言ったことは忘れてないよな? 二度と俺たちに偉そうな口は利くなよ?」


「……はぁ? 何を言ってるんだ貴様は?」


 ゲルダは地面に尻餅を突きながら、下卑た笑いを浮かべた。


「私は確かに、『命令はしない』と言ったが、貴様らに偉そうな口を利かないなんて言ってない。貴様らが私よりも下等な冒険者であることには変わりはない!!」


「うわあ……反省しない奴って本当にいるんスねえ……」


 トークがドン引きして声を漏らした。しかし、ゲルダは悪びれる様子すらない。


「ハハハハハ!! さっきはよく私を守ってくれたな! ご苦労だった!」


「……アルクス様、いかがいたしましょう? やはり始末しましょうか?」


「……いや、いいよ。こいつの相手疲れるから」


 ゲルダの笑い声が草原エリア一帯に響き渡る。俺たちが冷めた目で彼を見ていたその時だった。


「グエエエエエエエエエエエエ!!」


 一瞬、聞き間違いかと思った。なぜなら、その鳴き声が聞こえるはずはないのだから。

 しかし、そんな俺の希望は刹那のうちに打ち消された。地面が揺れる。俺は慌てて声がした方を見た。


 こちらに走ってきているのは、見間違えるはずもない、キングバジリスクだ。さっきの個体は確実に死んだはずだから、あれは――


「キングバジリスク……二体目だ!!」


「ヒィィィィィィィッッッ!!」


 ゲルダの高笑いが一瞬で戦慄の声に変わる。状況が一変した。俺たちは再び緊張感を高める。


 戦おうかと思ったが……今、ここにいるメンバーは全員疲弊しきっている。俺も、土壇場で力を発揮しただけで体はボロボロだ。

 まともにやり合うわけにはいかない。つまり、今向かってきているキングバジリスクに対する打ち手は――


「皆、逃げるぞ!!」


 俺の号令とともに、その場にいる全員がキングバジリスクに背を向けた。持てる限りの力を振り絞り、走り出す。

 ――ゲルダを除いては。


「ヒッ、ヒィィィ!! おい貴様ら何をやってる!! 私は怪我をしてるんだ!! 私を置いていくな!!」


 ゲルダは慌てて立ち上がろうとするが、足がもつれて這いずるような動きしか出来ていない。

 俺たちは奴に構わず、ドンドン前へ足を進めて行った。冒険者ならまずは自分の命を守るのが当たり前だ。


「う、うわああああああ!! 誰か、誰か!!」


 ゲルダの体を黒い影が覆った。ゲルダのすぐ目の前までキングバジリスクがやってきて、彼を踏みつぶそうとした。


 ――その時だった。滝を真っ二つに割ったような激しい轟音が鳴り響くのが聞こえた。キングバジリスクではない。


「なんだ……?」


 俺たちは驚いて足を止めた。そして、現場を見てその音の正体を見つけた。


「ギ、ギエエエ……」


 キングバジリスクは、まるで野菜のようにその体を切り裂かれており、うめき声と共に絶命した。奴の巨体が地面に倒れると、足元が大きく揺れた。


「……怪我はないか」


 剣を鞘に納め、キングバジリスクを倒した人物はゲルダに語りかける。

 その人物はローラだった。たった一撃であのキングバジリスクを倒すと、クールな表情のまま、ゲルダを見据えた。


「で、でかしたぞローラ! 班長を守るとは、よくできた班員じゃないか!!」


 その言葉を聞くと、ローラはもはやゲルダに興味を失ってしまったのか、黙ってこちらに歩いてきた。

 イルザは全くの初対面のはずだから、おそらく俺に話しかけに来ているのだろう。しかし、何を言うつもりなんだ……? 緊張して、俺は生唾を飲んだ。


「遅れてすまない。約束(・・)より大幅に遅刻してしまった」


 約束……? その言葉には違和感があった。俺はローラと約束なんかした覚えがない。

 意味が理解できず、ますます俺は緊張感を高めたが……すぐにその言葉の意味は理解できた。


「ううん! 大丈夫! でも、もうこっちは片付いちゃったよ!」


 ローラに返事をしたのは意外にも、エレノアの方だった。


「なんたって、アルクスさんが全部解決してくれたもんね!」


 呆気に取られている俺の肩を、エレノアがポンと叩いた。まさか、と俺は息を呑んだ。


 ローラとエレノアって、知り合いなのか!?

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