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117.限界を超えた先に

「うおおおおおおおおおお!!」


 俺は剣を握ると、下から斬り上げる様にして緋華を振った。

 炎を纏った斬撃がバジリスクの巨体にぶつかり、ニワトリを絞め殺したような悲鳴が上がる。


 手ごたえはある。ダメージは確実に入っているはずだ。

 なのに、奴の動きはさらに激しさを増していく。まるで馬が鞭を打たれて勢いを上げるように。


「グガアアアアアアア!!」


 さらに接近して剣を突き刺そうとしたその時、バジリスクが懐にいる俺を睨みつけ、頭を思い切り上げた。

 次の瞬間、奴の口が白く光るのがわかった。さっきの光線か!


「同じ手は二度は食わないぞ!!」


 俺は素早く右手を前に出すと、咄嗟に<スライジング・バースト>を発動する。

 以前ゴーレムを倒した時のような大規模な一撃にするには魔力を練る時間が短すぎる。今回の威力は、全力の10%ほどだろう。


 眼前で、白い光が二つ、同時にぶつかり合う。反動で爆風が吹き、俺が激しく揺れた。

 二つの力は互いに拮抗し、激しい爆発を起こした。俺は地面を蹴ると、後方へと飛びのいて爆発を喰らわないようにする。


「キシャアアアアアアアアアア!!」


 爆発の煙が退くと、そこには爆発に巻き込まれてぐしゃぐしゃになったバジリスクの顔があった。

 血がダラダラと垂れており、目も当てられないほどグロテスクだ。


 ――だが、それでも奴が倒れる様子はない。むしろ、さっきよりもハイになっているようにすら見える。


「す、すごい……! アルクスさん、あのキングバジリスクと対等に戦ってます!」


「私たちじゃ、とても太刀打ちできない。これが、上のレベル……」


 エレノアとイルザの感嘆の声が聞こえてくる。一方、俺の頭はそれどころではなかった。


 こいつ、不死身なのか……? 普通のモンスターならとっくに倒せているはずなのに、あと少しのところで倒しきれない。


 ――いや、むしろ俺の一撃の威力が足りていないのか?


 確かに<スライジング・バースト>を使えばこいつを倒すことはできるかもしれない。でも、それにはかなりの時間が必要だ。

 後ろで控えているエレノアとイルザが時間を稼いでくれれば、撃てるかもしれないが――


 ゴーレムと戦ったとき、バリーは時間稼ぎのためにボロボロにされた。あんな思いはもう、二人にはさせたくない。


 バジリスクに剣を振るいながら、俺はローラと戦ったことを思い出した。

 あの時も、ローラに攻撃が届いていない感触があった。<スライジング・バースト>を撃とうにも、時間が足りない。かといって、他の手立てではローラに通用する攻撃はできない。


 時間をかけずに、バジリスクを倒せるくらいの技を撃つ。でも、どうしたらそんなことが出来るんだ――!?


「うわっ!」


 その時、俺の一閃をバジリスクが右腕で薙ぎ払って相殺し、もう片方の腕で俺の体を吹っ飛ばした。


 俺は地面を転がり、素早く起き上がった。土埃を払い、素早く剣の切っ先をバジリスクに向ける。


「アルクス、ここは私たちが!」


 態勢を立て直す時間ならば、とイルザとエレノアが前に出て俺を庇った。

 だが、二人では持って数秒だろう。これでは焼け石に水にしかならない。奴の速度は<人間>を上回る勢いだ。


「…………あれ?」


 その時、視界が眩むのを感じた。まるで貧血でも起こったように。俺は膝から崩れ落ちてしまった。


「アルクスさん!?」


 エレノアが俺の方へ振り返るのが見えた。しかし、体に力が入らずに俺はそのまま気を失ってしまった。



 目が覚めると――そこはノアの花畑だった。花に囲まれて仰向けで倒れていた俺は、慌てて飛び起きた。


「なんでここに……? ノア! どこにいるんだ!?」


「私ならここにいますよ?」


 ノアはすぐ隣にいた。起き上がった俺のすぐ隣で、きょとんとした顔でこちらを見ている。


「ノア! 今はマズい! 早く元の世界に戻らないと!」


「え? 私は呼んでませんよ? アルクスさんの意志でこっちに来たんじゃないんですか?」


 違う。俺はその場で気を失ってしまっただけだ。戦闘中にノアに会いに来たつもりなんてない。

 しかし、ノアは本気でわからないといった表情でこっちを見ている。


 本当に、俺が自分の意志でここに来たのか? だとしたらなんで――


「アルクスさん、一度状況を説明してくれませんか? もしかしたら何かわかるかもしれません」


「そ、そうだな……」


 ノアは地べたに正座をして、俺の話を聞いてくれた。状況が状況なだけに、俺はかいつまんで要点だけを伝える。

 今、キングバジリスクと戦闘中だということ。このままではイルザとエレノアが危ないということ。そして、奴に有効な技がないということ。


 すべて話し終えると、ノアは妙に納得がいったという表情で頷いた。


「なるほど、アルクスさん。やはり、アルクスさんがここに来たのは、あなたの意志です」


「でも、本当に心当たりがないんだ。一刻も早く戦わなくちゃいけないのに……」


「アルクスさん。あなたは『新たな力』を欲している。そうではありませんか?」


 言われて、ハッとした。彼女の言う通り、俺はキングバジリスクに対抗できる力を求めている。


「あるのか!? 新しい力!?」


「はい。……と言うよりかは、アルクスさんは力を手にすることができます」


「手に入れることができる……? どういう意味だ?」


 理解ができない俺に、ノアは続けた。


「アルクスさんがこれまで、新しい力を手に入れたのはどんな時でしたか?」


「レベルが上がった時……?」


「そうです。でも、レベルが上がった時だけ強くなるのはおかしいですよね?」


 意味が分からない。スキルが強くなったのも、新しい能力を手に入れたのも、レベルが上がった時だ。


「もしレベルが上がった時だけ強くなれるなら、10歳で勝手にスキルに目覚めるのはおかしいです。それに、アルクスさんが<人間>を発現した時は、レベルアップを伴っていませんでしたよね?」


 確かにそうだ。これまでの人生でいくつか例外はあった。

 でも、それと今の状況に何の関係があるんだ……?


「人が新しい力を手に入れるときは、レベルアップの瞬間だけではありません。限界を突破した時(・・・・・・・・)。そう定義できます」


「限界を突破……?」


「アルクスさんは、向こうで<人間>を多用したのではないですか? そして、それはアルクスさんの限界を突破していた。つまり、成長の条件を満たしている」


 それは、常識を打ち破るような言葉だった。人が強くなるのはレベルアップの時。それは誰もが知っていることだからだ。

 でも、なぜか納得ができる。これまでも数々の局面を超えて、感覚で理解していたのかもしれない。


 それに、ローラのことも説明がつく。俺と彼女でレベル差が格段にあるはずがない。だが、彼女は圧倒的に強いのだ。

 それは彼女がこれまでに限界を何度も超えてきたから。彼女の剣はそれを物語っていた。


「……ありがとう、ノア。俺、行ってくるよ!」


「気を付けてくださいね。また遊びに来てくれるのを待っていますから」


 本当ならもう少し、ノアと話していたかったが、時間の流れが怖い。俺は再びその場に倒れ込むと、目を瞑った。


 俺は、自分の意志でこの場所に来ることを求めていた。それは、俺の心がさらなる力を求めていたから。

 きっと、ノアならヒントをくれると本能で理解していたんだろう。それは正解だった。


 そして――俺は新しい力を手に入れる条件を満たした。


「来い!!」


 ノアの花畑と現実世界の狭間。真っ暗な世界で、俺は叫んだ。


――


 <スライム>の能力が強化されました。


――

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