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007.【魔掌握】の弱点

「それは、シルフィさんが持つユニークスキル【魔掌握(ましょうあく)】の影響で、マイナススキル【遅詠唱(ちえいしょう)】が発動するからです」


 エミリィさんの発言はちゃんと聞こえたが、どうにも内容が上手く入ってこない。

 えっと……【魔掌握】と【遅詠唱】だったか? 俺が少し不思議そうな顔をしているのに気付いたエミリィさんは、すぐに説明をしてくれる。


「【魔掌握】というのは、魔法の特性を把握するだけで習得出来るというものです。条件としましては、魔法名とその効果を知れば習得できます。そのため文献などに記載された魔法でも、魔法名と効果がわかれば習得可能となります」

「……それは凄い……」

「………………」


 純粋に凄いと思ったのだが、何故かシルフィさんの反応は良くない。これは多分、もう一つのマイナススキルが大いに足を引っ張っているからだと思う。


「そして【遅詠唱】ですが……本来の魔法発動に必要となる詠唱時間が、魔法の難易度に比例して長くなってしまうものです。例えば火属性の【ファイア】ですと……すみませんシルフィさん、どの位でしたか?」

「ファイアは2倍、ファイアボールは3倍、ファイアストームは5倍……」


 シルフィさんは淡々と……でも、やはり悔しそうな表情で応えてくれた。


「……ありがとうございます。そういった事情のため、シルフィさんは他の方よりも近接の護衛が必要となります。ですがその……【遅詠唱】は使用魔法が強力であればあるほど、詠唱時間が延びていきます。なので最初は皆さんパーティーを組んでくれるのですが、次第に離れていってしまうという状況なのです」


 なるほど、おおよそ理解できた。クエスト難易度が低い頃は、【魔掌握】の恩恵で魔法手段が強みとなる。だが徐々に難易度が上がれば、自然と強い魔法を多用していくことになっていく。そうなれば【遅詠唱】の影響で詠唱時間は増加の一途を辿る。結果、徐々に皆が彼女の元を離れていくというわけだ。


「事情は理解しました。ですが、やはり俺が指名された理由がわかりません」

「そうですね。では次にそちらの説明を致します。ハッキリ言ってしまいますが、このギルドでアスカくんより強い剣士はおりません」

「「…………」」


 エミリィさんの言葉に、俺もシルフィさんも言葉を発しない。俺の心情としては「そうなんだ……」という感じだが、彼女はどうなんだろうか。


「そしてシルフィさんも、確実に身を守る護衛がいるならば、このギルドでは最強の魔法使いと言ってよいと思います」


 思わずチラリと視線を向けると、シルフィさんは無表情ながらもどこか誇らしげな瞳をしているように見えた。


「要はシルフィさんが全力を出せる護衛が、アスカくんを置いて他に居ないのです。それにアスカくんの人間性は、私は重々承知しています。そこを踏まえて信用に値すると思って推薦しました」

「えっと……ありがとうございます?」


 信頼されているというのは嬉しいけど、少しばかり照れくさい部分もある。とりあえずお礼を述べたけど、シルフィさんがどこか楽しげに見てるのが気になる。


「他にも理由はありますが、アスカくん以外には精神的にも実務的にも無理だと判断しました。そして……」

「……そして?」

「お二人……特にアスカくんは、このままではずっとソロのままですよね。やはりギルド職員としましては、パーティーを組んで頂きたいのです」


 そう言って頭を下げるエミリィさん。彼女は俺が討伐クエストへ行くようになってから、常々心配してくれていた。


「わかりました。シルフィさん、よろしくお願いします」

「……いいの?」


 少し声を震わせて伺うように聞き返すシルフィさん。そんな彼女に俺はハッキリと自分の考えを告げる。


「まだシルフィさんのことはよく知りませんが、エミリィさんが紹介してくれた人なので信用しています。俺の事も信用していただければと思います」


 俺は結構人を見る目はあると自負している。その俺が見たシルフィさんは、真っ直ぐで誠実に思う。色々あって人との関わりを最小限にしているが、決して他人を嫌悪するような人ではないと思う。

 じっと俺をみつめた後、すっと俺の方に手を差し出す。


「ありがとう。これから宜しく」

「はい。よろしくお願いします、シルフィさん──」

「シルフィでいいわ、これからは同じパーティーの仲間なんだから。敬語もいらない。私もアスカって呼ばせてもらうわ」

「……わかった。よろしくシルフィ」

「ええ、こちらこそ」


 彼女の手をしっかりと握り返す。その光景を「うんうん」と嬉しそうに見ているエミリィさんは、いつもよりも優しい笑顔を浮かべていた。






 そんな訳で俺はシルフィとパーティーを組むことになった。なのでギルドのカウンターへ戻りパーティー申請をしよう……という話になったのだが。


「ねえ、パーティー名ってどうする?」

「ん? あー……そうか、パーティー名か……」


 聞かれて気付いたが、冒険者がパーティーを組んでギルドへ申請する場合、パーティー名も登録する必要がある。一応無記名は不可なので、大雑把なパーティーはリーダーの名前をそのままパーティー名にしている所もある。ただそういうのは少数で、大半は何かしら考えて名前が付けられている。

 とりあえず俺達は申請前に、ギルド内に置かれてたテーブルに着く。そんな俺達を見た冒険者達は、好奇の視線を向けてなにやら話をしているようだ。あまり気分の良い話じゃなさそうだし、今はどうでもいいか。


「アスカは何かある? 好きな言葉とか、目標にしている事とか」

「好きな言葉? んー……聞かれて即思い浮かぶような物は何もないかな。そういうシルフィはどうなんだ」

「私? 私は……そうね、何かこう前向きに進んでいくような……そんな感じを表すような言葉が好きかな」

「前向き……目標へ進む……」


 なんとなく響きの良さ気な単語を思い浮かべてみる。主に前世で得た単語や熟語なんかを反芻していくうちに、一つ浮かび上がってきた単語があった。


「………………『鵬翼(ほうよく)』」

「ホウヨク? どんな意味?」

「意味は『これから大きな事を成し遂げようとする』だ。“(ほう)”とはとある国に伝わる伝説の鳥だ。その大きな鳥の翼を指し示した言葉だが、転じて大きな目標を掲げて進むことをそう言うようになった。……どうかな?」


 そう提案してみると暫し考え込むが、すぐに顔を上げてこちらを見る。


「ならソレに『誓い』を付けてみたらどうかしら?」

「ふむ……『鵬翼の誓い』か。いいんかもしれないな」

「でしょ? じゃあ早速登録してきましょう!」


 善は急げといわんばかり、元気良くカウンターへ俺達は言った。そしてエミリィさんにさっそくパーティーの登録申請をする。


「パーティー名は『鵬翼の誓い』。メンバーはアスカくんとシルフィさんですね。えっと、リーダーはどちらになりますか?」

「ああ、それは──」

「アスカよ。アスカで登録して下さい」

「えっ?」

「分りました、アスカくんですね」

「ええっ?」


 驚いてる間にもサクサクと登録は進んでいき、


「……はい! これでお二人は『鵬翼の誓い』のパーティーメンバーとなりました。今後ともよろしくお願い致します」

「ええ、こちらこそよろしく」

「あ、えっと……はい」


 カウンターに返されたギルドガードには、パーティー『鵬翼の誓い』に所属していることが追記されている。ついでに俺がリーダーという印もだ。

 まぁ、別にリーダーだからといって何かするわけでもないしいいか。そう思っていると、シルフィが笑顔でこっちを見る。


「さぁアスカ。今からどうする?」

「俺が決めるのか?」

「ええ、そうよ。だってリーダーじゃない」

「……そうか」


 とりあえず討伐クエストへ行くのが普通の流れか。そう考えた時、俺はまだ自分のスキルについてシルフィに話してないことに気付いた。

 これから同じパーティーの仲間でもあるし、何より彼女は自分の抱えている秘密を話してくれたのだ。ならば俺も話しておいたほうがいいだろう。


「シルフィ、少し話しておきたい事が──」

「あら、“薄鈍(うすのろ)姫”じゃない。なぁに~? また懲りずに男捕まえてんのぉ~?」


 初めて耳にしたのに、妙に不快感を感じるような声が俺の言葉を遮る。それだけで十分怒りがわいてくるが、とりあえず声の方を見る俺達。

 シルフィの瞳が大きく見開かれる。


「シャーミット・エバーロイズ……」

「久しぶりねぇ、シルフィ・ネイバールード。うふふ……」


 そこには数人の男を引き連れた、一見して魔法使いだとわかる女性がいた。ただその表情は、相手を見下し卑しい笑みを浮かべているかのようだった。



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