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006.突然のパーティー申請

 翌日、冒険者ギルドでいつものように受付のエミリィさんのところへ。

 昨日話した追加報酬だが、10体のところ56体の討伐だった為46体を通常買い取りしてもらった。おかげで元の依頼報酬よりも多くなった。


 この後は『ゴブリンの群れ討伐』へ行った。フォレストウルフ討伐よりも1ランク上のEランク討伐だったが、特に問題なく達成できた。

 ちなみに討伐したゴブリンは23匹となったが、フォレストウルフと違って素材用途がほとんど無い。なので討伐証明となる部位を持ってくればいいのだけど、俺はストレージに十分納まるのでそのまま持ってきた。……実は解体が結構苦手だったりする。


 翌日以降もコボルトやオークといった魔物の討伐クエストをこなしていった。

 ようやく受けれるようになった討伐クエストも嬉しかったが、こうやって毎日手ごろな討伐クエストへ出かけると、一端の冒険者になったなぁという気持ちが強い。

 こうして俺は、毎日討伐クエストへ向かうという日常を始めたのだった。






 そんな日常に変化が起きたのは、初めて討伐クエストへ行って丁度一週間が経過した日だった。

 いつものように冒険者ギルドへ顔を出し、受付へ行こう……とした時。


「ちょっといいかしら?」

「はい」


 俺を呼び止める声がした。初めて聞いた声だが、向けられる視線は身に覚えが会った。初めての討伐クエストから戻って来た時から、毎日ここで感じていた視線だ。特に害もなさそうなので気にせずいたけど、向こうから話しかけてくるとは。

 とりあえず声の主の方へ視線を向ける。


「何か用ですか?」

「ええ。貴方に……アスカさんに話があるの。お時間いいかしら?」


 そこにいたのは俺とあまり歳はかわらない感じの女の子だった。この世界ではあまり見ない黒髪が印象的で、少しキツイ感じの表情でこっちを見ている。身体に合ったローブを纏い、手に杖を持っていることから間違いなく魔法職だろう。

 そんな彼女が俺を呼び止めたため、少しばかりギルド内で注目を集めてしまった。


「おい見ろよ、アレ……」

「あれってネイバールードのお嬢様か?」

「そそ、あの“薄鈍(うすのろ)姫”さ」


 だがそれは、俺じゃなく目の前にいる彼女に対しての視線だった。それに内容はよく分らないけど、どうやら何か誹謗しているように思う。

 それらの声に一瞬表情が曇るが、すぐに俺に対して視線を向けなおす。


「えっと、時間の方は大丈夫です。でもまずはエミリィさんに……」

「それなら平気よ。予めエミリィさんには私から話を通しておいたから」

「あ、そうなんですか」


 彼女の声や態度から嘘は感じなかったが、念のためカウンターのエミリィさんを見ると、こちらを見て笑みを浮かべ会釈を返す。どうやら間違いないようだ。


「わかりました。ではどうしましょうか」

「ギルドの一室を借りてあるわ。話はそこでするから、着いてきて」


 そう言って階段のほうへ向かっていく。そういえばここの二階、行ったことなかったなぁと思いながら彼女に着いて行った。






「まずは急な誘い申し訳なかったわね。私はシルフィ・ネイバールード、魔法使い。冒険者ランクはDよ」


 二階の部屋に入り、テーブルを挟んで座るとすぐさま話しかけて来た。改めて正面から見ると、いかにもな黒髪清楚美人って感じだ。表情が少しきつめに感じるのも、こうなってくると魅力の一つと言えるかもしれない。


「知ってると思うけど、俺はアスカ。職業は……これは剣士というのかな。冒険者ランクはCだ」


 そう自己紹介した後、彼女の名前で気になったことがあったので聞いてみる。


「それで、ネイバールードさんは──」

「シルフィでいいわ。ついフルネームを言ったけど、あまりそっちの名前は好きじゃないから」

「わかった。シルフィさんはその……貴族なのか?」


 名前に家名があるのもそうだが、彼女自身の身なりがそんな感じがしたのだ。それに先程彼女を見ていた冒険者が『ネイバールードのお嬢様』とか言っていた。

 だが俺の問いに、少しばかり不快そうな表情を浮かべる。


「今し方、そっちの名前は好きじゃないと言ったところなのに」

「あ、すまない。そんなつもりでは……」

「いいわ気にしないで。私の家は騎士爵よ、だから貴族ではないわ」


 表情とは異なり、どこかあっさりと言ってのける。先の事といい、あまり騎士爵の事は好いてないようだ。ただ騎士爵ということは、父親あたりが武勲をあげて授かったということだろう。

 基本的に騎士爵は、男爵の下ではあるが貴族が持つ爵位ではない。そして多くの場合、世襲制ではなく授かった当人のみの爵位だ。言ってしまえば使い捨てで、その子供にはなんら意味を残さない。

 ……とはいえ何もない庶民からすれば、貴族みたいなものなんだけど。


「了解した。それでは話を伺おう」

「……貴方、何だか歳のわりに大人っぽい話し方するわね」


 少しだけやわらかい声色でそんな事を言われた。確かに少し話し方が歳と相違あるかもしれないが、これは前世持ちという分とそこでの生き方によるせいだと思う。

 それにしてもシルフィさんは、俺の年齢も知っているのか。


「こちらの歳は知っているようだが、そちらは幾つなんだ?」

「これは失礼したわね。私は16歳、貴方の一つ上よ」


 なるほど一つ上か。外見はその辺りかと睨んだが、話してみてもう少し上かと思っていた。やはり家が色々あると、そういう感じに育つものなのか。


「そうか。すまない話がそれた」

「いえ……こちらこそ申し訳ない。本題に入らせてもらうわ」


 シルフィさんは小さく深呼吸をし、改めてこちらをしっかりと見据える。


「貴方とパーティーを組みたいと思っています。いかがでしょうか」


 真っ直ぐな目をこちらに向け、迷いの無い声でそう言った。

 シルフィさんは俺とパーティーを組みたいと? 一体それはどういう了見なんだろうか。ともかくその真意を伺わないと……そう思った時にドアをノックする音がした。


「どうぞ」

「失礼します、遅くなりました」


 シルフィさんが声をかけると、開いたドアからエミリィさんが入ってくる。何かなと思っていると、シルフィさんに促されて彼女の隣へ腰を下ろす。どうやらエミリィさんは彼女に呼ばれていたようだ。


「お話はどこまで行きましたか?」

「丁度今、私が彼とパーティーを組みたいと申し出た所よ」

「ああ、なるほど。わかりました」


 シルフィさんの言葉に対し、何の疑問を持たないところを見ると、やはりエミリィさんは予めこの事を知っていたようだ。そういえば話を通してあるって言ってたか。思ったよりもしっかり下準備してるんだな。


「えっと……よろしければ私の方から、詳細を説明致しますが……?」

「はい、お願いします」


 俺が色々と理解できてない事を瞬時に把握したのだろう。おそらくこういった場での進行はシルフィさんより上手そうなので、エミリィさんに説明をお願いした。


「まずシルフィさんがアスカくんとパーティーを組みたいと思っている。ここまではお話されましたね。では何故シルフィさんがアスカくんを選んだのか、そこから順番にご説明いたします」


 そう言ってシルフィさんを見ると、首を縦に振って頷く。どうやら彼女もエミリィさんにお任せするようだ。


「シルフィさんはご存知かと思いますが魔法使いです。ですが魔法使いという職業は、皆さん共通した弱点がございます。……分りますか?」

「……近距離戦闘と魔法詠唱の時」

「そうです。稀に近接戦闘も得意とする魔法使いはいますが、基本的には不慣れな事が多いです。また魔法詠唱は非常に集中力を必要としますので、そのタイミングは最も無防備になると思って間違いありません」


 その言葉にシルフィさんが神妙に頷く。魔法使いの共通弱点とはいえ、自身の弱みをあからさまに言うのはあまり気持ちの良い事ではないのだろう。


「なのでシルフィさんは信頼の置ける剣士とパーティーを組み、自身の持つ弱点を補う事に決めました。その事をご相談されましたので、私からアスカくんを推薦したのです」

「……なるほど、自衛の為に剣士が必要なのは理解しました。ですが、何故それで俺が選ばれたのですか?」


 ただ単に剣士というならば、俺以外にも沢山いる。それが何故俺なのかが疑問だ。それに、彼女は俺みたいに先日やっと成人したわけじゃない。少なくとも一年前に成人しているのだから、討伐クエストを受けるならパーティー経験くらいあると思うのだが。


「それは…………」


 エミリィさんは返答に困る様子をみせると、何か言いにくそうな表情でシルフィさんの方を見る。だがシルフィさんは少しだけ悲しそうな表情をするも、先程同様に首を縦に振る。

 その様子を見たエミリィさんは、軽いため息の後こう告げた。



「それは、シルフィさんが持つユニークスキル【魔掌握(ましょうあく)】の影響で、マイナススキル【遅詠唱(ちえいしょう)】が発動するからです」



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