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003.【剣召喚】の秘めた力

 冒険者のタリックと勝負をすることになった。

 場所は冒険者ギルドの裏にある訓練場で、どうやらこれに勝てばソロでの討伐クエストを認めてもらえるらしい。

 そういえばこの世界に来てから、魔獣や魔物とは戦ったことあるけど、人とやるのは初めてだな。普通に過ごす分には対人戦なんてそうそうないか。

 勿論前世では試合経験は幾度とある。ただ、俺の剣術は競技剣術じゃない。先祖代々からの相手を打ち倒す剣術だ。


 案内されて訓練場に入る。見れば騒ぎを聞きつけや野次馬とおぼしき観客が沢山いた。俺とタリックが訓練場の中央へ進み出ると、周囲から盛り上がりの声が飛ぶ。

 そして審判役のギルド職員が近づいてくる。


「タリックそれにアスカ。準備はいいか?」

「ああ、俺はいつでもかまわねえぜ」


 そう言う彼が握るのは、両手持ちのツーハンデッドソード。がっしりした体躯にあわせた大きな両手剣だ。

 なるほどツーハンデッドソードか。そういえば俺のCランク剣リストには入ってなかったな。後で追加しておこう。

 しかし……武器は訓練用に刃を落とした物とかじゃないのか。そう思っていた所、


「ちょっとタリックさん! なんで自分の武器を手にしてるんですか!」


 訓練場の隅で見ていたエミリィさんが慌てた顔でやってくる。ああ、やっぱりそういうのがちゃんとあるのね。


「何言ってんだ。これはコイツがソロで討伐クエストへ行けるかどうかの試験なんだろ? だったらそれ相応の難易度がなければ話にならねぇだろ。それとも何だぁ? 俺が手加減して甘々な採点で合格をくれてやるとで思ってるのか?」

「そ、それは……でも!」

「大丈夫ですよエミリィさん」


 それでもと言いかけたエミリィさんを俺は止める。確かに思うところはあるかもだが、タリックの言うことは間違っているとも思えない。下手にごまかした採点でクエストに出て、命を落としたらそれこそ問題だ。


「すぐに終わりますので、討伐クエストを用意しておいて下さい」

「……もう、わかりました。本当に……気をつけて下さいね」


 少し不安げな様子を見せながらエミリィさんは元いた場所へ戻る。そんな俺と彼女の会話を見ていたタリックは、明らかに不快な表情を浮かべる。


「さっさと武器を構えろクソガキ。まさかテメェ武器も持たずにやるつもりか」

「まさか。ちゃんと武器は使います」


 そういいながらも、さてどうしようかと考える。今の俺は【剣召喚】が一つ上がってBランクだ。とはいえ別にCランク武器でも構わないのだが、なんかこう……丁度いい塩梅の武器はなかったかなぁと思っている。

 基本的に史実に登場する武器は、ほぼ紛れることなくAランク武器だ。そうなると俺もCランクのツーハンデッドソードあたりでも……と思ったが。


「……よし、これならどうだ。【剣召喚】木刀!」


 俺の召喚により、目の前に一本の木刀が出現する。少し形が歪ならが、どうみても木製であり木刀と呼ぶしかない武器といえる。

 俺はそれをしっかりと握り…………うん、コレだ。まごうことなきあの(・・)木刀だ。

 いきなり木刀を出現させた俺にタリックは驚くも、すぐさま顔に怒りを浮かべる。なんかさっきからすぐ怒ってないか?


「てんめぇ、まさかそんな木の棒でやるってんじゃねえだろうな?」

「いや、勿論これで相手する」

「ふざけんなテメェ! ああ、もう怒った! 本気で怒ったぞ!」


 何だかタリックがエキサイトしているが、俺はそれを無視して木刀を握りそこから感じる刀の本質を感じてみる。…………うん、本当にいい感じだ。

 この木刀──かの巌流島(がんりゅうじま)で物干し竿とよばれた長刀と切り結んだ木刀だ。舟の(かい)から作ったといわれるこの木刀、見た目に反して重心が特殊で打撃武器としては恐ろしいほどの威力がある。


「おいおい、アレやるきあんのか?」

「なめられてるぞタリックー!」


 観客からも揶揄するような声しか飛ばない。だがまぁ、それが普通の反応だと思う。俺だってこんなやたら重いだけの木刀、普通ならまともに振り回す事が出来ないだろう。そればかりは、剣術の腕云々以前の問題だ。

 だが俺のユニークスキル【剣召喚】には、もう一つ大きな特徴があった。


「それでは両者とも、よろしいですね」

「ああ」

「はい」


 審判のギルド職員から、開催の最終確認を受ける。もちろんOKだ。


「始めッ!」

「うぉああああああ~~~ッ!!」


 開始の合図と共に、全力でツーハンデッドソードを打ち込んでくるタリック。Dランク冒険者だけあって、確かに単体の魔物ならば十分勝てる能力だ。

 だけど当然俺は魔物じゃない。『木刀』を握り、迫る剣に対して高速の横薙ぎを撃ち当てる。


 キィイイイイイイ~~~ン……


 木を金物にぶち当てる様な少し甲高い音が鳴り響く。


「な、何ッ!?」

「「「「えっ!?」」」」


 開幕即効の全力振りが、ただの横薙ぎにあっさりいなされたのだ。タリックだけじゃなく、周囲の観客からも驚きと戸惑いの声があがる。


「何だいまのは……。まさか俺の攻撃を切り払ったのか?」

「はい。振り下ろす刃の横腹を思い切り叩きました」

「なっ…………」


 俺の言葉に愕然とするタリック。彼が本気で振りおろす剣の横……そこに止まっているとみなせるほどの速度で木刀を叩きつけてそらしたのだ。その非常識ぶりは理解できてないかもしれないは、ただの一合で圧倒的な差を理解したと思う。


 俺のユニークスキル【剣召喚】の秘密……それは『剣裁きの再現』だ。

 不特定多数が手にする汎用武器ではなく、確実に所有者がわかり尚且つその人物についてもある程度の詳細を知っていると、召喚した剣をその持ち主と同等に扱うことが出来るのだ。

 この場合の木刀……この木刀の所有者といえば、かの有名な剣術家──宮本武蔵(みやもとむさし)

 その武蔵の話で、最も知られている巖流島(がんりゅうじま)の決闘。ここで彼が手にしたのがこの木刀だ。この取り扱いの難儀する木刀を、武蔵は電光より速い一撃で勝負を決めたと古い史料には記されている。その速い一撃が先程の横薙ぎだ。

 記録では武蔵は大柄な男で、その体躯ゆえにこの木刀を扱えたとのこと。今の俺はそれだけの豪腕が備わっているのと同等になっているというわけだ。


「続けますか? もしコレが頭に当たれば確実に致命傷となります」

「くっ…………ふ、ふざけるな!」


 明らかに動揺しているが、それを認めるわけにいかないと再度振りかぶってくる。ならば致し方ないと思い、俺は木刀をしっかり握りタリックの懐へ一瞬で飛び込む。その体捌きにタリックの意識がおいうちてこない。なのでそのまま、がら空きの横っ腹へ木刀を振りぬいた。


 バキィィィイイイッ!


「ぅがあぁっ~~~!!」


 木刀を90度回転させて、思い切り横っ腹を板でたたくように振り抜いた。猛烈な打撃音とともに、呼吸がままならないタリックの悲鳴が響く。

 吹き飛ばされたタリックは、数回転ころがって止まる。遠くにおちた武器を取りにいくどころか、その場で起き上がることすらしない。

 慌てて審判がかけより、そっと首筋などに手を当てると救護班を呼ぶ。その後、俺の方を見て手を上げる。


「勝者、アスカ!」


 静まった訓練場に審判の声が響く。そして数拍遅れた後、


「「「「うぉおおおおおお!!」」」」


 雷鳴のような歓声が響き、屋外なのに地揺れを感じるほどの震えがきた。驚いて周囲を見回すが、皆驚き感心したようにこっちに歓声と拍手を送ってくれている。

 その中にエミリィさんの姿も見えた。その笑顔はいつも俺が、ギルドの受付で見ている優しく安心する笑顔だった。






◆初出の剣◆


B:『木刀』

天下の剣豪とよばれる宮本武蔵が、巌流島の決闘に用いた武器。

舟の櫂を削って作った自作の木刀と伝えられている。

何故武蔵が木刀を使用したのかは定かではないが、巌流島の決闘を記した最も古い史料によれば、勝負の約束をした時点で既に木刀使用を公言していたとされる。

現存しておらず材質は不明だが、武蔵が八代城主に献上した木刀は勝負に用いた木刀を再現したものと伝えられており、その材質は赤樫(アカガシ)である。


C:『ツーハンデッドソード』

両手で扱う事を前提とした大きい剣の総称。

ドイツのツヴァイヘンダーと呼ばれる剣も同意とされる事が多い。

単純に長いだけでなく、刀身の根元付近は刃がなく握って短い剣として取り扱うことも可能だった。その為距離の死角は無いが、その分技術のいる武器でもあった。


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